SSブログ

もう一人の母の思い [あの日から今日まで]

寝過ごしてはいけないと熟睡しないで、うとうとしたまどろみの中で 、”彼”の携帯が鳴ったのを聞いた…。

私や他の人達を起こさぬように、そっとお布団から出た”彼”は少し距離をおいた場所で”ボソボソ”と話している。

けれど、電話を切る直前の「だから今夜話すって!」と言った言葉だけは聞き取れた、”彼”が少しだけ苛立った言い方で声を荒立てたからだ…。

「どうしたの?」

「何でもないよ…。」

 何でもないハズがない…でも、あと少しの時間で”彼”を会社へと送り、離れ離れになる状況で、言葉の行き違いから気まずくなってしまうのはイヤだなと直感的に思った私は、それ以上の追及をやめた…が気になる。

「もう寝ないほうがいいな…。」

そう言って、間接照明だけの薄暗がりで煙草に火を点けた”彼”の横顔は、私の母に会う直前に公園で見た顔と同じに見えて、今ならいいかな?そう思った。

「雅…サ、雅樹?」”彼”が流星に願ったコトを叶えた。

「ん…?(笑)」そのコトに気が付いて笑顔に戻る。

「さっきの電話…私にも関係ある?」

「おふくろからの電話だった…。」 ”彼”の顔から笑顔が消えた。

朝食用のパンが切れていることを思い出した母親が深夜にも関わらず、朝早くに出勤する息子のためにコンビニへ行く途中、帰宅して眠ったと思っていたその息子が見知らぬ女と会い、車に乗り込むところを目撃したのだ。おそらく、眠れぬ夜を過ごしたことであろう…。

 息子と見知らぬ女がバカ騒ぎをして、流星にウツツをぬかしている間ずっと…。

”彼”の話を聞いて、今更ながら胸が痛む…。≪大切な事を忘れていた!≫

自分の母親から理解を得られた事で、すっかり肩の荷を降ろした気分でいた自分の愚かさを恥じた…。

 私の母が私を思うのと同じ様に…いや、もう一人の母親はもっと違う種類の苦悩と苦労を抱えているのである。その思いをナイガシロにしてしまった事はどう説明しても許されるものではない。

「雅樹、私をお母さんに会わせて…。 」三ヶ月前に”彼”が私に言った時と同じ覚悟をもって伝えた。

深夜に男の人と出歩けるような女は普通ではない!水商売の女性と息子が遊び歩いている!と思っている。(注※これは母親世代の偏見であり、その職業の女性を愚弄する意味ではありません。)

さっきの電話で母親が私に抱いた感情を聞かされた”彼”は躊躇した…。

「俺のせいで、美由の印象は最悪だよ。今日のところは俺から話をする。」

「今夜でいい。事実はどうあれ、やってしまったコトは最悪だもの…。」

「俺がイヤなんだ、そんな風に思われたまま会わせるのが!!!」

「私のママに会う時、雅樹は何を言われても気持ちが変わらないって思ってなかった?私も同じだから…。今更どう説明してくれても、昨日の夜にお母さんが受けたダメージを言葉で消し去る事は出来ないと思うし。」

「わかった…。じゃあ今夜。」


 

 そして夜…。

仕事を終えた”彼”が待ち合わせ場所に現れた時、一緒に来たのは母親ではなかった。

「雅樹から話は聞きました。家内は”どんないい子でも会いたくない”って言うんでね…。私は男親として、美由さんとお母さんには感謝したいくらいだが…。」

「わかります…。何もかも全部”彼”から聞いていますから。」 (ママも同じ事を言ったのを思い出した。もう一人の母も同じ思いだと知る。)

「コレ(彼の事)と私たちの親子関係のことも全部ですか?」

「そう…。それは付き合う事になる前に話したよ。」

「あの…私とお母さん二人だけで話をさせてもらえませんか?そして、お二人は今から私の母と会って話をして下さい。今夜の事は母にも話をしてあります、母はそのつもりで家で待っていてくれるはずですから。」

「美由、今夜だけで結果ださなくてもいいよ。美由が悪いわけじゃないから。」

「美由さん、そう焦らなくても…。母さんも落ち着けばわかると思うからな。」

「私が楽になりたいんじゃないんです。今更ですけど、もっと早くに伝えなければいけない事があったのに、こんな事になってしまって…今でなければ、お母さんの言いたい事も聞けないままになってしまう気がします。お願いします!」

この言葉を聞いて”彼”が動いた…。

「オヤジ、美由を俺の部屋に連れて行ってくれよ、オフクロには電話するから。俺はこのまま美由のお母さんを迎えに行ってココに来てもらう。」

”彼”と私に押し切られた形ではあるが、お父さんは心配しながらも了解してくれた。その道すがら、お父さんが口にした言葉…。

「家内はアレを育てるのに私以上に気苦労をしてきた、そういう思いや孫たちの事で今また心配事を抱えて、美由さんを思いやる気持ちがもてないかもしれないが、悪く思わんでやって欲しい…。」

「はい。当然です。でも、理解してもらえるまで会わないでいる事は出来ても、別れるとかは考えられないので、それだけは許して下さい。」

「そんなわからず屋ではないとおもうがなぁ…。(笑)美由さん雅樹をよろしく頼みます。」

この言葉を聞いた時、父を亡くして以来、再び”お父さん”という懐かしく愛おしい感情が胸に湧き上がった。

そして”彼”の家の前に着いた時…。

”彼”の部屋に灯りが点いているのを見つけた父が言った。

「美由さん、母さんはもう雅樹の部屋に来て待ってるみたいだよ。わからず屋じゃなかっただろう?気持ちが落ち着いたんだな。」と優しく笑って私に安心をくれた。

                              

            


nice!(2)  コメント(3)  トラックバック(0) 
共通テーマ:GBA2005エッセイ

nice! 2

コメント 3

lovery-hyutan

こんばんは&おかえり!! 待ってたよ♪
すっごくうれしい!!ありがとう

話はすごいことになってきたね 覚悟の上とはいえ・・・
にしても雅さんの両親に会う前にまずったね
私雅ママの気持ち今なら分かるかも
すごくすごく雅さんのこと可愛がって育ててきたんだろうね

美由さんのママもステキな人だね
すごく見習いたい
これから何年も月日を重ねて私も”親”になっていくんだよね
想像できないけど・・・(苦笑)

今回読ませてもらったことは今私が悩んでることに大いに響いてきたよ
かなりバッチリなタイミングでね
そのほかでも美由さんのブログは私に影響を与えてくれる
これからも楽しみにしてます 
by lovery-hyutan (2005-11-21 22:15) 

美由さん、こんばんわ。そしてお帰りなさいvv
コメントが遅くなってしまってごめんなさい。再開してくださって嬉しいです^^
まだまだ私には空の上の話で、理解するとまではいかないのですが・・それでもいろんなことを感じて、考えさせていただきました。
これからも楽しみにしてますね^^
by (2005-11-21 23:34) 

mi-mi

to:ひゅ~ママ様
ただいま(*^^)v
心配してたよぅ…。
目には見えない”壁”を乗り越えられたらまた来てね(祈)
ママは大変ですね。一生懸命に育てても、美由のように親不孝者になってしまったりして(笑)
でもね、受けた愛情は間違いなく心と体に蓄積されているはずだから…。(^^)/

to:そららん様
また来てくれてありがとう…。(*^。^*)
少し重い展開ですけど、避けては通れない道なのであえて書きました。(笑)
ちょっぴり異質な恋愛で理解を得るには難しいかな。
でも、浮かれ気分でいると、バチが当たるという教訓と思ってください(笑)
by mi-mi (2005-11-26 00:37) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。