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『フォー・ディア・ライフ』 柴田よしき [読書]

新宿二丁目で無認可保育園を営む花咲慎一郎、
通称ハナちゃん。
慢性的に資金不足な園のために探偵業も兼ねている。
金になるなら危ない仕事も引き受ける。
園で預かっている子どもたちに心を砕きながら、
次から次へと依頼される事件を解決しようと
ハナちゃんは奔走する。

この本はずっと以前に読んだことがあります。
読み返そうと思ったのは
「山内練」に関連する本を読みたかったから。
『聖なる黒夜』を読む前に
もう一度彼が登場する作品を読みたかった。
『フォー・ディア・ライフ』での登場シーンは少しだけど
強く印象に残ります。
複雑な内面を持つきれいな顔の悪魔。

家出した中学生を探し、
やくざに追われる少年を探し、
その合間に園での仕事をこなす。
ハナちゃんは寝る間もない。

ラストに向かって収束していく部分はよくできています。
でも、少し盛り込みすぎかな。
私には保育園関連のエピソードが心に残ります。
子どもたちを守るために命をけずるように
走り回るハナちゃんが好きです。

身勝手な行為からやくざに追われ危機に陥っている
いわば自業自得の少年だけど
絶対に助けなければならない。
少年の母親の死の間際の言葉が
花咲慎一郎にはせつなく響く。
ほんとうにハナちゃんはやさしい。

花咲慎一郎はなぜ保育園の園長になったか。
「ここの子供達は、一晩に二度、夢を見る。」
という風見恭子の言葉に出会ったから。
今では「にこにこ園」は命の次に大切な職場。

夜に働く女性を母親に持った子供達は、
二度夢を見る。
最初は園で、
そして迎えに来た母親に起こされて連れて帰られてから、
自分の家でもう一度。

五年前まで捜査四課の刑事だったがある事件で同僚を射殺
どんな事情があろうとも「仲間殺し」と誹謗されることに挫折し
警察を辞める。
その後の自暴自棄の生活の中で出会ったのが風見恭子。
春日組の先代組長の妾だった女性。
糖尿病性網膜症でほぼ失明してしまった彼女は
「にこにこ園」を任せられる人物を探していた。
花咲慎一郎は「一晩に二度見る夢」に出会い、救われた。

子供を預けに来る女達は様々な故郷、言葉、人生を抱えている。
戸籍のない子供たちを前にハナちゃんの苦悩も深まる。
裏社会の顧客を相手に医師を続ける野添奈美先生はこう言います。

「何もかも自分の力で何とかできるなんて思うのは、
思い上がりよ。
政治に忘れられた子供達のサンクチュアリを
本気で護るつもりなら、
もっと恥をかくことに慣れることだわ。
偽善者と言われることを恐れていたんじゃ、
何にも出来やしないのよ、結局。」

二千万円は受け取ってもよかったのにと私は思う。
「恐喝してまで白尾隆行から二千万ぶんどることはできなかったし、
この先も矢木沢の真似はできそうもない。」
とハナちゃんは言うけれど。

ハナちゃんの恋人、南仏家庭料理の店を
ひとりで切り盛りする佐々里理沙
ハナちゃんが心から憎んでいた春日組の韮崎の
愛人だった過去を持つ奈美先生、
毅然として生きている女性たちが魅力的です。

行方不明になっていた子供たちが戻ってきた
「奇跡のような夜」
花咲慎一郎は決心する。

「奇跡は一夜だけで終わらせない。
俺はサンタクロースになってやる。
偽善者のドンキホーテと笑われても。」

そして奇跡が起きる。
破格の取引で「にこにこ園」は立ち退きをまぬがれる。
売れば一億になるという土地に
四千万の十年分割が提示される。
同額の生命保険を担保にするとしても
確かに「でっかいプレゼント」

「命がけの偽善だってそれなりに大したもんじゃないか」
とハナちゃんは考える。
孤軍奮闘しているのは確かだけれど、
援護がまったくないわけではない。
「最高にあったかい場所」は子どもたちだけではなく
花咲慎一郎にとってもサンクチュアリなのですね。

山内練が「でっかいプレゼント」をくれたことで
切っても切れないつながりがここに生まれたわけですか。

ドラマ化されたとき高橋克典がハナちゃんを演じたようです。
それほどミスキャストではないと私は感じます。

フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

フォー・ディア・ライフ (講談社文庫)

  • 作者: 柴田 よしき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/10
  • メディア: 文庫


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