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『終末のフール』 伊坂幸太郎 [読書]

好きだな~この本。
明日死ぬとしても、生き方を変えたりしない人たちが、
日常を生きている。
ささやかな日常生活を送る人たちが 素晴らしい。
ジワジワと感動がやってきました。

読んでよかった!お薦めです。

     

「8年後に小惑星が落ちてきて地球が滅亡する」
と発表されて5年後
秩序崩壊した混乱の後におとずれた小康状態の
不思議に凪いだ日々。
仙台のヒルズタウンのマンションに住む人々の物語。
8編を収めた連作短編集。

     

街には殺伐とした混乱の名残がある。
地球滅亡まで約3年。
登場人物達は「許す」 家族を、
自分を、小惑星まで。

イサカコウタロウ的な登場人物たち。
「イサカコウタロウ」というジャンルの人々と言っていいと思う。 
(ムラカミハルキ的な人物という表現と同じように)
魅力的です。

【冬眠のガール】
「驕ることもなければ、くさることもなく、
自分の不幸を他人のせいにしない。
そういう女の子を書いたつもりだったのですが、
できあがってみると、(いい意味でも悪い意味でも)
変な女の子になってしまいました。」
四年間、疑似冬眠中だった美智さん。かわいい。
彼女の「目標」になんだか泣けてしまった。
「お父さんとお母さんを恨まない」「死なない」
「お父さんの本を全部読む」は達成したので
「恋人を見つける」にチェンジ。
美智さんは、冬眠を終わりにして、外に出ていく。

【太陽のシール】
一番好きな物語。
ここに出てくる夫婦の雰囲気は伊坂作品では
お馴染みのもののように感じます。
優柔不断の富士夫が決断しました。いいラストだな。

土屋の言う大逆転。胸を衝かれます。

【籠城のビール】
これも一種の大逆転の話ですね。
兄の感情が解けてよかった。

【鋼鉄のウール】
苗場さん、かっこいいです。
「おい俺、俺は、こんな俺を許すのか?」
『チルドレン』陣内の言葉が聞こえるようです。
「そもそも大人が格好良ければ、子供はぐれねえんだよ」

【演劇のオール】
肉親に置き去りにされるように生き残ってしまった人たち。
「オールスター競演ではないが、
残った役者が全員で、舞台が終わるまで
ここで家族を演じるのも贅沢なことじゃないか」
贅沢で、とてもすてきなことだと思います。

【深海のポール】
「頑張って、とにかく、生きろ」
親が子供に伝えたいもっともシンプルで強い願いです。
渡部の父親のもっとインパクトのある武勇伝が読みたかった。
他にもたくさんありそうだもの。
最後の時を思い描くのは恐ろしい。
でも「櫓」がある。

【天体のヨール】
矢部は自分を絶対に許さないことでしょう。
千鶴が彼を許していても。

【終末のフール】
「私は簡単には許さないですから」
同じ立場だったら私もきっとこう言うと思う。
でも、こんなふうに寄り添って生きていくことはできない。
「驕ることもなければ、くさることもなく、
自分の不幸を他人のせいにしない」
そんな人物がここにも登場します。
死を選んでしまったけれど、
和也もきっとそういう人間だったんじゃないかな。

伊坂幸太郎作品にときどき感じる妙な仕掛けくささを、
今回は感じなかった。
鼻につくひっかかりがなく、
温かい手触りが心地よかったです。

伊坂幸太郎は、端的なセリフで人物の心情を語るのが
ほんとうに上手いですね。

『終末のフール』特集サイト
http://www.shueisha.co.jp/hillstown/ 
隠しキャラをさがしましょう

伊坂幸太郎 インタビュー
http://www.s-woman.net/isaka-koutarou/1.html

終末のフール

終末のフール

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2006/03
  • メディア: 単行本

 


タグ:伊坂幸太郎
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コメント 2

びっけ

『終末のフール』・・・最初は意味がわからず『週末のプール』の駄洒落か?なんて、馬鹿なことを思って読み始めました。(^^;
読後、一言・・・良かったです!
人間の弱さも希望も、やわらかい強さみたいなものも、すっと胸に入ってくる小説でした。
miyucoさん一押しに同意です!

★ でも読みきるのに2週間近くかかってしまいました。
短編を一つ読むたびに2,3日、間をあけずにはいられなかったからです。
というのも、この小説の舞台が、私の出身地だからです。
何となく架空の建物ながら、ヒルズタウンも目に浮かぶし、何より、「演劇のオール」の早乙女さんの息子夫婦が飛び降りたという青葉山の橋も、「天体のヨール」の理学部の食堂も、「太陽のシール」のサッカーをする河川敷も「深海のポール」の市民センターも・・・。
なにもかも(あぁ、知っている!)というリアルな風景・場所ばかりなんですもの。
現実とフィクションの世界が頭の中でごっちゃになってしまって、心を落ち着かせてからでないと、次の話が読めませんでした。
こんな体験初めてです。
by びっけ (2007-04-25 15:02) 

miyuco

>びっけさん
「週末のプール」…笑っちゃった☆
びっけさんは杜の都の方でしたか。
伊坂幸太郎は今でも仙台在住で
彼の作品の舞台はほとんど全てが仙台のようです。
きっと『チルドレン』(大好き!)をお読みになっても
同じような感覚になるかもしれませんね。

『終末のフール』いい作品ですよね。
「冬眠のガール」の女の子は大島弓子さんの作品に
出ていても違和感ないようなかんじだな思いながら
読んでいました。
nice!とコメントありがとうございました♪
by miyuco (2007-04-26 10:18) 

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