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ママの涙 [あの日から今日まで]

8月の旅行の夜、心だけではない繋がりを結んだ後…。

「美由、もう逃げないで…俺をママに会わせて。」と言われた。

当然のことながら”旅行”の事は、ちゃんと正直に話して出かけていたし、この頃既に、母には”恋をしている”という事は告白済みで、”彼”の仕事の関係で毎晩遅くに出かける事にも反対は無かった…。毎日といっても、わずか一時間足らずで帰宅する”いい年をした娘の恋”に反対する理由が無かっただけかもしれない。

”彼”と私が抱える”事実”を全て知ってしまったら、きっとそうはいかなくなる事も分かっている。

けれど、私自身も限界を感じていた。私の人生において”ママに内緒ごと”を持つのは初めての事だったからである…。

≪先に延ばしても、ママを悲しませる事にかわりない…≫

以前に”彼”から言われたのを思い出し、私は決断する…。

「うん。会って…。」

全ての事実を突きつけられた母が、どれほどの悲しみを私にぶつけても、揺るぎない気持ちが今の私にはある。”幸せ”を選んだと言って笑える自信もある。 そして、何より”彼”がどんなに反対されても、気持ちが”ブレる”事はナイと言ってくれたのが心強かった。

9月に入って最初の金曜日の夜、母を食事に誘う。後で”彼”が同席する事は伏せたまま…。

 少しだけお酒の力を借りて勢いをつけ、母に”告白”する。

「ママ…あのね…今付き合ってる彼の事話していい?」

「会社に来てるアノ運送屋さんでしょ?知ってる…。」

実を言えば、部署は違っていたものの、私は母が勤めていた会社に二年間お世話になっていたのだ…。

「どうして?」

「もしかして…と思ってたら、美由が突然会社を辞めるって言い出したからやっぱり!って思った。アノ業者さんとは前にトラブってね…それ知ってて辞めたんでしょ?」

「…そう。」

「まさか!!!不倫じゃないわよね?」

「ううん…違う。でも、バツイチ…。」

「理由は知ってるの?知ってて、美由が選んだならママはいいわ…(笑)」

ここで話が終われるものなら…と思った。でも、”本筋”はココからなのだ。

”彼”の身の上、現状、”あの日”以来二人で話し合って決めた結論…。伝えなくてはならない事はたくさんある。それでも、何一つ抜け落ちることのない様にゆっくりと言葉を選びながら話した…。

途中で何度も、口を挟みそうになるのを必死で抑えている母を見て、胸が詰る思いだった。そして、とうとう最後の最後どうしても言わなくてはイケナイ事実だけが残る。

「・・・・・・だから、結婚はずっと先の話になるから。」

「それだけ?」と私の話が終わったコトを確認した母から出た言葉は、予想をはるかに越えていた…。

「どうして…そんな悲しい恋を…。」と涙を流す母の姿は痛かった。

ちょうど一年前に妹が嫁いだ時も≪パパの分までしっかり見届ける≫と言って気丈に振る舞い、涙の一粒も見せなかった母が、休前日で賑わう店の一角で人目もはばからず泣いているのである…。

ココで私が泣いてはイケナイ。カラカラに渇いた咽喉の奥で”グッ”と涙を飲み込んだ。

「ママ…。私、少しも悲しくないから。」

「美由はママみたいなママになる…ってずっと…ずっと言ってきたのに…。悲しくないわけないでしょ!!!」 (”ゴメンネ”の気持ちで潰れそううになった)

「それでもいいと思える人だから悲しくないの…今夜ココに来るから会って確かめて。」と言うと…。

「会う必要ないわ!例えどんなにイイ人だとしてもね、理解出来る話じゃないでしょう?だからって、今更どうにもならない気持ちなら、ママの賛成なんていらないんじゃないの!!!」

という言葉と私を残して、母は店を出て行ってしまった…。

 

 

 

 

 

 

 


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