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蒲公英草紙―常野物語 恩田陸 [読書]

蒲公英草紙―常野物語

蒲公英草紙―常野物語

  • 作者: 恩田 陸
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2005/06
  • メディア: 単行本

舞台は20世紀初頭の東北の農村。
旧家のお嬢様の話し相手を務める少女・峰子の視点から語られる、
不思議な一族の運命。
時を超えて人々はめぐり合い、約束は果たされる。― Amazonより

新しい世紀。海の向こうから押し寄せる「世界」。
変わりゆく日々に少女が見たのは、
時を超えた約束と思い。
懐かしさと切なさがあふれる感動長編。蒲公英草紙サイト(集英社)

     

美しい装幀。
本の内容と題名によく似合うシンプルなデザインです。
ほとんどの方が『光の帝国』を先に読んでいると思います。
もし読んでいなければ「常野だより」という集英社のサイトに
常野のことがくわしく載っています。

『蒲公英草紙』は恩田陸の作品を読む最初の一冊には
あまりふさわしくないような気がします。
恩田陸にしては穏やかすぎる物語です。
…感想がうまく書けません(><。)。。

残念ですが、恩田さんのめくるめくストーリーテリングが
大好きなわたしには物足りなかったです。
紛れもない恩田陸worldなのですが。

直木賞、今回は受賞を逃しましたね。
でも、私はこの作品で受賞して欲しくなかった。
メッタ斬りコンビのお二人が言っているように、
審査員ウケしそうな作品ではあります。
でも、恩田陸の本流とは少し外れているように思います。
(恩田作品を読み始めて日の浅い私が言うのも
おこがましいですね。お許しを)
もっともっと彼女の力を見せつけてくれる作品が
この先絶対に出てくると信じていますので。



『光の帝国』の「大きな引き出し」に出てくる春野家の
先祖にあたる人たちが登場します。
明治時代を舞台にゆっくりと進んでゆく物語。
峰子は、大地主の槇村家のお嬢様で体の弱い聡子の
話し相手をつとめています。
峰子を通して物語は語られていきます。
二十世紀初頭、
「新しい世紀を自分とは違う世界のことと感じていた日々、
最も温かく幸せだった日々の記憶です。」
そんな幸福な季節に出会った不思議な人たちの物語。

物語の終盤、聡子は自分の成すべき事を
粛々と引き受けていきます。
常野の人たちがそうしているように。

御仏の存在を感じられなくなり、苦しんでいる仏師は、
聡子の面影を漂わせた小さなお地蔵様をつくる。
西洋美術を学んでいた椎名は、聡子の肖像画を描き上げる。
そして、二人ともお屋敷を去っていきます。
彼らも成すべき事を引き受けるために。

常野の血筋を継ぐ聡子には
「遠目」という未来を見通す力が備わっています。
自分の運命を感じ取っていたのでしょうか、
光比古に言う「ありがとう」という言葉が切ないです。

この物語には、日清戦争が終わり、
日本が歴史の大きな流れに呑み込まれていく
不穏な時代背景が見え隠れします。
「国のためなら命を投げ出せるというのか」という椎名の問いに
「当たり前です」と晋太郎は答える。
「君のような人間が、吾が国をこれから
世界の一等国に引き上げるだろう」
「けれども、同時に、君の一途さ、無垢さが、
吾が国を地獄まで連れていくに違いない。
僕にはそう思えてならない」

『蒲公英草紙』は2000年に連載されていました。
“にゅう・せんちゅりぃ”を意識して書いたものだそうです。
100年前の新世紀。
ラストはそこから約50年後、
終戦直後の峰子の絶望的なモノローグで終わります。
みんな、いなくなってしまった。
「これからは新しい、素晴らしい国になるのでしょうか」

少なくとも、常野の人たちだけは
静かな佇まいできっと存在していることでしょう。
「いつも彼らがどこかで旅をしていると考えることが
我々の心のよりどころになるのだ。」
光比古には会えなくても、面差しの似た穏やかな一族には、
いつの日にか巡り会えるのではないでしょうか。


タグ:恩田陸
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