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「日中の主張」東シナ海ガス田問題 [国際法・国際関係]

前回に引き続いて、東シナ海境界画定の法理です。今回は中間線が引かれたのちにどのような関連事情が考慮されるのか、ということです。

「関連事情」では何が考慮されるのでしょうか?

判例に照らして考えれば、「関連事情」は地理的要因、非地理的要因に分けてられます。

地理的要因とは、係争海域の地理的形状・特徴、島、島状形状物などであり、ICJはこうした地理的要因を重視する傾向にあります。

特に、リビア・マルタ大陸棚事件など多くの判例で考慮されているのが、海岸線の距離による均衡です。一般に、短い海岸線しか無い国家の協会は狭まります。これは大陸と島の場合によくあることっですが、判例では境界線を中間線よりも島側に引くことが多いと、見られます。

一方、非地理的要因、地質的・海洋地形的要因、安全保障上の考慮、経済的要因、石油コンセッションの認可、当事国の行為が及ぼす効果(黙認、禁反言)、第三国の利益などがありますが、地理的要因に比べれば、相対的に低い扱いを受ける傾向にあると言えます

しかし、これに関しても、比較的近年の1993年のグリーンランド・ヤンマイエン事件など、シシャモ漁といった経済的事情・資源を重視して考慮したと思われる判決もあるので、かならずしもはっきりしないところがあります 。


 以上、境界画定に関する法理を踏まえたうえで、日中両国の主張を見てみたいと思います。

 最初に、日本の海洋政策についても言及しておきたいと思います。

 戦後日本は公海自由の原則の立場を堅持しており、領海3カイリを主張し、大陸棚・EEZという戦後新たに提唱された海洋制度について、一貫して反対し続けました。

 こうした政策が変更されるのは、第三次国連海洋法会議において日本以外の国家が領海12カイリ、大陸棚・EEZの承認をするに至ってからでありまして、同会議において最終的にこれらの新海洋法秩序を承認することとなりました 。

その後、1977年の領海法を制定、1996年に排他的経済水域及び大陸棚に関する法律を制定し、現在日本が主張する日中中間線を引きました。

 この中間線は境界画定までの暫定線として引かれたものであり、1996年の法律は実際の境界が中間線以東になることも、以西になることも否定しておりません。

 政府答弁によると、日本は「UNCLOSの関連規定、リビア・マルタ大陸棚事件

などの国際判例、日中両国の領海基線間の距離等を考慮すれば、日中間の

ように双方の距離が400カイリ未満の海域においては、中間線を基に大陸棚の境界を画定すべきと」

の立場を主張しています。

 日本は、大陸棚条約で規定されるよな等距離・中間線原則を主張しているのではありません。中間線を「基に」とあるように、そして、リビア・マルタ大陸棚事件を公式見解で言及しているように、中間線はあくまで暫定的な線であるという立場です。

「基に」というのは境界をなるべく中間線寄りに引きたい、という意図とともに、交渉による解決を図る場合は、多くの場合中間線である、という事情によるものであると考えられます。

一部報道で、中間線が正しい境界であるかのような記述があるが、これは正しくないし、政府の公式見解とも異なります。

マスコミの人は無駄に問題をあおるようなことをやめるできです。


次に中国の見解を見ていきたいと思います。

中国は1992年に「中華人民共和国領海法及び接続水域法(領海法)」を制定しています。ここでは、尖閣諸島、台湾、澎湖島、南沙諸島、西沙諸島、東沙諸島、黄海の大陸棚も東シナ海の大陸棚等も全て、中国領だと定めており

14条では「中国の領海および接続水域」に許可なく入ってくる外国艦船を排除し追跡する権限を、中国海軍の艦艇および航空機に与えると明記されています。

 東シナ海の境界画定についての中国の主張は「領土の自然の延長」という概念に基づいたものであるとみることができます。

 即ち、北海大陸棚事件から確認されるように大陸棚の性質は「領土の自然の延長」であり、

 したがって、その境界画定は中間線のごとき杓子定規的な距離基準で決めるべきものではなければ、中間線原則は北海大陸棚事件により否定されているものである。

 東シナ海の境界画定は、当然大陸棚の自然延長または一方に大陸があり、他方に島があるというこの対比関係などの東シナ海の特性を踏まえて行うべきであり、従って中国大陸からの大陸棚が自然延長している地域、即ち、沖縄トラフまでが中国の管轄が及ぶ大陸棚である 。

 しかし、すでに検討したように自然の延長論は、近年の国際判例から見てその妥当性を失っていると見るべきです。

 中国はUNCLOS76条1項では大陸縁辺部の外縁が200カイリを超えて存在する場合だけでなく、「大陸縁辺部の外縁が・・・200カイリまで延びていない場合」にも自然の延長の要素が働くとしています。

 しかし、この条項は距岸200カイリ以内に大陸縁辺部の外縁が存在して否場合の大陸棚を排除しようとする論理であり、立法の趣旨、また、「用語の通常の意味」からしても妥当性を欠いたものと言わざるを得ないのです。

 ところで、中国は日本以外にもEEZ・大陸棚が接触する国家があります。北朝鮮・韓国、そしてベトナム・フィリピンなどです。

 北朝鮮はEEZについての権利を主張するための法律を未だ作成してないが、境界線は等距離・中間線原則に基づいて引かれるべきであるとしていています 。

韓国は1996年にEEZ法を制定しました。これによると、韓国は境界は合意によって形成されるべきであるし、韓国の権利は中間線を越えて行使することはないことを規定し、等距離・中間線原則を重視していることが確認できます 。

 一方、中国は北朝鮮・韓国に対しては衡平原則による境界画定を重視しており、等距離・中間線原則は境界画定のための一つの方法であると考えているとされています 。その当否はともかく、日本に対して自然の延長を主張する中国のダブル・スタンダードであるといわざるを得ません

 南シナ海は中国の境界画定問題のうち最も複雑です。5以上の国家の間において、かつ、海洋境界画定問題だけでなく、島の領有権問題もあわせて存在する複合的な問題であるからです。中国は1993年からベトナムと海洋境界の交渉を行い、2000年にトンキン湾及び南シナ海における問題について合意を達成しています。

 近年、中国は自然の延長論を境界画定に用いるのは困難であるということを認識するようになり、それ故に(海岸線の長さの)均衡性を主張の根拠に置くことを検討するようになりつつある、という指摘も存在しています 。

 しかし、公式にはそうした主張はまだ採用されていません。また、EEZについては中間線を認めつつあると思われます。

 だが、そうすると日本とEEZと大陸棚で異なる境界を持つことになる。これは必然的に法の執行、および、管轄権の行使に際して困難を生じさせる結果となると考えられます。


以上で、検討終了です。果たして日中間の境界はどのように引かれるのでしょうか?

次回、私なりの意見を述べてみたいと思います。今までの考察から、大体想像はついておられるのではないかと思われます。

ということで今日は終了。


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