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北朝鮮の不審船事件を振り返る [国際法・国際関係]

結構長い文章になったな。


 ちょっと前にあった、北朝鮮の不審船撃沈事件を国際法的に考えてみたい(突然どうしたかというと、単に授業で渡された資料にそんなのが沢山入っていて、考えるところがあったからです)。

 世間一般では、当然日本の行動は妥当、という判断が大勢を占めているわけですが、どうも国際法はそう簡単ではないらしいらしいです。

事実

事実については、 基本的に政府の文書に依拠しています。

12月21日1630時頃に海上自衛隊P-C3哨戒機が外国漁船と判断される船舶を視認(以下、不審船)。22日0030時頃、防衛庁が北朝鮮の工作船の疑いが強いことを確認。

 22日0110時頃、防衛庁が海上保安庁に通報。海上保安庁が巡視船による追尾を開始。1250時頃、日本の経済水域内で不審船に追いつき、漁業法に基づいて検査のために不審船に対し停船を命じるも、不審船は無視して逃走。このために、威嚇射撃を実施。1520時ごろ、日中経済水域中間線を越える。威嚇射撃は続けて行われる。

22日2200時頃、逃走阻止のために不審船を巡視艇により挟み込むことを試みるも、不審船から自動小銃、ロケットランチャーなどで反撃。海上保安庁職員が3名負傷、巡視艇被弾。巡視艇により、正当防衛に基づき射撃、不審船を沈没させる。不審船乗組員の救助を行うが、悪天候の中、死亡。

詳しそうな資料を海上保安庁がUPしてます。http://www.kaiho.mlit.go.jp/info/books/report2002/special/01_01.html

 

評価

 国内法上の問題は、とくに言及するつもりはありません。たぶん大丈夫でしょうし(そもそも全くの素人ですから)。

 追跡の是非について、ここで問題となるのは、国連海洋法条約(以下、UNCLOS)111条、継続追跡権です。日本政府はこれを根拠としているようです。

 UNCLOS111条を確認すると、1項において、内水、領海、接続水域、群島水域において、沿岸国は外国船舶が自国の法令に信ずるに足りる十分な理由があるときは、当該外国船舶の追跡を行うことができる、ということが認められております。また、追跡は自国の内水、領海、接続水域、群島水域で開始されなければならないこと、及び、追跡は当該海域の外でも行うことができ、中断されない限り、その外の地域でも追跡権を行使することが可能とされています。

2項において、追跡権については、排他的経済水域でも、この条約に従いその排他的水域に適用される沿岸国の法令違反がある場合に適用されることが認められています。

 3項において、追跡中の船舶がその船舶の旗国、または第三国の領海に入ったときには、追跡権が消滅するとされています。

 一見、この事件に関する日本の行動は問題ない適切なもののように見えます。日本は漁業法に基づき日本排他的経済水域(EEZ)内で不審船の追跡権の行使を開始してますし、日本のEEZの外に出るときも日本のEEZで行使していた追跡権を中断なく行使しています。 撃沈に伴い、追跡権行使を終了したのは中国のEEZであり、領海ではありません。

しかし、本件不審船が当初の予測どおり、北朝鮮の船舶です。問題なのは北朝鮮がUNCLOSに入っていないことです。従って、UNCLOSを根拠に追跡権を行使することはできません。すると、問題の地域は日本のEEZですが日本に追跡権が認められるということはなく、日本の行動は国際法上違法ということになります。日本のEEZだからといって、日本が他国の船舶に対しいろんなことができるわけではないのです。

ただ、本件不審船は当時北朝鮮船舶と明確に判明しておらず、また、どこの国旗も掲げられておりませんので、無国籍船になる、というが言えるかもしれません。それならば、UNCLOS上の問題として処理できるかもしれません。

また、国際法には全ての国家の慣習により成立する、全ての国家に適用される不文法たる慣習国際法というのがあります。追跡権が慣習国際法上の権利として認められているなら、UNCLOS加盟国ではない北朝鮮の船舶であっても適用できるでしょう。しかし、これも111条1項の追跡権については慣習国際法であるといっても問題ありませんが、2項のEEZにおける追跡権というのは最近、UNCLOSの規定のなかではじめて認められたものであり、慣習として確立しているといえるかは微妙です。まぁ、短い期間の間に慣習国際法が成立する例もあるので、なんとも言えませんが。

 

そうした適用法規の問題を別にしても、今回きちんと追跡権が行使されたか、という問題も残されます。今回、日本政府は漁業法違反を根拠として、追跡権を行使しています。ここで確認しておきたいのは、EEZ内においては日本は主権を有しているわけではなく、漁業等の経済的な諸権利を有しているに過ぎず、安全保障のための権利行使はEEZで認められているわけではないということです(このことは国際判例等によってほぼ確立してしまっているのではないかと思います)。

そして、UNCLOS111条2項では、「この条約に従いその排他的水域に適用される沿岸国の法令違反」が追跡権行使の用件とされています。つまり、国際法であるUNCLOS上は漁業権(等の経済的権利)の侵害がないと追跡権が行使できないように思われます。

本件において漁業法違反はありましたが、はたして日本の漁業権は侵害されたのでしょうか?たしかに本件不審船は漁船です。しかし、防衛庁が早くから判断しているように、日本が本件の不審船を追跡したのは北朝鮮の工作船が漁船に扮して活動している疑いがあるからではなかったのでしょうか。だとすると、日本政府自身、日本の漁業権が侵害されていると思っていない可能性が非常に強くなります。つまり、今回の追跡権行使はEEZで安全保障問題上の措置をとるために、漁業権の侵害を形式的に主張したに過ぎない、ということになるのではないでしょうか?

こうした言わば別件逮捕のようなことが、国内ならともかく国際的に通じるかはちょっとわかりません(この事件についてはアメリカは日本の行動を支持しています。一方、EEZに入られた中国は日本に抗議をしています)。

・・・

・・・


 と、まあ今回いくつか問題を挙げましたが、そのほかにも色々国際法的には論点があります(そういえばこの他に撃沈の是非とかあったな。ながいのでまた気が向いたときに)。とはいえ、ここから少し政策的な話に入りたいと思います。

 この事件については、中々ないことですが、日本の明確な政策の下、行われているなという感じがします。1999年に不審船に対して有効な措置が取れなかった、ということから漁業法の改正が行われるなど、日本の海上安全保障のための措置が行われたように思います。

 昨今、いろんなものが海から入るようになりました。麻薬、武器、不法就労者、そして工作員・工作船、こうしたものに対して、日本としてしっかり取り組もうとしているな、というのが見えてきます。

 追跡権の問題について、UNCLOSの規定は実は曖昧にされたまま部分が多いです。今回の措置の中で、日本はかなりグレーゾーンのところ進んだのではないかと思います。(論文からの受け売りの部分もありますが)そうした部分に日本が自ら先例となろうとしたことには、それまでのひたすら国際法を守ろうとしてきた態度とは異なる点が見受けられ評価できるのではないかと思われます。

 ただ、それでも今回の事件で明らかになった日本の海上の安全保障政策は問題があると思います。

 というのは、法的な根拠、という部分を別にすれば、EEZでも不審船の追跡権を行使することは、選択肢としてありえるのかもしれません。しかし、本件不審船が漁船に扮してなかったらどうするつもりだったのでしょうか。本件では不審船が漁業船に扮していなかったら、形式論理として用いた(僕はそう思いますが)漁業法すらも使えません。つまり、漁業法に基づいた政府の不審船対策は相手が漁業船に扮している場合にのみ援用できる、偶発性に頼った政策であるということが言え、かつ、EEZでの取締り政策に一貫性が保てないものとなります。

 もし、不審船が漁業船以外のものに扮していたら、もし追跡したら国際法上は違法になるの可能性が非常に高いです。例え違法となろうとも安全保障のためには、という考えもありえるのかもしれませんが、北朝鮮(ひょっとしたら中国も?)に国際法違反で責任を追及されるなどということにはならほうがよい、と思います。(EEZで安全保障問題についても対処できるとするのは、世界有数の海洋国家であり、さまざまな海域で漁業等の諸活動を行っている日本に利益になるとは思えません。自分がしたことは自分にも帰ってきます。また、安全保障の判断は恣意的になりがちなので、例えば中国などに日本船籍の船が安全保障を理由に日本船が自由な活動を阻害される可能性があります)

と、いうことなので、日本としてもっとよい方法でこういう問題を対処するための策を講じる必要があると思います。どこかで紹介されていましたが、無国籍権の公海海上警察権の行使を可能にするような制度がいいと思います。UNCLOS110条では公海自由の原則の例外として、海賊・無国籍船等に臨検を行う権利を認めています。EEZも一応公海の扱いになりますので、公海における海上警察権を行使することが可能です。このほうが場当たり的な対応ではなく、より一貫した対応が取れると思いますし、漁業法と合わせてかなり包括的な措置をとることが可能だと思います。

日本の法制度が上のようことが行えるように整えばいいなぁ、と思います。ただ、近隣諸国が少しうるさいんだろうな。


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