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『幸福な食卓』 瀬尾まいこ [読書]

「幸福な食卓」なんだかうそ臭いタイトル。
きっとこれはアイロニー。
幸福ではない家族の話なんだろうなと思ってました。

そんなに簡単に語られる物語ではありませんでした。
幸福とはいえないかもしれない、
でも幸福ではないともいえない。
母親は家を出てひとり暮らし、
これでは家族として崩壊しているように見える。
それにも関わらず、4人で暮らしているときより
ずっと家族として機能している。

「わたしたちはとても優しい家族だ。」
「わたしたちは努力をし、いたわり合い、
尊重し合い一緒に暮らしている」

読んでいて、一番印象に残ったのは
「バイブル」に出てきたこんな言葉。

「他人じゃなきゃ救えないものが直ちゃんにはある。
きっと、私にも。」

家族だけじゃあダメだし、家族がいなくてもダメ。
他人じゃなきゃ救えないものがあるというのは、
心から共感できる言葉です。

   

主人公・佐和子の中学~高校時代にかけての4編の連作短編集。
佐和子の“少しヘン”な家族(父さんをやめた父さん、
家出中なのに料理を持ち寄りにくる母さん、
元天才児の兄・直ちゃん)、
そして佐和子のボーイフレンド、兄のガールフレンドを中心に、
あたたかくて懐かしくてちょっと笑える、それなのに泣けてくる、
“優しすぎる”ストーリーが繰り広げられていきます。
(出版社/著者からの内容紹介)

   


母親が家を出たのは、息苦しかったから。
父が自殺を試みて失敗、母はそれを気にかけ家を出る。
「父さんといると苦しいのよ」
佐和子は梅雨時になると体調を崩す。
湿気と共に記憶が押し寄せる。

六歳違いの兄、直ちゃんは優等生をやめる。
大学には行かずに、無農薬野菜をつくる農業団体で働く。
父さんをやめた父は、薬をつくるために、
まず薬学部を受験すると言う。
佐和子はそれが自分のためだと気づいている。

「だけど、私に必要なのは
新しい画期的な薬でも、無農薬野菜でもないよ」

では、それは何なのでしょうか?
「いつもいつもみんなが食卓にそろう必要はない」

「バイブル」
父の自殺未遂とその波紋が
影を落としているようには見えなかった直ちゃん。
彼のダメージに気づいたのは
無神経な女だと思っていた直ちゃんの恋人、小林ヨシコ。

兄が優等生だった自分の役割にひずみを感じていたことを、
佐和子は初めて知る。
(食卓をかこむのをやめた母さんは、気づいていました。)
「他人じゃなきゃ救えないものが直ちゃんにはある。きっと、私にも。」

「救世主」
くじ引きで学級委員になってしまった佐和子。
うまくやれずに、クラスで孤立していく。
先生のバックアップはない。
もがけばもがくほど、状況は悪化していく。
このあたりの描写はとてもリアルです。
身に覚えがあるのでなおさらリアルに感じてしまう。
秘策を伝授してくれた大浦くん、いい子ですね。

「プレゼントの効用」
こんなにいい子の大浦くんにこの仕打ちはないでしょう、
と作者に言いたくなる。
「そうなんだよなあ。俺って、なんかいつもついてるんだよな」
というセリフがつらいです。
クリスマスに向かって、「全てが気持ち悪いくらいうまくいっている。」
それが、突然の暗転。

佐和子の危機は父親の時とは違って、
はっきりと原因がわかるものだけれど
本人も家族もどうしていいかわからない。

そんな時やってきた小林ヨシコの
ぶっきらぼうだけれど温かい言葉がいいですね。
卵の殻がはいった不格好なシュークリーム12個。
どんなふうにすれば、元気になってもられるかわからないから
不器用な、はげましのプレゼント。
「全部あんたがたべたらいいよ。」
直ちゃんが「真剣ささえ捨てることができたら、困難は軽減できる」という
長生きの秘訣を、ヨシコのために捨てたのは正解でしたね。

ラスト、大浦くんにプレゼントする予定だったマフラーは、
彼の弟の首に巻かれている。弟くんには長すぎるマフラー。
「大丈夫。僕、大きくなるから」

失ったものはあまりに大きいけれど、
全てが消え去ってしまったわけじゃない。
佐和子が一歩前へ進もうとするラストシーン。
こういうラストでよかった。
「死」によって物語を進めるならば、
それと同等の重みがある再生がなければ許せない。

「幸福な食卓」は映画化されます。
主題歌はMr.Children「くるみ-for the Film-幸福な食卓」

希望の数だけ失望は増える
それでも明日に胸は震える
「どんな事が起こるんだろう?」
想像してみよう
出会いの数だけ別れは増える
それでも希望に胸は震える
引き返しちゃいけないよね
進もう 君のいない道の上へ

桜井さんの歌詞が素晴らしいのは言うまでも無いことです。
それにしても、あまりにこの物語の内容にマッチしていてびっくり。

http://www.youtube.com/watch?v=1gaVQr_SJEI

↑このPVに泣いた中学生多数^^(長男の同級生男女問わず)

幸福な食卓

幸福な食卓

  • 作者: 瀬尾 まいこ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/11/20
  • メディア: 単行本


表にでない形でダメージを受けている家族。
少女が世界と関わることで、
ゆっくりと家族が再生していく物語。
直接的な言葉はなく、
さりげなく変化していく過程が描かれている雰囲気が
どこか、大島弓子作品と重なる。
大島弓子に影響を受けた作家さんたちの影響があるのかな。

 


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