なくて七癖…7分の1 ① [あの日から今日まで]
8月に入って”彼”は2週間の期限付きで”パパ”ではなくなった。
というのも…”彼”の父方の実家が千葉で旅館を経営している関係で、”彼”のお母さんは手伝いを兼ねて、子供たちをつれて帰省したのである。
去年のお盆過ぎに夏休みを取った”彼”の強行なスケジュールを思い出した。
「今年はお盆に3日間行こうと思ってる…。」
「うん。」 (少し安心した)
「それまでの時間は、二人でいられるから…ね」
「ウレシイ!!!」
この突然の”彼”からの申し入れに少し動揺した…
いつかは通らなければならない、避けられない道。でも今はまだ…その時ではないと思っていた。
私の母親という人は、18才で結婚をして、37才で夫を亡くした…その後は母親としてだけ生きてきた人である。”女”としての時間は父が亡くなった時に一緒に止まったのだと言って笑う…。
そして、残った私たち二人の娘を”パパからの預かり物”と言い。1人になってからも全力で私たちを守り続けてくれた人なのだ。
私自身が選び決断したこの生き方を、そこに微塵も後悔がない事を、どう打ち明ければ理解してもらえるのだろうか…と不安があった。
理解を得られるまでに時間を要するくらいなら、まだいい…。覚悟と自信はある!
何より一番の心配は、それを聞いた時の”母の悲しみ”の方だった…。
その全てを伝えた上で…「もう少し…待って。」と言った。
「わかった…。ただ、先に延ばしても悲しませる事に変わりはないよな?」
そう言った”彼”もまた一瞬ではあるが淋しい目をした。
電話じゃなくてヨカッタ…と思った。
この会話が電話で交わされたのであれば、その淋しさを見逃してしまうところだ。私はすかさず言葉を付け加える…。
「誤解しないでね…。雅サンのコトを何も知らない状態のまま”今ある事実”だけをママに突きつけるのはどうしてもイヤなの。だから…。」
「うん…そっか。」半分以上は納得出来ない格好のまま、私の言い分をのんだ。
「週末に仲間内で一泊旅行の予定があるケド…気まずいな。」と”彼”は言った。
「そんなコト言わないで…。ダメ?」とお願いする私。
「お前、”ダメ”って言わないのわかってて言ってンだろ(笑)」
「連れてってくれるの?」との問いかけた私。
「ママには内緒だから…何もしないって約束して!!!」とふざけて見せて≪ママには秘密≫の共犯者となってくれた。
そして週末…。”彼”に連れられ”仲間たち”と少し恥ずかしい気持ちで年末以来の対面を果たした。
二人きりではないにせよ、今まで過ごしたことのない長さで”彼”の側にいられる事に心は弾んだ
その旅行の入り口となる、都市高速の料金所で予想もしていなかった出来事に見舞われたのである…。
都市高速の料金は前払いで、係り員の人から受け取ったおつりの小銭を”彼”は何気なく…ごく当然の仕草で助手席に座る私に手渡した…つもりだった。
でも、私にはその行動を全く読むことが出来ずに、小銭は車の中でバラバラに散ってしまったのだ…。
それは何故か?
答えは1つである。 私が知らない”彼の癖”
そして、その瞬間に”シマッタ”という顔をした”彼”の動揺が、この助手席でそれを当然の事として受け取っていた人の”存在感”を大きくした…。
「後で拾えばいいよ…。」”彼”がこう言った後、二人とも会話に詰ってしまう。
しばらくして、”彼”は後ろの車に電話で伝えた…。
「忘れ物したから、次の出口で降りる…先に行ってくれ、悪いね…。」
それを聞いた私は「いいよ…。このまま行こうよ。」と言った。
「このまま?美由はよくても俺がイヤなんだよ…。」
そう言って”彼”は出口の車線へとウィンカーを出した。 続く…
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