”ひとつ”の夜を越えて [あの日から今日まで]
再び出発したものの二時間も遅れれば、もう仲間は目的地に到着する頃であり、”彼”の携帯に連絡が入る…。
”彼”が忘れ物くらいで戻るわけがないと…私たちに何かが起きた事を察知していたらしい。
「私…雅サンだけじゃなくて、みんなからも面倒な女だと思われたかな?」
「そんな事ないよ。今から一緒に過ごせばアイツ等の気持ちはすぐに分かる。」
面識がないわけでは無く、”彼”を取り巻くその仲間がとても心地良い関係である事も充分に感じている。
それだけに、いきなりこんな”失態”をさらしたコトがとても恥ずかしいと思えてならなかった…と同時に”彼”にも≪ゴメンナサイ≫の気持ちが改めて湧いた。
けれど、そんな不安は到着した私たち二人を迎えてくれた時にかけられた言葉で、瞬く間に払拭される…。
「雅!お前一人で戻って来たら帰ってもらおうと思ってたよ(笑)」
「そんな事ありえないだろ(笑)」
「私が悪くて…ゴメンナサイ。」
「いやぁー違うよ。好きな女を怒らせたら男が悪いの!それは俺たちのルールだから…。(笑)」
そう言って笑い飛ばしたのは仕事上のグループのリーダーであり、プライベートでも”彼”が尊敬してやまない存在の”慎サン”という人だ。
”彼”とその仲間との深いつながりに、驚きと安心の気持ちで一杯になった。
「とりあえず、荷物だけ置いて来るから…キー貸して。」と”彼”が言うと、慎サンからの思いがけない発言に、この時ばかりは”彼”も驚いた!!!
「雅、普通チェックインしなけりゃキーは貰えないだろ(笑)」
「俺達はいいよ。みんなと一緒で…。」
男部屋と女部屋で二つ大きな部屋をとるのが通例だと…それは私も事前に聞かされていた。
「お前なんかに惚れた姫に、ご祝儀だよ!今回だけお前たちは二人部屋。」
「そんな…。」 (さすがに”彼”も焦っていたように見えた)
「…」 (当然私はノーコメント)
「こんなコトになるとは思ってなかったから、気を利かせたつもりだったのになぁ!もう仲直りの時”しちゃった”かぁ?(笑)」
「そうゆう仲直りの仕方はしてねぇーし」
「じゃあ、ちょうどよかったじゃん(笑)」
そんなこんなで、思いがけず”彼”と離れ離れにならなくていい初めての夜が訪れたのである。
とは言っても、この状況で”ソレ”はないだろう…と思っていた。
その夜…。
散々、呑んで騒いで”お開き”の後…男性は恒例の麻雀大会の為、それぞれ二つの部屋に分かれた。
女部屋では、更に呑み直しという事で、準備をしていた時に内線が鳴る…。
慎サンの奥様が”ハイハイ”と笑って電話を切った。
「美由ちゃん、雅サンがメンバー余りで一人だから部屋に帰りなさい。」
私は何だか気恥ずかしくて…。「私もう少しココに居ます。」と言った。
「ココにいる女性陣は、みんな同じ事あったんだから。(笑) 恥ずかしがらなくていいから行きなさい…。多分、外に雅サン待ってるわよ。」
そんな言葉と、その他の女性陣のひやかしの言葉に送り出される格好で私は部屋を出た、そこには同じように部屋を閉め出された”彼”が私を待っていたのである…。
私はそのまま部屋に帰るのを躊躇い「温泉に行こっか?」と言ったけれど”彼”の返事は「部屋に戻ろう。」だった。この時”ナイ”と思っていた事が”アル”かもしれない…と感じとる。
部屋に帰ると、二つ並べて敷かれたお布団…ドキドキはさらに拍車がかかる。
ドキドキを悟られまいと、その場凌ぎに「雅サン…ビールは?」と聞く私を尻目に…”彼”は余裕たっぷりで「美由…」と呼びかける。
今朝あの部屋で、ソファーを”ポンポン”と叩いた時と同じ仕草で、自分が横たわる右の側を”トントン”と指差した…。
≪ココニオイデ…。≫
そして…初めて”ひとつ”の夜を越えた…
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