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永遠の森 博物館惑星 菅浩江 [読書]

『美しいと思う心は、どこにあるんだろう』

 地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館“アフロディーテ”。
そこには全世界のありとあらゆる芸術品が収められ、
データベース・コンピュータに直接接続した学芸員たちが、
分析鑑定を通して美の追究に勤しんでいた。
総合管轄部署の田代孝弘は、日々搬入される
いわく付きの物品に対処するなかで、
芸術にこめられた人びとの想いに触れていく…
美をめぐる9つの物語。


 

2000年度の「星雲賞」「日本推理作家協会賞」受賞作。
連作短編集です。

この本は書評サイト銀河通信書評で知って読んだ本です。
とても感動して掲示板にカキコんだところ、
読んでくれてありがとうというメッセージが
作者の菅浩江さんご本人から掲示板に届いていて
ビックリしたことがありました。

「享(う)ける形の手」
かつて神秘的な奉納舞で名を馳せた少女であり
その踊りで一世を風靡したシーター・サダフィ。

彼女は単独公演開催のためにアフロディーテにやって来る。
アフロディーテの全セクションがバックアップする公演。
ロブは彼女のあらゆる意向に応えるために、
アフロディーテを案内していく。

誇り高い彼女が、容姿と技術の衰えに自身をなくし、
今では自分を見失っている。

シーター・サダフィの大ファンであるロブ。
「ずっとあなたに何もしてあげられないことを残念に思っていました」

彼は彼女の頑なな心を解き放すために力を尽くします。

物語は舞台で幕を閉じます。
一切の束縛から逃れてとても幸せそうに踊るシーター。

「僕はあのホールの像だ。両手を差し伸べて待ってるんです。
ただそうして待つしかない。美を持つ人の前で、いいものちょうだい、
もっといいもの、と一方的におねだりしてるんです」

がんじがらめの人の心を解きほぐしていくのはとても難しい。
ゆっくりと心が動いていく様が丁寧に描かれていきます。
それを約35ページで見せてくれる。見事だと思います。

『夏衣(なつぎぬ)の雪』
・・・アフロディーテを舞台にした笛方の襲名披露。
若くして家元を襲名する弟を案じる兄の気持ちは伝わりました。

『永遠の森』
・・・現実では結ばれなかった恋人たちの時を超えた逢瀬。
永遠の森に託された深い感情。

『ラヴ・ソング』
調停や苦情など、瑣末な問題で頭を悩ませ、
美術に触れる閑もない学芸員。
部署間の問題を総括する「美の男神(アポロン)」所属の
不幸な田代孝弘にステキな贈り物です。

SF用語が散りばめられていて、
馴染むまで読みづらいと思う方も多いと思います。
でも、それだけで読むのを放棄するのは
あまりにも、もったいない。
美しい短編集です。
人の想いは美しい。

永遠の森  博物館惑星

永遠の森 博物館惑星

  • 作者: 菅 浩江
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/03/09
  • メディア: 文庫


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