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悲しいKiss  [あの日から今日まで]

GWも終盤になったある日、暇を持て余す私に奈央から電話が入る…。

当然の事ながら、退職については四月に開かれた”イチゴの会”で報告済みであった。

「どう?自由になれる日が近づいた気分は(笑)」

「まぁまぁ…ってとこかな(笑)」

「そう…じゃ!加速させてあげよっか?」

「ん…何?」

「美由が決意したご褒美に…二週間後のma-saの誕生日パーティーをセッティングしてあげるよ(笑)」

「無理よ…平日の夜なんて…。」

「あら?平日って言葉が出るあたり、美由も考えなかったわけじゃないのねぇ(笑)」

「そうだね…ちょっとは思ったよ。」

「二日前の土曜日ならma-saがOK!って言っても?」

「本当に?」

「ホントよ(笑)予定しておいて…。」

”もう何もしてあげられない”と言った彼女とは思えないナイスサポート

それが、実は”彼”が奈央に頼んだコトとは思ってもいなかった私だ…。

 

その日から、10日余りの長かったコト…長かったコト…。

”彼”に恋心を抱いてから、一年と二ヶ月…どれだけ”まわり道”して来た事か!

その時間に比べたら、わずか10日…。けれど、待ったが故に手が届きそうで届かない”わずか10日”がひどく長い時間に思えてならなかった…。

 

そして”その日”を翌日に控えた金曜日の最終便を終えた…。

「じゃ明日…じゃなくて月曜日ね!」

「おぅ!”明日”じゃなくて月曜日(笑)了解!!!」そう言い残して”彼”は帰った。

五月末で、私は今までの仕事全てから一線を退くことになっている、こうして”彼”と仕事で関わるコトが出来るのもあと数日…。

それでも、淋しさを感じる事はなく、この”暗黙の了解”に胸がドキドキした…

 

ついに”その日”を迎える…。

世界中のドキドキとワクワクが”カタマリ”で私の心に集結しているみたいだった。それが、待ち合わせの時間が近づくにつれて”緊張感”に姿を変える…。

待ち合わせ場所に着くと、遅刻魔の奈央が”カキンコキン”に緊張した面持ちで待っていた。

「も~遅いよぉ!ma-saが先に来たらどうしようと思ってたじゃない!」

(決して遅くはない…20分も前に私は着いたのだから(笑))

「奈央が早過ぎなのに(笑)」

「だって準備が出来たら、家にジッとしてられなかったンだもん…。」

それもそのはず、かつて”大好きだった男”との十数年ぶりの再会なのだから。

「わかった、わかった(笑)ゴメンネ…。連絡くれたら私も早く来たのに…。」

そして”カキンコキン”が二人になって、数分後…。”彼”が来た

「お待たせ!」

「待ちくたびれた(笑)」

「遅刻してないんですけど?(笑)」

「イイ女になったでしょ?」

「相変わらずだね…(笑)」

「それって昔からイイ女だったって事?」

「受け取り方の問題じゃね?(笑)」

こんな感じで…”あっ”という間に十数年のブランクが埋まってしまうから不思議だ。

その後、予約した店で軽くお酒を飲みながら、それはもう本当に”楽しい時間”を過ごした…そう感じたのは、私だけではないと思う。

待った時間は異常に長かったのに、”その時間”は信じられない程に早く過ぎてしまうもの…こう感じたのは、私だけなのかな?

気持ちは”あっ”という間でも、気が付けば日付が変わりそうな時間になっていた…。

≪もう時間≫そんなタイミングで誰かの携帯が震えた。

「あっ!ゴメン…旦那様だ(笑)」そう言って奈央が席を立つ。

「時間、大丈夫 ?」

「今夜は平気だよ。 それって男のセリフじゃん(笑)」

「そう言う雅サンのセリフも女じゃない(笑)」

ほどなく、今度は私の携帯が震えた。≪奈央…何で?≫

彼女は、電車がない時間を心配した旦那様が迎えに来てくれているから帰ると…用件だけを言ってアッサリ電話を切った。

≪the end≫ 一瞬にして夢から醒めて現実に引き戻された気分になる私。

「奈央、旦那様のお迎えが来て帰っちゃった…。」

「人妻だからなぁ…にしても何か一言くらい言って帰れよ(笑)なぁ?」

もちろん、この中座が奈央の機転であるコトは解かっている…重ね重ね感謝である。その思いを無駄にしてはイケナイ気持ちと、≪まだ帰りたくない≫気持ちで”彼”に問いかけてみた…。

 「私たちも出る?」

「どこか場所変えて、もう少し呑まない?」

「うん… ≪continue≫まだまだ夢の時間は続くらしい。

 そして、お店を出ようとした”私たち二人”は驚く

 会計をしようとした時である…。

「先に帰られたお客様が、お誕生日プレゼントとおっしゃって、お支払いを済ませて行かれました。それと、こちらをお預かりしております。」とお店の人に言われ、驚いている私たちに、それぞれ一通づつのメッセージカードが渡された…。

「ヤラレタ女にしておくのもったいないほどカッコよすぎ(笑)」

「やっぱりイイ女でしょ(笑)」そう言って、エレベーターを待つ間に、二人ともカードを読んだ…。

でも、お互い読んだ後もその内容には触れないで、そのままエレベーターに乗り込んだのである…二通とも”触れにくい”内容だったからだ。

エレベーターの扉が閉まった時、”彼”からさっきまでとは違う口調で聞かれた…。

「会社辞める理由…俺、関係あるよな?」

「…。」 (不意打ちだったのと、カードの内容が気になっていて思わず、黙る)

「こういうコトになったら、ヤバイから…?」

そう言って…”彼”は私に kissをした…。

待っていた言葉が聞かされないままだった事と、その時に繋がれた手の一部に感じた”冷たい金属”が私の心を砕いた。

大好きな”彼”からのkissなのに、とても…とても…悲しかった。

「酔った勢いだったコトにしてあげる…終わった結婚指輪はめたまま…こういうコトしないで…大嫌い!!!」

そう言って、持っていた”彼”へのプレゼントを叩きつけて…その夜は別れた。

≪ダイスキ≫と聞く前なのに、≪大好き≫と伝える前なのに、≪大嫌い≫と言ってしまったほど…”悲しいkiss”

 ma-saへ

   美由が会社を辞めるという事の意味がわかりますか?

   美由なりの”覚悟”が出来たからだと思うの。

   そして、今日ココに来た”勇気”を大事にしてやって。

   そしたら、私を振った過去はチャラにしてあげる。

   お誕生日 おめでとう。

 

 美由へ

   このセッティングはma-saから私が頼まれたの…。

   その意味わかるね?

   長かったけど、待った分だけ大事にしてもらいなさい。

   詳細は後日、要連絡!!!

 

本当に傷ついたのは、私ではないかもしれない…。

私たち二人は、奈央の思いを完全に無駄にしてしまった…のである。

 

 

 

 


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