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『12人の怒れる男』ヘンリー・フォンダ [外国映画]

BSで放送されたのを録画して観ました。
和田誠『お楽しみはこれからだ』に何回も登場するこの映画。
観てみたいと長年思いながら機会を逃していて、
やっと観ることができました。
おもしろかった!観てよかった!
(ヘンリー・フォンダ、大好きです。)

裁判所の法廷で裁判官は陪審員にこう言う。
「有罪に対して合理的な疑いがあるなら無罪としてください」
評決は全員一致でなければならない。
有罪の評決が出た場合、被告は死刑。
「皆さんの責任は重大です」
こう言いながらも裁判官は投げやりな様子。
何故?
12人の陪審員は陪審員室に移動し、物語は始まります。

この時点で観客には
ひとつの殺人事件が起こったということだけしか
知らされず詳細はまったくわかりません。
有罪なら死刑になるということくらい。
そこに退廷する陪審員たちを見つめる
被告の後ろ姿が写されます。
絶望しているような被告のアップ。

ここで初めて被告が少年で、
白人ではないということがわかるわけです。
そしてタイトルが現れる 「12 angry men」


名前も素性も明らかではない12人の
寄せ集められた男たち。
明白な証言と証拠があり
全員一致で有罪確定だと思われたが
ただ一人無罪を主張する男がいた。

「話し合おう。」
「人の生死を五分間で決めてもし評決が間違っていたらどうする。」

陪審員の議論を通して
徐々に被告の生い立ち、
証言の内容が観客に分かってきます。

被告は母親と死に別れ
スラム街で父親に殴られながら育った
プエルトルコ系の少年。

証人は二人。
階下に住む老人と
線路を挟んだ向かいのアパートに暮らす女性。
証拠物件は少年が買い求めた特徴のあるナイフ。

証言にたいする疑問をあげていく。
弁護士が見逃しているところを検討する。
ヘンリー・フォンダ扮する陪審員の言葉が
少しづつ空気を動かしていく。

議論が進むにつれて集まった人たちの素性がわかってくる。
そして異なる立場にいるがゆえに出てくるさまざまな意見が
証言や証拠のあやふやさを浮き彫りにする。

スリリングな展開です。ほんとうに素晴らしい。
映画の中の時間と実際の時間が同じというリアルタイム進行。
閉塞した陪審員室が舞台なのにカメラの動きもスムーズです。
二時間ドラマのように、真犯人をつかまえるという
ドラマチックな展開ではないです。

ただただ「疑わしきは罰せず」という原則を貫くのみ。
証人は実は真実を述べているのかもしれない、
犯人は少年なのかもしれない。
それでも、
「有罪に対して合理的な疑いがあるなら無罪とする」
地味で理想主義かもしれないけれど、
こういうスタンスの映画はいいですね。

最後に決定的に「無罪」に傾かせる指摘は、
ヘンリー・フォンダの発言ではない。

老人だからと証人を貶めるような言葉のあとに、
年老いた者の深い観察力に敬意をはらう場面がある。
スラム街で育った人間なんてという誹謗があり、
そこで育った者だからわかる意見が、
取り調べの不備を突き、
有罪への疑念を強くさせる場面がある。
小気味いい展開が見事です。

ヘンリー・フォンダは誠実で正義を信じる主人公を演じ、
この映画の骨太な精神を体現しているようでした。

きっと今この映画が作られたら、もっと複雑になるでしょうね。
陪審員が白人のみという設定は許されないでしょう。
日本でも陪審員制度が発足します。
自分の身に当てはめて、
この映画のヘンリー・フォンダのように振る舞えるのかと
自問すると、恐ろしくなります。
偏見を持たずに判断することができるのか。

『荒野の決闘』でワイアット・アープを演じる
ヘンリー・フォンダが大好きだった。
身長187㎝、
その長い足を柱にかけて、座った椅子をゆらゆらさせていました。
印象的で大好きなシーン。
西部劇なのに穏やかな雰囲気の詩情豊かな映画でした。
無骨なワイアット・アープ。
「私はクレメンタインという名前が好きです」

my-darling-clementine.jpg

実は最初は息子のピーター・フォンダのファンでした^^;
レナウン・シンプルライフのCMに出ていたのを見て♡ でした。
中学生の頃。

十二人の怒れる男

十二人の怒れる男

  • 出版社/メーカー: 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン
  • 発売日: 2004/04/02
  • メディア: DVD


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コメント 6

びっけ

この映画には、感動すると同時に、人が人を裁くことの難しさや、人の命の重さについて考えさせられました。
最初は、やや投げやりな陪審員達。
さっさと結論を出して、お役御免になりたがっている気持ちがありあり。
そんな中で12人目の男ヘンリー・フォンの重みのある発言。
浅薄な私は、この映画を観た時、(日本は陪審員制度なんてわけのわからんものでなくて良かった)なんて思ったものでした。
でも、日本でもまもなく陪審員制度が始まるのですよね。
ものすごーく不安を感じています。
☆ ピーター・フォンダ・・・『イージー・ライダー』が印象に残ってます!
by びっけ (2007-04-04 19:04) 

おきざりスゥ。

3~4年前に1度地上波で観ました[テレビ]
たった1部屋の中で
劇中の設定だけでなく映画を見ている観客にも
各々の名前が知らされないまま進められてゆく劇。
(ヘンリー・フォンダは第8号陪審員[!])
内容は深刻だし登場人物に感情移入できる親切な仕掛けはどこにもない。それなのにドンドン惹きこまれてしまう[!!]

>議論が進むにつれて集まった人たちの素性がわかってくる。

事件に関する疑問点が一つ一つ検討され、
新たに投票が行われる度に無罪票が増えてゆき…[メール]

素晴らしい脚本でした[ぴかぴか]
三谷幸喜がオマージュを捧げたくなるのも道理。

本筋に関係ない部分の感想ですが…
登場人物が凄く[タバコ]を吸うのを、時代なんだなぁと。
それとロール式の[パー]を拭くタオル。
そっかーアメリカでは'57年当時に一般に普及してたんだー[目玉]
と妙なところに感心してしまいました。
                      <12人の優しい日本人>も面白い[ラブラブハート]
by おきざりスゥ。 (2007-04-04 22:29) 

miyuco

>びっけさん
11対1になってしまっても、自分の意見をつらぬけるか
と言われれば、まったく自信がないです[汗汗]
あのいたたまれない雰囲気。
その中で淡々と検証を重ねて話し合い疑問点をあげていく
誠実さで陪審員たちの気持ちを動かしていく。
「無罪」に終わっても直接感謝されるわけでもなく
ヒーローとあがめられるわけではない。
良心にしたがって誇りを持って戦っただけというところが
すごくよかったです。

『イージー・ライダー』を日曜洋画劇場で観て
そこで流れるレナウンのCMを見て
ピーター・フォンダのファンになってしまいました[ラブラブハート]
by miyuco (2007-04-05 11:31) 

miyuco

>スゥ。さん
ほんとに素晴らしい脚本ですよね。
和田誠、三谷幸喜ご両人の絶賛の意味がよくわかりました。

ロール式のタオル[!!]
陪審員室だけで進む映画の中で、一回だけ部屋の外(?)に
カメラが出たのがトイレの場面。
私もこのタオルが印象に残りました。
ヘンリー・フォンダはこのタオルで顔を拭いてた[目玉]
清潔だと信じて使っていたわけですよね。
タバコの煙ももうもうとしてましたね[タバコ]

これで<12人の優しい日本人>も観られる[映画]
by miyuco (2007-04-05 11:38) 

miron

だいぶ前に(といっても、優しい日本人の後、気になって)見たんだけど、
とてもいい映画でした。トイレのシーンもかすかに覚えていますが、一番覚えているのは、確かヘンリー・フォンダ(だったと思うが)ナイフを机につきさす所。(つきささなかったけ?) ここまではいい加減な気持ちで見ていたけど、ここから、急に映画の中ににすいこまれていった。狭い部屋の中を歩いて、時間を数えたりして、証言の時間の整合性を検証している所は、つっこみを入れたいぐらい、ほほえましいいシーンで、印象に残っています。この映画を見て、アメリカの中の良識を感じました。
陪審員に万が一選ばれたら、見直さないと。
by miron (2007-04-21 10:30) 

miyuco

>mironさん
ナイフ、突き刺しました!
そう、とても原始的なやり方で検証していくんですよね。
密閉された部屋が舞台で画面が単調になってしまうリスクが大きかったのに、こういった場面でメリハリをつけていて見事でした。
三谷幸喜はヘンリー・フォンダがあまりにも「良識」って顔をしているのが気に入らないなんてことを言ってました^^
陪審員制度、「12人の優しい日本人」を観たらますます不安になりました[汗汗]
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-04-21 17:13) 

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