記念日① ~告白~ [あの日から今日まで]
”彼”を置き去りにしたまま、TAXIに乗った…。
でも、次から次に溢れる涙は止まらない…。
すぐに「ゴメンナサイ…やっぱり降ります。」 そして家までの道程を歩いてた…。
「奈、央…ごめん…ごめ…。」 (嗚咽で言葉にならない)
「わかってる…もういいから。大丈夫?帰れる?」
「うん…。私…イヤ…なの…。」
「当たり前よ…きっと大変なコトいっぱいあるんだもん。ちゃんと始まりの言葉もらわなきゃ…ね。」
何も言わなくても、彼女には…彼女にだけわかっていた。
彼女の好意を無にしてしまった罪悪感からは、少しだけ逃れられた気がしていた。
翌週…残りの数日間は予想(期待も含む)していたのと全く違う気分で過ごす事となる。
私は私で、”彼”は”彼”で…重い空気を感じながら、表向きの通常を取り繕っていただけだ。 ≪私、呼吸してる?≫そう思うほどに…息苦しい空間で…。
予定通りだったのは、6月に入ってからはオフィスワークに専念する事。もう1つ…6月18日を以てこの場所を去る事。
”彼”から電話がかかるコトも、もちろん私がするコトもなく…最終便の積み込みの後、送付状を受け取りに来る彼の”声”を背中越しに聞くコトだけで、”彼”の存在を感じる日が過ぎ…。
一抹の不安を抱えたまま”その日”を迎え…私は”自由”になった。
そして”6月20日(日曜日)”
この日が、”彼”と私の今に繋がる運命の日となるのである…。
夕暮れ時になって、”彼”から電話をもらった。
私の家の近くの公園まで来ている…話があるから出てきて欲しい…と。
いつもの”彼”なら、”出られる?”と聞くはずだ。 この時の”NO”と言わせない言葉で、私は”彼”の”覚悟”を感じとった。
≪来るべき時が来た!!!≫ そう確信して、”彼”が待つと言った場所へ向かう。
どんな車に乗っているか知らない私は、”彼”を見つける事が出来なくて、言われた辺りをウロウロしていた…。
そこに、一台の白い車が私を見つけて止まる…。
「やっぱりこっちだったかぁ…噴水が二つあるとは思わなかった。」そう言って車から降りて来た”彼”を見た途端に涙が出てきた…。
思えば、この1ヵ月近くの間…私にだけ掛けられる”声”を聞くことも、私にだけ向けられる”笑顔”を見ることも無かった。
小さなコトだけれど、とても大事にしていたコト…それに拘ったせいで”再び待つ”ことを余儀なくされた、私の後悔の涙…。
「車の中で話したほうがいい…?」
「ううん…。歩きたい…。」
「わかった、じゃあ行こう。」そう言って、左利きの”彼”は自分の右側に私を並ばせて、そっと確かめるようにして手を繋ぎ歩き出す…。
少しの間、黙ったまま歩き、私の気持ちが落ち着くのを見計って、”彼”が口を開いた。
「俺さぁ…あの時、美由にkissしたこと謝らないよ。」
「…。」 (返事の代りに、繋いだ手を少し”ギュ”っとした)
「酔った勢いなんかじゃないから…。謝りたくない。」
「うん。いい…私も謝って欲しくない…かも。」
「あの時、奈央に言われた…。≪あの子がどれだけの事を諦めて”覚悟”を決めたか解からないなら、思いっきり傷つけて離れて!後は私がなんとかするから≫って。」
「…。」
「だけど…解かってないわけじゃない。俺が自分の気持ち言ったら…本当に美由から色んな夢を奪い取る事になるんだよ。簡単に言っちゃいけない…そう思って最初は絶対に言うつもりはなかった。」
「言わないって…思ってたよ。」
「”オヤスミ”が”バイバイ”の言葉じゃない暮らしが今すぐに出来なくてもいい?」
「うん…。」
「今、覚悟してる以上に悲しい気持ちになる日があっても、俺から気持ちが離れないように、最初くらいは”美由の気持ちをフル満タン”にしてあげないといけなかった…。一回しか言わないから、しっかりと聞いて下さい(笑)」
「はい…。」
「たくさんの夢諦めたコト絶対に後悔させないように大事にするから俺から離れないで下さい…美由、ダイスキだよ」
そう言って手渡された指輪にも欲しかった言葉が刻まれていた…。 "I Love You"
もう充分です…
そして、その時”彼”の左手から”指輪”が消えていたことに気付く。
つづく…
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