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女と女の約束 [あの日から今日まで]

”ガラガラガラ~”と車庫のシャッターを開ける音が響いた時…私の胸は緊張ではち切れそうになった。それは、私のみならず、中で私を待つ”彼”の母親も同じであった事であろう…。

車庫から部屋につながる、非常階段のような鉄板の階段をどう昇ったのかすら覚えてはいない。

「初めまして…。」そう言ってから、一人でココに来た事の後悔に襲われた。

でも≪ココで怯んではイケナイ!!!≫そんな思いで、二人に気付かれない様に静かに深呼吸した…。

一人で会いたかった。それには訳がある、”彼”にもママにも打ち明けられないでいた事を、今夜”この人”にだけは告白しようと決意を持って来たのだから。

何も言葉が出ない…といった面持ちで、ソファーに身を置くその佇まいは、私の告白で体を震わせながら涙したママと同じ風情である。

「母さん…。今から話せば分かると思うが、雅樹が言った通りのお嬢さんだ。心配はいらんよ。今もなアイツと二人で止めても、母さんの為にどうしても今夜じゃないとダメだと言って聞かない(笑)一人でここまで来た気持ちに応えてやらんとなぁ」そう言って”彼”がいつも私にしてくれるのと同じ様に、お父さんがお母さんの手を優しく撫でる。

「美由さん、お座りなさい。」初めて聞く声に安心して言われるまま腰掛けた私。    

 その様子を確認しながら、今度は私の肩を”ポン”とたたいてお父さんは部屋を出て行った…。

 「心配掛けてゴメンナサイ…。」開口一番に私は昨夜の事から謝罪した。

「私も、貴女の事をひどく誤解したことは謝らなくてはいけないわね。ごめんなさいね。」

「いいえ。そう思われて当然です。謝らないで下さい…。」

「美由さん…私が会いたくないと言ったのは、自分の息子可愛さではないの。」

そう口火を切ってから…お母さんは長い話をして聞かせてくれた。

子宮外妊娠という不幸から子供を授かることが出来ない体になって”彼”を養子に迎えたこと。

偶発的に”彼”が知る前に中学に上がった頃その事実を告知したこと。

その後、多感な時期に一時的にせよ”彼”が親子関係を受け入れられない状況になったこと。

 その息子が築いた家庭が崩壊した事で、今度は孫が母親に捨てられてしまったことへの苦悩。

「雅樹が離婚した時にこう言ったの。俺には子供を捨てることが出来る女の血が流れてる。その俺が選んだ女もまたそういう女で…俺は子供たちにそういう因縁まで背負わせるのかな…って。」

「それは、私も聞きました。」

「それが、ある日突然、”俺、子供たちが一人前になるまで一人で頑張るわ”って、特に娘二人の事が心配らしくて…”親となったら放棄出来ない事を見せないと”って言ったの。これは、今思えば貴女の影響かしらね…。」

「それは彼が自分で決めた事ですよ。ただ、そう決めるまでの彼をずっと見てましたから、私はその決意を受け入れる事が出来たと思ってます。」

「でもね、私は親として貴女のお母さんの気持ちを考え、女として貴女の気持ちを考えた時、やっぱり二人の今の関係に賛成は出来ないの。」

「私自身は後悔していません。確かに母には悲しい気持ちをさせてしまったかもしれないですけど、私が幸せだと感じている事を理解してくれたと感謝しています。」

「せっかく子供が産める体なのに…。」そう言って涙を浮かべながら話を続けるもう一人の母。

「だからと言って、じゃあ結婚しなさいと言ってあげられない。孫たちが”あの頃”の雅樹のようになってしまったり、貴女が”あの時”の私のような悲しい気持ちになってしまったらと思うと…。ごめんなさいね。」そして泣き崩れてしまった…。

「お母さん…泣かないで下さい。」そう言う私も涙声だ。

「私、彼にも母にも言っていない秘密があります。私、本当は赤ちゃん産みたいんです。でも、私は自分が産んだ子の母親になれた時、彼が大切にしている子供たちの”ただお母さんみたいな事をしてくれる人”になってしまうのではないかと不安なんです。だから、彼の意志を受け入れたなんて言いながら、本当は私が弱いから、どちらからも逃げたのかもしれない…。」

「わかったわ…。自分の事そんな風に言わないの!そこまで考えてくれた結果、雅樹でいいならもう、反対しないから。今聞いた事は”女同士の秘密”いい?」

「はい。」

「それから、もし赤ちゃんを授かる事があったら…。その時は迷わずに産みなさい。その時が、雅樹も私たちも、もちろん美由さんも覚悟を決めなければいけない時なのかもしれないわ…。」

「はい。ありがとうございます…。」

「お礼を言うのは、私たちの方…雅樹を支えてやってね。お願いします。」

たくさんの非難も、反対も覚悟しての対面であったはずが、このもう一人の母もまた、私の為に涙を流してくれたのだ…。

こういう、たくさんの愛に支えられて、今があるのだと再認識した。

この”女と女の約束”はこの時から6年が過ぎた今も”彼”は知らない事実。

                           ≪ごめんね…雅樹≫

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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