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「日中中間線は正しい線か?」東シナ海ガス田問題 [国際法・国際関係]

色々論点も多いですが、最初は境界画定から。

 

国連海洋法条約には排他的経済水域(以下、EEZ)と大陸棚に関する規定がありまして、

EEZを「領海を超えてここに接続する水域であって」、沿岸国の「基線から200カイリを超えて拡張してはならない」と規定し、

大陸棚を「領海を越えてその領土の自然の延長をたどって大陸縁辺部(continental margin)の外縁まで延びている海面下の区域の海底及びその下」を規定する一方、「基線から350カイリを超えてはならず、また、2500m等深線から100カイリを超えてはならない」との制限を加える規定としました。
また、大陸縁辺部の外延が基線から200カイリ未満の場合は200カイリまでの海底及びその下とする、ということも合わせて規定しています。

これまでは大陸棚条約で、大陸棚を「海岸に接続しているが領海の外にある海底区域であって、水深200Mまでのもの、またはこの限度を超えているがその天然資源の開発を可能にする限度までであるものの海底」とし、開発可能性を基準として取り入れた基準を採用していたことをみると、大陸棚、という自然の延長という地形よりも距離的な視点から大陸棚を再定義していることがわかります。

以上のように、大陸棚・EEZが規定されている一方で、当然その海域が他国の大陸棚・EEZとぶつかり合うことが容易に推定されます。問題の東シナ海はまさにそのような海域ということになります。多くの場合、境界画定は関係国の交渉と合意によって行われることになり、日中間でも最終的にはそのようになると考えられます。

しかし、境界画定は関係国の資源配分にもかかわる問題であり、合意が形成できない場合もあります。そこで、国連海洋法条約は海域の境界画定についてどのように定めているが問題となります。


 大陸棚の境界画定は常に同じ基準で考慮されたわけではありません。かつての大陸棚条約、国連海洋法条約、そして判例をがそれぞれ相互に影響しながら現在の法理が存在しています。その法理も法理というには曖昧な部分も多く、確定的ではなく、今後も変遷する可能性があります。


 国連海洋法条約が成立する前にも、大陸棚について定めた、最初に大陸棚条約を参照しますと、

大陸棚の境界画定は合意を原則としながらも、合意がない場合には特別事情が存在しない限り、向かい合っている海岸の場合は中間線、隣り合っている海岸の場合は領海基線上の最も近い点から等距離にある線としています。

しかしながら、北海大陸棚ICJ判決はこの等距離・中間線原則の慣習国際法性を否定しています。同判決は、境界確定に確立した慣習法原則は存在しないとしながらも、

境界画定は衡平原則によって、あらゆる関連事情を考慮しながら、「領土の自然の延長」に基づき、合意によって形成されるべきであるとしているのです。


 北海大陸棚のICJ判決はUNCLOSにも影響を与えることになります。国連海洋法条約を作成するために開かれた第三次国連海洋法会議では、北海大陸棚事件では否定された、等距離・中間線を原則とするべきである、という主張と、衡平原則に基づくべきである、という主張が真っ向から対立しました。この対立は最終的に決着がつかず、大陸棚・EEZの境界確定について、

「衡平な解決を達成するために、国際司法裁判所規定38条 に規定する国際法に基づき合意により行う 」

と規定するにとどめ、問題を「後の慣行 」に委ねることにしました。


ということを踏まえまして、以降、それから後の判例を見てみます。

 

 境界画定の法理については確立したものが存在しているわけではありません 。しかし、判例の積み重ね、諸国の境界画定条約の実行が積み重なり 、ある程度の予測可能性が与えられつつあるのが現状です。


 初期の判例では先にも挙げた1969年の北海大陸棚事件があります。この事件では等距離原則は向かい合う沿岸の境界画定には合理的であるが、隣り合う関係の場合には必ずしもそうはならないので、基本原則はとはならないとされました。

その後の判例でも、等距離・中間線原則が基本原則として認められたことはありません

この意味で、境界は中間線が正しい線だと思っている人がいたらそれは間違いです。

その代わりに衡平原則 が強調されており、後の判例でも踏襲されています。同判決は、大陸棚が「領土の自然の延長」であることも強調しています。


 そこで、衡平原則とはどのようなものか、ということが問題となります。海洋法条約で、衡平原則派の主張が完全に認められなかったことにかんがみれば、衡平原則の位置づけは絶対的なものということはできません。

 1982年のチュニジア・リビア大陸棚事件では、衡平な解決こそが至上命題であり、これに貢献する原則が衡平原則である、ということが示されました。つまり、衡平な解決という「目的」こそが重要であり、この目的にかなう限りにおいて、等距離原則も衡平原則足りえることになる、ということです。

 そして、この意味において、衡平原則と等距離原則は対立するものではなく、衡平な解決という目的のために相互補完的に見ることが可能となります。

 1982年に採択された国連海洋法条約ではEEZ制度が成立し、大陸棚の規定も距離的なものに変容しました。このことは境界画定の法理にも強い影響を与えることになります。

 このことを明確に指摘したのが1985年のリビア・マルタ大陸棚事件です。この事件では、当時未だ発効していなかった海洋法条約の大陸棚、EEZの規定を慣習国際法上も認められた法規であるということを認めたうえで、次のように述べています。


 即ち、「UNCLOSに規定される大陸棚とEEZという二つの制度は相互に結びつくものである 。ICJはEEZが慣習国際法として認められたこと、および、UNCLOSの規定によればEEZの海底は常に大陸棚となることから、EEZと同様に大陸棚にも距離基準が適用されなければならないと判断した。」

 そしてICJはリビアとマルタの係争海域においては暫定的であることをことわりながら、中間線を境界画定の出発点として判断を行っています。


 では、等距離・中間線基準は境界画定の基本となるのでしょうか?リビア・マルタ事件判決では、中間線を一般的な基準としたということを認めている、と読むことは、論理の飛躍があります。ICJは北海大陸棚事件のおいて述べた「自然の延長」を相対化したが、「自然の延長」を否定しているわけでもありません。

 ICJは一貫して、少なくとも表面的には等距離原則に境界画定の基本的地位を認めない建前を崩していないのです 。つまり、等距離・中間線基準の適用は義務的ではないということになります。北海大陸棚事件の場合のように、等距離・中間線を基本的な基準とすると困難が生じるケースが存在するからだと思われます。ICJは「事情により」という個別の場合ということを断って、かつ、暫定的なものとして、等距離・中間線基準を用いているのです。つまり、衡平原則が具体的な適用の場面において中間線を基本とする「傾向」は認められるものの、確定的に中間線を基本的な法原則として承認しているわけではない、ということです。


 その上で、ICJは衡平の原則に基づいて、「関連事情」考慮して、衡平な結果が達成できるように境界画定を行わなければならないと判断しています。そして、ICJでは関連事情を考慮して境界をずらしています。


そこで、「関連事情」がどのようなものなのか、ということが大事になりますが、

今回はもう長いので、以下次号、ということで・・・


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