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『まほろ駅前多田便利軒』 三浦しをん [読書]

三浦しをんの作品を読むのは初めて。
なんとなく、甘ったるいかなと思っていましたが、
そうでもなかった。ほどよい甘さでした。
テンポがよく、登場人物も魅力的。おもしろかった。
イラストの2人が格好良すぎです。

おひとよしの便利屋、多田。
ふとした出会いから多田のもとに転がり込む行天。
行天のことを多田はこう言う。
「高校時代の同級生にして居候にして疫病神」

 

行天は破天荒キャラ。予測不能のはた迷惑な男。
でも、彼の行動に爽快さは感じなかった。
それは行天が自分を大事にしない(できない)ヤツだから。

行天は親に虐待されて育ったらしい。
ほとんどの話に、虐待されている、
あるいは無視されているなど、
親に傷つけられている子供が出てくる。
彼らはそんな親たちを改心させ、
状況を好転させるために熱く行動するわけではない。

小学四年生の由良に多田はこう言う。
「いくら期待しても、おまえの親が、
おまえの望む形で愛してくれることはないだろう」
「だけど、まだだれかを愛するチャンスはある。
与えられなかったものを、今度はちゃんと望んだ形で、
おまえは新しくだれかに与えることができるんだ。
そのチャンスは残されてる」

見た目だけはいい男、行天。
行天を春ちゃんと呼び、かけがえのない友人という凪子。
2人の間には「はる」という女の子がいる。
ただし行天は一度も会ったことがない。
なにも持っていないふりをして、
本当はおまえは全部持ってる。
と多田は言います。

多田が欲しいと望んだにも関わらず、
手が届きそうなところで失ってしまったものを
行天は持っている。
しかしそれは行天にある暗い闇のようなものの
埋め草にはならない。
(「フランダースの犬」のラストシーンに涙するくせに
ハッピーエンドだなんて言う。)

「幸福は再生する」

こう断言する多田のそばにいる事が、
行天は好きなんでしょうね。

こんなふうに書くとこの作品をBLと称した
メッタ斬りのトヨザキさんに
同調したように思われてしまうかな。
私はBLだとは思わないけど。

小学生の女の子の来訪を
熱烈歓迎する街娼ルルとハイシーが好き。
彼女たちにとってチワワは希望だと行天は言う。
「誰かに必要とされるってことは、
だれかの希望になるってことだ。」

このコンビで、まだまだ作品が生まれそうですね。
でも、同じような身勝手キャラ(?)でも、陣内(チルドレン)や
伊良部(空中ブランコ)にはお会いしたいけれど、
行天にまた会いたいとは、そんなに思わないな。

行天の空虚さは痛ましい。

まほろ駅前多田便利軒

まほろ駅前多田便利軒

  • 作者: 三浦 しをん
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本





 


タグ:三浦しをん
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