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sauve qui peut 内田樹 [読書]

「おじさん」的思考

「おじさん」的思考

  • 作者: 内田 樹
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2002/04/06
  • メディア: 単行本

sauve qui peut (ソーヴ・キ・プ)

これは船が沈没したり、最前線が崩壊したりしたときに、
最後に指揮官が兵士たちに告げる言葉である。

「生き延びることができるものは、生き延びよ」

集団として生き延びることが困難な局面では、
ひとりひとりが自分の才覚で難局を生き延びる他ない。

 ☆18歳で家から旅立つ娘さんに送る言葉として
内田樹が書いた言葉です。
私も息子たちにこう言いたいと思って書き留めておきます。
      

という事で、またまた内田樹の本です。
わたしは、本を読むときに
小説とは別のかたちの本(たとえばエッセーなど)を
平行して読んでいることが多くて、
今回はそれが内田先生の本というわけです。

40年+α生きてきた、ひねた人間なので、
本の内容すべてに頷くことはできないのですが
普段なんとなく思っていたことを、きちんと言葉にして貰ったような
ストンと胸に落ちていく文章がこの本にもいくつかありました。

「他者からの敬意」なしに人間は愉快に生きることができない
というのは社会生活の原則である。

☆育児のために家にいなければならなくなった時に
感じた閉塞感の理由は
こんなところにもあるのかもしれない。
私がブログに文章を書いたり、
短期アルバイトをしようと思い立つのも
きっとこういう気持ちがあるからでしょう。
この本の買売春について書いてある文章に
上記の言葉がありました。

買売春は、身体的快楽そのものではなくて、
他人を自分の快楽に奉仕する「道具」にする、という
「主人と奴隷ゲーム」にかなり傾いているように思われる。
売春は「仕事をする」ということのいちばん大切な部分、
「その活動を通じて周囲の人々のレスペクトを獲得する」
という点が脱落している。
むしろ「自尊心を放棄することで収入を獲得する」点で、
職業としては成立しないというのが私の考えである。
いくら売春する女性が
「私は軽蔑されてないし、させはしない」と言い張っても、
買春している側が売春する女性を軽蔑しているときには、
自尊心は売り買いされているのである。

☆十代の子どもたちを見ていて、
きちんと説明できないけれど、それは違うと
思っていることがいくつかあって、
はがゆい気持ちになる時があります。

諏訪哲二『オレ様化する子どもたち』(中公新書ラクレ)
という本についてのエントリーが
2005年3月19日の 「内田樹の研究室」 にあります。
こっそり無断転載^^; この長い文章は覚え書きです。


授業中に私語をして、教師が注意すると
「しゃべってねえよ」と怒鳴り返す中学生、
喫煙の現場をおさえられて注意する教師に
「吸ってない」と言い張る高校生、
カンニングペーパーを発見されても
「見てない」と言い張る高校生たちの「不可解な」行動を
諏訪さんは、彼らが「商取引」における「等価交換」の関係を
教育の場に持ち込んできたことの効果であると考える。
つまり、彼らは自分がした「行為」とそれに対する「処罰」が
等価交換でないことに怒っているのである。

教師による処罰は、子供たちを「社会化」「公民化」するための
教化的なバイパスである。
それは直接に喫煙やカンニングという行為を照準しているのではなく、
ある私的な行為がその主観的意図とはかかわりなく、
公的空間では別の水準での「解釈」にさらされるという
「公私のフリクション」を教えるためのものである。

例えば、喫煙がなぜ「悪い」のかということを
合理的に高校生に説明できる教師はいない。
それは「共同体におけるフルメンバーとは
どのような人間のことか」ということについて
熟慮したことのある人間にしか答えのでない問いかけであり、
もちろんそのような人類学的回答は
人生経験の足りない高校生の頭では決して理解できないから、
結果的には誰も説明できないのである。

あるいはカンニングがなぜ「悪い」のか。
これもきちんと説明できる教師はいないだろう。
「フェアネス」ということの重要さにまだ気づかない人間に
「フェアネス」の原理を説いても始まらない。

つまり、学校が「規則」を通じて教えているのは、
「学校には規則があり、教師たちはその遵守を子供たちに要求するが、
その規則の起源を教師たちは言うことができない」という
(人類学的=類的スパンにおいては合理的なのだが)
個人的=短期的スパンを取るとまったく意味不明の事況に
子どもたちをなじませるためなのである。

この「ぜんぜんはなしがみえねーよ」的事況を
混乱のうちに通過することによってしか
子供は大人になることができない。
しかし、今の子供たちは、それに耐えることを拒絶している。

カンニングや喫煙をする子供たちは、
学校側が用意する「処罰」と自分の「行為」を
「合理的に」勘定してみて「引き合わない取引」だと思っている。
「彼および彼女は自分の行為の、自分が認定しているマイナス性と、
教師側が下すことになっている処分とを
まっとうな『等価交換』にしたいと『思っている』。
(…)そこで、自己の考える公正さを確保するために、
事実そのものを『なくす』か、
できるだけ『小さくする』道を選んだ。これ以降、どこの学校でも、
生徒の起こす『事件』の展開はこれと同じものになる(今でもそうである)。」
この「等価交換」を求める消費主体としての
全能的「オレ様」の立ち上げという諏訪さんの子供解釈は
たいへんに汎用性の高い知見だと私は思う。

自分の行為の、自分が認定しているマイナス性と、処分とを
まっとうな『等価交換』にしたいと『思っている』。

大人でも、こういう方がいます。
銀行窓口でいろいろと理詰めで責めてきて
要求を通そうとされますが、
そのルールは国が決めたことだからとしか
言いようがなかったりします。
窓口のパートのおばさんに怒鳴ったってムリだよと
言うことは…もちろんできません。
お手数です申し訳ありませんとか言いながら
何とかおさめます。それが仕事ですから。
(そういう方はとてもえらそーな男性のお年寄りが多いです。
ああはなりたくない)
子どもだけではないような気がする。

☆「世の中のルールはそういったもんなんだよ」
という言葉に反発したことがあります。
それが理不尽なことだったら守んなくってもいいじゃん
と思ってました。(10代前半の頃)
この年齢にまでなると、それが浅はかな考えだとわかります。
そんな簡単なことじゃないもの。
そのルールがどんな過程で成り立ったのか、知ろうともしないで
乏しい経験だけで判断するのは愚かです。

でも、それを10代の自分の子どもに伝えるとなると、
これは難しい。
ヤツらは渦巻く感情の波というバイアスがかかってますから。
よすがとなる言葉があれば
少しだけ毅然とした心持ちになるような気がします。

手強いヤツらに拮抗するためにはこっちも手段を考えねば。
一種の戦いですからね。
ふっかけられたら、負けるわけにはいきません 


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コメント 6

綺華

う~~~ん、我が家だけではなく中・高校生のいるご家庭なら
きっと経験しているだろう場面に対して、親と子が抱えている問題を
説明して下さっているのが面白いですね。

こーゆー風に理論的に自分の、子供の状況を説明して貰うと
今の延々と続く迷路の中で一筋の光を見たような気になります。
ま、気になっているだけで本当の解決にはならないと思うけど、
これも先日の内田先生の本だと言う事で読みたくなりました。

客観的に我が身を振りかえる事で、ゴールの見えない迷路の中にいても
とりあえず行き止まりにぶち当たらないで済みそう(^_^;)
ペンディングって事でしょうか?(笑)
by 綺華 (2006-08-10 14:15) 

miyuco

>ayakaさん
とりあえず少しでも理論武装させていただかないと
若者のパワーに負けそうになってしまいますからね。
ちょっとでも気持ちを補強しておかないと☆
長くてメンドくさい文章を読んでいただいてありがとうございます♪
by miyuco (2006-08-10 16:21) 

dekochan-kyou5momo

やだやだ、また消えちゃいました。

最近の子どもはよくわからない理屈をこねますね。
オトナがひるむのを見ながら攻めてくる。
だからこそ、毅然とした態度であたりたいものです。
多少は理論武装も必要ですよね。
私は「ダメなもんは理屈やらなかろうが(ダメだというのに、理屈はないだろう)」とキレるのもありだと思ってるダメ教師ですが。
内田さんの本はおもしろいですね。
by dekochan-kyou5momo (2006-08-10 22:40) 

真紅

miyucoさま、こんにちは。
内田先生のご本にはまっておられるのですね。私は『街場のアメリカ論』が途中で止まってます。これも面白いので早く再開したいのですが。
内田先生は「考える人」であるだけでなく、実際に子育てを(しかもシングルで)された「実践の人」でもあるので、書かれていることに説得力があるのだと思います。
ブログに書かれる学生たちへのまなざしにも愛が感じられて、私は大好きです。ゼミ生の皆さんがうらやましい。
ではでは、またお邪魔しますね。
by 真紅 (2006-08-10 22:42) 

miyuco

>deko先生
「ダメなものはダメ」でいいんだなと、この本を読んで思いました。
deko先生は正しいし、毅然とした態度でこう言ってくださる先生には
頭が下がります。子どもが小さいうちは理屈を言っても通じないから
「ダメ」ときっぱり言えたのに、身体が大きくなった子どもに対しては
ひるんでしまったり、めんどくさいと思ったり^^;
そんなダメ親がしっかりするためにも、背中を押してくれるような
論理を心に置いておこうと思っています。
気休めになるだけかもしれないけれど、それでもいいかな。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-08-11 08:12) 

miyuco

>真紅さま
内田先生はたくさん本を出してますね。
ある程度の年齢になってから注目されるようになったのはなぜか、
なぜ今まで彼の発言が世間に認知されなかったのか。
それは、若い頃は育児で忙しかったけれど子育てが終わったので、
やっと広く活動できるようになったからだ、という文章を
どこかで読んだことがあります。育児優先という考え方は男性には
めずらしいですよね。ユニークな方です。
また、何か読んだらご報告いたします^^
コメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-08-11 08:27) 

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