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健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体 [読書]

健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体

健全な肉体に狂気は宿る―生きづらさの正体

  • 作者: 内田 樹, 春日 武彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 新書

おもしろい事がいろいろと書かれてありました。ひっかかった部分をいくつか。
覚え書きです。

「取り返しがつかない」
取り返しがつかないこともあるけれど、取り返しがつくこともある。
取り返しがつくというのは「リセット」ということではなくて、文脈を変えることによって
過去の意味が変わってくるということ。
新しい経験をしただけで、過去の解釈が変わってくる。
あとになって、すでに経験したことの意味が「ああ、あれはこういうことだったのか」
と解釈が一変することだってある。

☆「取り返しがつかない」ことのあまりの重さに押しつぶされそうだと、
なかなかこんなふうには考えられないけれど、風通しの良い考えかたですね。

「母子関係」
母親が娘を愚痴の聞き役にするパターン。
子供が小さいうちは母親の言うことをおとなしく聞いている。
なんか嫌だなあと思いながら子供はどうしようもないから。
毎日のように愚痴を聞かされていると、無力感や怒りのエネルギーをためこんでしまう。
それがどんどん蓄積していき成長したある日、爆発。
「さんざん嫌な物ばかり注ぎ込みやがって!」
人格障害の女性に多いパターンだそうです。

☆私は、子どもに愚痴を聞かせるという気にはならない。
子どもが男の子だからかな。自分自身が親の愚痴の聞き役にされた事がないからかな。
オットの母親は子どもに果てしなく愚痴を聞かせるタイプ。
子どもは男の子ふたりだけれど。コントロール願望が強い方です。
で、オットは本文中の「虫食いスキーム」状態。

母親の側に「子どもにこうなってもらいたい」というかなり明確なイメージがあって、
そのイメージとなじまないような子どもからのシグナルには反応しない。
自分が聞きたくないメッセージを子どもが発しても、母親は耳を塞いでしまう。
でも、そんなふうに親の求めている部分に合致するところは受け入れられるけれど、
それ以外は無視されるという育てられ方をすると、母親がやってみせたような
コミュニケーション遮断がボディーブローみたいにじわじわと効いてきて
子どものある種のコミュニケーション能力を深く損なってしまう。
わからないところは簡単に飛ばしてしまうというやり方。
そうすると、こちらからのメッセージがきちんと届かないことがある。

精神料的に言えば、一種の解離症状で乗り切ってしまう、
ということに近いんじゃないか。
解離というのは、それまでの脈絡とかつながりを全部断ち切ってしまうということで、
「わかりません」とか「記憶にありません」とか言って、それでOKになっちゃう。
たしかにそれで物事は乗り切れるように見えるんですが、でも現実にはそれは通用しない。
ずるいやり方。本人にとってはラクなことだけれども。

☆これをやられると本当に腹が立つ。オットと兄、その母親がそろってこれをやるので
私と兄嫁さんふたりとも、爆発しますが、本人達は私たちがどうして怒っているのか
全くわからない様子。「○○家の病」とふたりで言っています。困ったもんです
でも、私たちにはどうする事もできない。

「母親のコントロール願望は世代伝播していているのではないか」
コントロール願望の強い人というのは、相手と自分の区別がつかない。
だから、自分が思う幸せを相手に強要する。親がよかれと思ってやってることが、
子供にとってはいい迷惑だということは間々あることです。
でも、自他の基準が違うということがわからない。
そうやって育てられた子どももまた自分が母親になると同じことを子どもに繰り返す。
世代を越えても少しも「変化」しない。

☆親は子どもが小さい頃のことを覚えているので、
成長してもついコントロールしたくなります。
自分が若い頃は反発したくせに、立場が変わると
あれほど反発した親と同じようなことを子どもに強いていて、愕然とします。

「親子関係は希薄なほうがいい」
核家族の問題は安定しすぎるということ。安定しすぎて、
家庭内でドミナントな価値観に対してゆるやかな批判というものが
成り立つ余地がない。
親子は議論なんかしない方がいい。
政治にしろ、セックスにしろ、宗教にしろ、親がどんなに説教したって、
あるいは子どもがどんなに親に向かって切々と訴えたって
家庭内にとどまる限り相手の意見を変えることが構造的に不可能な問題です。

☆若かりし頃、自民党支持者の父親に議論をふっかけた時に、
身をもって経験したことです。バカなことをしたなと今では思ってます。

「幸運のペンダントはきく」
あとちょっとで幸運が訪れるってこともあるんじゃないか。
だから、そういうときはこれを持っていればいいんだ、とか、いろいろ思ってしまう。
たとえば、ビンの蓋だとか、いろいろ。
全然根拠のないことだけれど、これを持っていれば
もう少しで幸運がやってくると、思ったりする。

☆こういう事を言う春日武彦先生を好きになってしまう。

巻末に春日先生の文章があります。
人間が健康である条件。

  • 自分を客観的に眺められる能力
  • 物事を保留(ペンディング)しておける能力
  • 秘密を持てる能力
  • 物事には別解があり得ると考える柔軟性

ペンディングする能力、あるいは(精神的な意味で)中腰の姿勢に耐えられるだけの
余裕といったものもきわめて大切である。
それは忍耐力とか不安に耐える力と言い換えられるかもしれない。
あるいは一種の能天気さとか楽天性。「ま、何とかなるさ」とやり過ごせるだけの
いい加減さに近いものかも知れない。
気取って言えば、希望を持ち続けられる能力と称してもよかろう。
世間の諸事はすぐに結果や結論が出ることは少ない。
保留がいくつも生じることで将来への準備や心構えは困難となり、
未来は不透明で曖昧となる。不条理感が立ち上がってくる。
だが、我々はそうした生煮え状態に耐えなければならない。

秘密を持つというのは、後ろ暗いことという意味ではなくて、
自分だけの世界というものをきちっと持てるかどうか、ということ。
心の闇というものではなく、豊かな闇を持つことが必要なのである。

心を病んだ人は、論理的かつきわめて柔軟性に乏しい発想法で妄想の道を
突き進んでいく。
その頑さ、依怙地さ、日常感覚よりも論理を重視する姿勢が
彼らをして異常な精神状態へと導いて行く。

最後に恐ろしいことが書かれていました。

加害者であろうと被害者であろうと、残虐さやコントロール願望に根差した行為というものは
一度存在してしまったらあとは自然消滅したり減衰することなく
次々と宿主を変えて取り憑いていく精神的な寄生体なのである。
人類全体として見れば、エネルギー保存の法則と同じように
心の嫌な部分というのはトータルとして不変であり、
それが個体間で繁く移動しているだけなのかもしれない。

☆こういったネガティブな文章に頷いてしまったりします。
けれども、心の美しい部分は存在し、それもまた伝播していくものであると
私は思うし、また、そうであるようにと強く願っています。

 


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コメント 4

snorita

ペンディング能力か・・・ペンディングばかりが積み重なる自分のことを少し肯定的に考えてもいいのか、やっぱりだめなのか、読んでみたくなりました。おもしろそうですね。
by snorita (2006-08-06 17:08) 

miyuco

>snoritaさん
「一種の能天気さとか楽天性」と言われるとなんかいいですね。
本の中に、こんなふうにも書いてありました。
「時間が経てば、未決だったファクターのいくつかが確定して
取りうるオプションが自ずから限定されてくる。
ですから、結論が出ないときも急がないということ。」
私は、試験の合否を待っているときの気持ちを思いだしてしまった。
by miyuco (2006-08-06 19:11) 

綺華

>物事を保留(ペンディング)しておける能力

私はこれを両親の離婚騒動の間に身に付けました(-_-;)
同じく離婚家庭に育った夫ですが、彼は保留出来ない人で
今すぐ状況が変わらないと周りに当り散らして大変です(^_^;)

私がノーテンキで楽天的なのを夫は思考が浅いとバカにしますが
こんな風に書かれると救われますよ。
・・・ま、夫に何言われようとそれで落ち込んだりもしませんが(笑)

でも、息子達に対応しきれなくなると、この能力もバカに出来ないな・・と
ポジティブに受け止めたりしている自分もいます。

本読んでみたくなりました。
来週、予定がいっぱいの息子達と日帰りで海に行く事になったので
荷物番の私のお供にします♪
by 綺華 (2006-08-07 15:14) 

miyuco

なっ、なんですって~?!息子たちと海ですって?
ステキすぎですわ、ayakaさん♡
どうぞ、楽しんできてくださいませ。
海なんて、もう何年も行ってない…(遠い目…)
あっ、食いつくところが違ったみたい、失礼しました^^;
この本、おもしろいですよ。
ポジティブな内田先生とネガティブな春日先生、どちらの話も
こういう考え方があるのかと、おもしろく読みました。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2006-08-07 18:12) 

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