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『ミーナの行進』 小川洋子 [読書]

ミーナの「行進」って何だろうと思いながら読み始めました。
表紙をめくると、「FRESSY」と書いてある
瓶入りジュースのイラスト。
…「プラッシー」じゃないの?
そんな疑問が読むうちに解けてきます。

1972年3月、
小学校を卒業したばかりの12歳の主人公、朋子は
家庭の事情で伯母の家に預けられる。
伯母は清涼飲料水メーカーの社長と結婚していた。
そこはお城のような家。
芦屋の山裾の千五百坪の土地に建てられた
スパニッシュ様式の洋館だった。
住んでいるのはバラエティー豊かな家族。
庭にはカバのポチ子。
そこで過ごした朋子の一年間の日々が綴られていきます。

 

いとこのミーナは一つ年下。透き通るような肌。
女の子なら誰もが、
こんなふうにありたいと願うような美少女。
喘息の持病を持ち、ポケットにはいつもマッチ箱。

いとこは病弱な美少女。豪華な洋館。
異世界のような場所で過ごす終生忘れられない時間。
昔、少女マンガでよくこういった設定の
作品を読んだな、と思ったり。
ひとつ違うのは、美少女に
「誇り高くわがまま」という設定がないこと。

金銭的には何不自由ない暮らし。
でも、派手な生活ではなく、むしろひっそりと暮らしている。
みんな、心の中になんらかの不安を抱えているようです。
でも、それを表沙汰にはせずに、
わきまえて、淡々と過ごしています。
母親と離れて違う土地に預けられ、
寂しい気持ちの朋子にとって、
少し風変わりなこの家の人たちは、
居る場所を見つけやすい
優しい環境だったのでしょう。

1916年、ドイツから日本にお嫁にきた
ローザおばあさん。
「朋子」の「朋」という文字を見て、
とても良い漢字、一人ぼっちじゃないと言う。
双子のお姉さんとは別れてしまったけれど、
米田さんといつも一緒にいる。
米田さんはおばあさんと同い年、家事一切を取り仕切っている。
おばあさんと米田さんが二人でいるシーンが私はとても好き。

ミーナはポチ子に乗って学校に通っている。
読書好きで、空想好き。
ミーナの「行進」とは
ミーナの広がる想像力のことでもあります。
「光線浴室」
「ローザおばあさんの化粧品が揃っている鏡台」
「ミーナのマッチ箱」
魅力的です。

死んでゆく星、それが流れ星。
流れ星を集めたガラス瓶。
流れ星が消えてなくなったあとに、
瓶の底に一滴残った夜露。
この本は、マッチ箱の最後の物語にでてくる
ガラス瓶の底の夜露のような印象です。

ミーナはたぶん1960年生まれ。わたしと同級生。
ミーナは「ミュンヘンへの道」に夢中になり、
男子バレーボールを応援します。
確かにすごいブームでした。それはよく覚えている。
私はまったく興味なかったけど…

ただし、パレスチナゲリラが
イスラエル選手宿舎を襲った事件はよく覚えてます。
イスラエル、パレスチナ、アラブの
複雑な関係についての情報が一気に入ってきて
学校ではくわしく教わることのない世界の状況が、
いきなり目の前に現れた感じだった。

「FRESSY」は
「ラジウムを含む六甲山の清水から作られた健胃作用のある清涼水」
かつてお米屋さんが運んでくれて私たちが飲んでいたのは
「PLUSSY」プラッシー。
調べてみたらオレンジ果汁飲料に
ビタミンCをプラスしたことから「プラッシー」だそうです。
う~ん、知らなかった
たまにしか飲ませてもらえなかったので、
飲んで良いよと言われると、
とても嬉しかったし、とてもおいしく感じました。
なつかしい。

挿絵がレトロな雰囲気でとても素敵です。

ミーナの行進

ミーナの行進

  • 作者: 小川 洋子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2006/04/22
  • メディア: 単行本

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コメント 2

びっけ

この『ミーナの更新』は読売新聞(日曜日)に掲載されていて、毎週楽しみに読んでいました。
凛と澄んだ空気感、ゆったりとしている時間の流れ・・・それらが一体となっている不思議な感触の小説でした。
マッチ箱の絵と、それにまつわる話のくだりは、特に好きです。
☆ 実は私も1960年生まれ・・・miyucoさんと同じ学年です。
私も「ミュンヘンへの道」は見ていたけれど松平監督が、いつも選手を叱咤していたことくらいしか覚えていません。(^^;
プラッシーはミカンの繊維みたいなのが中に入っていませんでしたっけ?
お米屋さんが届けてくれるのが楽しみでした。
特に夏に飲むプラッシーは格別でしたわ。
by びっけ (2007-02-20 20:06) 

miyuco

> びっけさん
主張しすぎないのにくっきりと印象に残る小説ですよね。
おっしゃるとおり不思議な感触でした。

まあ、びっけさん、同級生でしたか[ラブラブハート]
実は私は早生まれなもので、微妙に年をごまかしています^^
「ソネブロ年長組友の会」のメンバーが増えましたわ。
 ↑ウソです[汗汗]

子供の頃は冷蔵庫にジュースが入っていることなんか
あり得なかったので、プラッシーはホントに楽しみでした。
ウチのオットは『怪奇大作戦』のときのCMが印象に残ってるそうです。
びっけさん情報の『怪奇大作戦』BS放送を教えたら喜んでましたよ。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-02-21 09:53) 

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