SSブログ

歴史認識問題2 [国際法・国際関係]

前回の続きで、つらつらと。

最近ブームなのか知りませんが、東アジア共同体の動きが紙面をにぎわしています。これと歴史認識との関係が問題となります。

中国がここで歴史認識、靖国問題を外交カードとして援用しているのは明らかです。この問題で日本を孤立させようとする意図です。ただ、ここで注意しなければならないのはASEANにおいてこのカードがどれほど有効か、ということです。現実的には中国に倣って、歴史認識を問題しようとする国は今のところあまりありません。ただ、それが日本の意見に賛成してるということではなく、認識としては中国に近い、即ち、日本は歴史を反省しているわけではない、と思っていることも事実です。またASEANといっても一枚岩ではないし、また国内勢力においても違いがあります。特に華人勢力は中国に近いです。

つまりASEANはこの問題は日本と中国で何とかするできものとして突き放しています。ASEANが中国に傾斜しているという意見もありますが、これは正しい見方ではありません。ASEANは中国を警戒しています。また、中国もミスをしています。昔、中国は東アジアのフォーラムの議長を求めたことがあります。大国が議長を求めるのは国際政治では行ってもうまくいかないのは明らかで、中国も当然認めてもらえませんでした。経済的に中国の重きが増しているのは確かですが、政治的にはまだまだこんな状態です。中国が胡 錦濤ではなく会議に温家宝首相を出席させているのもASEANを怒らしているようです(中国の機構として当然なのらしいですが)。

ASEANはできれば日本に中国を押さえる役割を果たしてほしいと思っているのですが、靖国をはじめとする歴史認識で無駄に争っている日本に辟易しています。そもそも日本が米国に遠慮したりしてリーダーシップを発揮することを中々しないので日本を見限っている面もあります。現在ASEANはインド・オーストラリアを巻き込んで中国をけん制する動きも見せており、日本もそれを支持しているという最中です。

 

そんな感じの近隣諸国の状況ですが、それではこれまで問題を解決する機会はなかったのでしょうか。何回かはあったと考えられます。

先にも述べましたが、1998年に金大中が歴史問題を解決しようと積極的に動いたときがあります。外務省もこれにあわせて動いたのですが、自民党などの右派勢力がこれをつぶしています。

村山談話のときもひとつの機会でしたが。社会党を担いだ自民党という構造上無理があったのでしょう、やはり先述のとおり、むしろ禍根を残すことになります。

一番のチャンスは細川総理が自発的に行った謝罪のときだと思われます。中国・韓国に言われたわけでもなく、細川総理は歴史問題に決着をつけることを考え、中国・韓国に謝罪します。現在の風潮から一見考えにくいことですが、これによって細川総理の支持率は上昇します。両国からも歓迎されました。結局色々あって実を結びませんでしたが、日本がイニシアチブをとって問題を解決しようとした稀有な例であったといえます。

戦後日本のほとんどを率いてきたのは自民党ですが、自民党という政党は戦前の流れを汲む政党であり、戦後と戦前とを区別していない傾向があります。もともと保守政党であることもあり、右派が多く、民族主義的主張も多いです。また、支持母体である遺族会の影響も考えるべきでしょう。小泉さんが2001年の総裁選のとき突如靖国を公約にしだしたのは、遺族会(自民党員票の10%くらい)の支持を狙ったという側面があります。

自民党だと難しいのかもしれませんが、問題を解決しようと思うなら、中国や韓国から言われる前に日本から問題解決の提起を行うのが一番よいと思います。やはり交渉というのは自分からイニシアチブを取るほうがやりやすいですから。

そのためには靖国に行くのは駄目でしょう。日本では靖国は伝統であるとか、色々いう向きがありますし、国内では理解されないこともないですが、一国の総理がA級戦犯を合祀する神社に行ったとなれば、国際社会の日本以外の国家には理解されません。そんなことはない、と思っている人もいるかもしれませんが、ではその人たちは他国を偏見なく理解できていると自信を持っていえるのでしょうか。偏見と安易な理解は国際社会につきものです。先にも述べたようにASEANも現実に問題としないだけで、嫌がってることは確かです。

 日本人が近年保守的になった、という話がありますが、現実問題各種調査を見る限り、日本人はそんなに右派の主張に組してるわけではなりません議論を区別すべきですが、単に、中国・韓国がうるさいからそれに単純に反発してるだけだと思います。保守系論壇、右派からは、戦後の歩みによって日本人の美徳が失われた、アメリカに日本のアイデンティティが失われたと主張しているようですが、そしてそれが今ようやく日本人に自らの主張が受けられるようになってきたと思っているようですが、日本人はそのようなことにまで共感を覚えていないと思います。

右派は極東軍事裁判そのものを勝者の裁きであると反発しています(そして右派のこうした主張は一部のものであるにもかかわらず、国際的に(中国・韓国だけじゃないですよ)日本は近年戦後を肯定しだしたと思われだしているようです)。たしかにそのような側面はありますが、日本はサンフランシスコ平和条約においてそれを受け入れているのです。そして私は多くの日本人はこれを受け入れていると思います。

現在日本人には少し自身がなくなってきているように思います。このことが右派政治家の強い態度に、その主張に賛同しているかはともかくとして、胸をすく思いを抱く人が多い一因であると思います。しかし戦後日本を思うに、戦後の日本のアイデンティティ、そして誇りは戦後の奇跡の復興にこそ求められるべきだと思います。追い詰められたときの、逆境に陥ったときの日本人のそれを乗り越えてきたときの構想力、実行力、これこそ日本人が日本人の誇りであり、また、誇りにすべきものであるようにも思います。

官僚、企業、そして多くの日本人は、たしかに普段は対応が遅いのかもしれませんが、本当の問題になったときにはそれこそ一致団結して問題を解決してきました。

戦後まもなく、日本の官僚は、これから米国とソ連が対立することになる、そしてこうした国際環境の中で日本を防衛するには日米同盟しかない、アジアでも共産化の動きが出てくるだろう、しかし、日本は戦前を踏まえながらアジアとの協力を考え、共産化の流れに組しないようにしなければならない、という考え、現在からみてまったく正しい構想を、中国が共産党に支配される前に、持っていたのです。そして、吉田茂は実際にそうした発想の元、日本の安全保障を確保し、西側の保障する自由貿易圏の恩恵を享受することに成功するのです。

 石油危機においても日本は他の先進国に先駆けこれを乗り越えました、いまだイデオロギーが大きな争点となっていた当時において、資本家と労働組合はこの危機を乗り越えるために提携し、また政党間においても自民党だけでなく、社会党までも戦後日本の最大の危機に向かって協力し、そのための法律をあっという間に通していくのです。

繰り返しますが、歴史問題は日本がイニシアチブ解決すべきでしょう。論者においては、中国韓国の反日教育のせいであると考える人がいます。確かにその面はありますが、一方で、日本の行動に対して中国(主に都市の人たちだと思いますが)、韓国の人々はもともと不快感を持っているのです。それも政府は利用しているのであって、一から百まで政府のせいであるとするのは間違いです。

日本は謝っているじゃないか、という意見もありますが、政府がいくら謝っても半ば確信犯としか思えない、政治家の妄言が出てきたり、靖国に行ったりこんなことをしていて、それにどれほどの誠意を相手が汲み取ることができるというのか。日本人は一般に、特に政治家ですが、外から見られているという意識をあまりにも持っていないと思われます。

この点考えられなければならないのは日本人の戦争に対する認識で、日本では第二次世界対戦を対米戦争の文脈多く理解しており、アメリカとの戦争に負けた、沖縄戦、空襲、原爆を落とされたという記憶が主要な位置を占めており、中国との戦いとして意識することはあまりなく、つまり、被害者として自らを捉えている、だから中国・韓国に対する意識が低いのだと思います。

たとえばドイツ等に見られるように妄言の政治家を選挙で落とす、ということも考えられますが、現在の日本ではこれと逆の状態が発生してるようです。ただ、この問題はついて日本国民として我々一人一人がどのように考えるかは改めて問い直すのはよいかもしれません。日本は憲法において示されるように、価値相対主義を採用し、多様な意見の尊重が認められてきました。現在の小泉内閣は民主主義を価値として用いだしてきていますが、戦後ドイツが「戦う民主制」としてナチスのような存在から民主主義を守るというような発想が日本でも議論できるくらいには、日本において価値が共有され、民主主義は根付いたと考えています。

さて、昨今の事情を考えますに、韓国ではなんだかんだ言って日本への偏見は少なくなっていると見るべきです。旗とか燃やされますが、例えば、日本人へのいじめなどはなくなりつつあります。日本への憎しみもありますが、日本への憧れもあります。TVなどを通じて、彼らは日本の事情をよく知っています。報道もバランスが取れてきたということもいえます。(因みに靖国が韓国で問題となったのは最近でそれまでは主に教科書が問題になってきました。戦争では韓国人も日本人として一緒に戦って、靖国に祀られているので、複雑みたいです)

中国でも、変化はおきつつあります。最近になって日本製品に対する人々の見方が都市部だけでなく一般に変わりつつあります。日本への関心も高いです。某2ちゃんねるも中国語化されているくらいで、多くの人が見てるみたいです。まあ、あの掲示板の意見が日本人の平均的な考えだと思われると困りますが…。胡 錦濤、外交部は早く何とかしたいと持っています。日本も問題ですが、彼らにとって最大の問題は先にも書いたように、中国であり、軍部なのです。リスク要因、金食い虫でしかないかれらをどうにかしたいのです。過激な言論を気にしたり、軍の意向を尊重して、つまり内政の問題のために外交を理由するあたり、なんだか戦前の日本に似ているような気がします。ま、それはどうでもいいことですが。

このような場合、相手の弱みにつけんこんで挑発をするというのは避けるべきでしょう。そんなことをして何の意味があるというのか。今のような政権が中国にあるうちに、それぞれの国で政治問題化しないくらいに問題勢力が極小されるように、協力していくべきでしょう。大体、仮に中国が国内で混乱が生じて日本に有利になると考えるのは、現在の経済の結びつきを考えれば妥当ではないでしょう。また、そうした混乱か過激思想の対等を招くでしょうが(混乱して日本に好意的な意見が出てくると思います?)、それこそまさに日本の安全保障の問題になります。そのような問題をもてあそぶべきではありません。

できれば中国が独裁政権であるうちに片付けたほうがいいと思います。民主化したほうがいいと考えている人もいますが、自分たちの利益のためとはいえ、中国の氾濫する意見を抑えているのはまぎれもなく共産党です。仮に民主化が行われたらより中国人の生の声が出てくることはあるでしょうし、ますます反日ナショナリズムが高まると考えられます。元来ナショナリズムは民主国家において極限に達するものだと思われます。

戦争の記憶化、ナショナリズムの高揚は実は世界的に起きている現象です。インターネットの普及などがその原因のひとつなのでしょう。必要なのは物事なるべく偏見を排して、問題を考えるということでしょう。翻って考えれば現代の日本外交はその気になれば多くの可能性を持っています。日本が自分でものごとを停滞させているということは、自分の行動によって解決が可能だということです。また、上で述べたような状況は日本にとって有利な状況が多く存在しているように思います。

小泉総理の時のもう無理でしょうから、とにかく悪いものはいったん出してしまったほうがよいのかもしれませんね。


以上、思い起こした内容、および個人的な意見による補足でした。なんとなく理想主義的な考えかな、ときがしないでもないですが、どっかの状況認識が全くできていない、気分だけで書いたような意見に比べたら、ずっと説得的なように感じました。

もうすこし研究してもいいのかもしれない。そこで、

  『国際問題』2005年12月  No.549
小泉首相の靖国神社参拝は、近隣諸国の政府が反発するばかりでなく、民衆の反日運動も惹き起こし、今や「歴史認識」問題が、日本の国際関係において深刻な課題として浮上しております。特に外交上問題になる場合は、関係諸国の利害が複雑に絡まっていることが多く、なぜ「歴史認識」が外交上問題にされるのかを、各国の事情に即して理解する必要が生じてきます。 本特集では、「歴史認識」問題の多様性を踏まえて理解するために、この問題の総括的な対談と、反日感情の強い中国や韓国ばかりでなく、インドネシアやアも含む3ヵ国について、検討しました。 
2005年12月号 目次
焦点:「対日歴史認識の諸相」
・〈対談〉日本外交と「歴史認識」問題(岡本行夫・岡本アソシエイツ代表/五十嵐武士・東京大学教授)
・韓国における対日歴史認識問題(小針 進・静岡県立大学教授)
・「愛国主義」時代の日中関係」(田島英一・慶応大学助教授)
・インドネシアにおける対日歴史認識問題(倉沢愛子・慶応大学教授)

を手に入れたので、やる気があったら調べてみようと思う。まともな雑誌なんで忌みのわからない感情論はないと思う。


nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(2) 
共通テーマ:ニュース

nice! 1

コメント 2

ずみっち

歴史問題、国際関係について研究されているんですか?
一般人の意見だからのなのかもしれませんが、今までに考えたことのない角度からの意見でかなり新鮮な感じがしました。
説得力がありました
by ずみっち (2005-12-19 01:06) 

mof

コメント、およびniceありがとうございます。今、同期の友人と歴史認識で勉強してるのですが、問題解決する方法は難しいなぁ、と感じさせられます。中国の軍部を見てると戦前の日本を見てるみたいで、なんともしがたいですねー。
ずみっちさんの中国人とのバトル面白かったです。どうも中国人はかなり実利的みたいで、謝ることもその観点から考えて、誤るのは損だと考える傾向があるらしいです。タダだったらなんでももらったりとか、関西のおばちゃんと似てる点があるのかもしれません(失礼か?中国人に(笑))
by mof (2005-12-19 13:30) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。