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PSI、米国の拡散防止構想 [国際法・国際関係]

なんかカテゴリー的に国際関係というより国際法の時事ネタっぽくなってきたな。


PSIというものをご存知でしょうか?

Proliferation Security Initiativeといいまして、日本語訳では拡散防止構想といいます。現在日、英、仏、独、露などの15カ国のコアグループを中心に今では多くの国家がPSI構想を支持しています。

アメリカは9.11テロ以降、対テロ戦争の世界戦略を展開しております。2002年にはブッシュドクトリンといわれる先制攻撃ドクトリンは核物質・大量破壊兵器を有するテロリスト、ならず者国家に対する米国単独での攻撃も辞さないという米国の決意を表明しています。

PSIは先制攻撃ドクトリンとともに米国の国家安全保障戦略の双翼を担うもので、、核物質・大量破壊兵器等がそもそもテロリスト、ならず者国家の手に渡らないようにすること、加えて大量破壊兵器製造のための物質・技術・知識の移転を阻止するための行動計画です。

 日本はPSIに関係ないのでは、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、一概にそうとは言えません。

というのも、米国がPSIの国際的協力を呼びかけるようになったのは、2002年のソサン号事件をきっかけとしており、同事件において、日本の隣国の北朝鮮がイエメンにスカッドミサイルを売ろうとしていたにも関わらず、結局現行国際法上の枠組みにおいて阻止できなかったという米国の苦い経験が背景にあるからです。

PSIでは大量破壊兵器の拡散懸念国またはテロリスト等の非国家主体への流入を阻止するためにPSIに参加する有志連合が共同してとり得る措置を検討することが提案されています。 

そしてPSIにおける主要な焦点のひとつとされているのが、PSIの契機にもなったのが海上であったこともあり、海上における警察活動です。大量破壊兵器に関わる物質を搬送していると思われる合理的疑いがある場合にPSI参加国は乗船、立入検査、当該物質等の押収など義務付けられます。

さて、このPSI、一見なんでもないようにも思えますが、国際法上の問題を多く含んでいます。

PSI参加国は自らの領海において上記措置を採ることが求められています。しかし、自らの領海といえども全ての国の船舶には無害通航権が認められています。

大量破壊兵器を積載している船舶は無害な通行じゃないから問題ではない、とみる見解もありますが、しかし、米国自身は1989年にソ連(当時)とともに無害性の判断は船舶が積載している荷によるのではなく、船舶の行為態様によって判断すべきだ、と宣言しています。国連海洋条約を通常に解釈すれば、たとえ大量破壊兵器を積載していても沿岸国は無害通航権を維持できません、また国際の平和と安全を維持することも正当化根拠となりません。

事実、先に挙げたソサン号事件でもこれが理由に北朝鮮の船を解放することになります。

公海についても同様です。公海には公海自由の原則があり、船舶の旗国以外は管轄権を及ぼすことは出来ません。唯一の例外は公海海上警察権による臨検ですが、このとき対象となるのは海賊、奴隷貿易、無許可放送、無国籍船、国旗の濫用に限られ、その他の行為については合理的な根拠が見取られようとそれと関わりなく、管轄権を及ぼすことは許されません。

従って、現行国際法上においてはPSIはその目標を達成することが出来ないように思われます。

そこで、米国はPSIの目的達成のために現行国際法の枠組みを変更しているように思われます。

例えば、シージャック防止条約(SUA条約)の改正です。同条約ではシージャック(領海内での海上武装強盗)の取り締まりだけでなくテロリスト、大量破壊兵器の輸送を条約の規制対象としています。また安全保障理事会決議1540号では大量破壊兵器などの不拡散に関する協力の促進を要請することが採択されています。

また、こうした多国間の枠組みだけではなく二国間条約として便宜置籍国として有名なパナマ・リベリア(世界の海上輸送の30%を占める)との間で拡散防止のための協定が結ばれており、米国とパナマ・リベリアは相互に自国船籍の船舶を臨検できること認め合いました。

 

このようにアメリカはPSI構想の下、新たな枠組みを次々と積極的に構成していき、大量破壊兵器の拡散を防止する努力を続けています。

PSIに基づく活動は現在の国際法の問題を浮き彫りにしたのだろうと思います。即ち、現在の国際法によってはテロ活動、大量破壊兵器の輸送を実効的に取締るには困難なことが多いというものです。

イラク戦争・アフガン戦争もそうですが、今現代国際法秩序は大きな転換点を迎えているだろうと思います。もし、PSI構想などが成功すれば、国際社会はより緊密になると思います。それは安保理、乃至米国がより国内社会における警察活動を行うようなるということです。これは原則国家の自由であった国際秩序において大きな意味を持っています。

しかし、いまだ不透明感はぬぐえません。というのもPSI構想や国際社会における米国のイニシアチブ、及び圧倒的軍事力がその前提となっている面があるからです。とすれば、米国がイニシアチブを控えるようになる、とか米国の軍事面における圧倒的優位がなくなれば、その実施は困難な部分が出てくるのだろうと思います。いい意味でも、悪い意味でも国際社会全体に対して責任ある行動をとろうとする意思と能力の歩くには米国以外にないのです。(中国・ロシアは論外ですし、欧州もあまり積極的ではないと思います)

 

先にも述べたように、日本にとってもPSIは重要な問題です。隣国には北朝鮮が存在しており、アジアにおける北朝鮮による核問題、弾道ミサイル活動がもたらす脅威は、現実かつ重大な問題となっているからです。日本はPSI構想を受けアジア地域でのPSIの主導的役割を果たそうとしており、実際にアジア不拡散協議を開催するなどの活動を行っています。

こうした軍事活動に至る前の日々の警察活動は極めて重要です。私も基本的には賛成ですので、日本もそのための実効的な措置を取れるような国家になってほしいですね。

参考資料

外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fukaku_j/psi/

朝日新聞 http://www.asahi.com/international/update/1015/009.html


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