SSブログ

空中ブランコ 奥田英朗 [読書]

『空中ブランコ』を読んだ翌日、
空中をスイングするまん丸い伊良部が
唐突に頭の中に浮かんできて、思わず笑ってしまいました。
「おかあさん、どうしたの」と息子に言われて
「イヤ、ヘンなものが頭の中に浮かんで…」
と テキトーに答えましたが。
空中ブランコする伊良部のイメージは強烈です。

伊良部は精神科医。
彼の元へやってくる問題ありの患者さん達が、
伊良部の常識はずれの言動に振り回されているうちに
何故だか回復していってしまうというお話。
解放されるという感じかな。
I shall be released.

知らず知らずのうちに自分で作ってしまった檻の中で
身動きとれなくなっている人たち。
伊良部は彼らの理解の範疇にいないので、
揺さぶられるのでしょう。
一応ドクターだし。
おもしろかった。
注射フェチの破天荒な精神科医というキャラクターが好き。

五つの話から成る短編集。
表題作の『空中ブランコ』…心を開けないブランコ乗り。
サーカスという背景と、宙に舞う伊良部がいいですね。
往診と称してサーカスに押し掛け、
むりやり空中ブランコの練習を始める伊良部。
練習を重ねてセカンドショーに出ることになる。
ヒョウ柄のレオタード
「プレスリー並に太ったフレディ・マーキュリーという感じだった。」
顔にドーランを塗り、つけ睫毛をつける。
「異界からの使者といった趣があった」
そして飛ぶんですね。もうサイコー。

『ハリネズミ』…先端恐怖症のヤクザ。
気の毒だけれどなんかおかしい。

『義父のズラ』…気持ち、よくわかる。
松苗あけみの『原色恋愛図鑑』にこんな話がありましたね。
美女がウエディングドレスで四股を踏んでいたような。
欽ちゃん走りもしていたしあれも強烈でしたね。

『ホットコーナー』…スローイング・イップス。
まともに送球できなくなってしまったプロ野球選手。

『女流作家』…おしゃれな恋愛モノを得意とする女性作家のゆううつ。
「ロッキングオン」を愛読するマユミちゃん、初めて前に出てきます。
彼女はずっとミステリアスでもよかったような気もするけど。

私も身に覚えがあります。高所恐怖症。
子供を産んでからです。高い所に行くと、
抱いている子供を落としてしまうイメージが浮かんで
怖くてしかたないです。
今では子供ふたりとも私よりデカイのに、
未だにダメですね。
伊良部に治療(?)してもらうほどでもないけれど。

この作品で直木賞を受賞したんですよね。
直木賞の選考って本当にわかんない。
『空中ブランコ』が直木賞をとるのはいいけれど
それならば伊坂幸太郎は
何でとらないんだろうと思ってしまう。
(みんな思っているか)
直木賞は作品ではなく
人に与えるものだというのならば尚更のことです。

空中ブランコでスイングする伊良部に、
三原順の「ムーン・ライティング」豚に変身したトマスが
開き直って暴れ回る姿を連想してしまった。

空中ブランコ

空中ブランコ

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/04/24
  • メディア: 単行本

「人間の宝物は言葉だ。一瞬にして人を立ち直らせてくれるのが、言葉だ。」

 

d0052997_14542443.gif
nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 2

けろろ軍曹

阿部寛のTV版でブランコ乗りは堺雅人。
何の役でも山南サンに見える病の私には二重に奇妙な笑いが起こりました。
阿部チャンの伊良部は『trick』の上田次郎っぽかったけど悪くはなかった気がします。
直木賞は、宮部みゆきも『火車』でなく『理由』だったのが
(というより『火車』の時の選考過程が)論議を呼びましたね。
あの内容には驚きました。
誰のコメントか忘れましたが、その人まだ選考委員なのでしょうか?
by けろろ軍曹 (2005-12-19 10:47) 

miyuco

TVの『空中ブランコ』の予告を見て、堺雅人が主演だと思っていました。
ドラマは見ていないけれどブランコ乗りにはピッタリのような気がする。
阿部寛が伊良部って…やっぱりよくわからない^^;
釈由美子のマユミさん、見てみたかったです♡

『火車』のラストの鮮やかな幕切れは見事でした。
そう考えるのが当然だと思っていたので直木賞選考には私も驚きました。
でも、ネット上にアップされているいろいろな感想を読むと
批判的なコメントも割と見かけます。
あれ以上、何を語らせようというのでしょうね。
by miyuco (2005-12-20 08:39) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1