”待つ”というトキメキ [あの日から今日まで]
その夜…部屋の中で電波の感度が一番いい場所を確保し、長丁場に耐えられる様にクッションを微調節したりしながら、ソワソワ落ち着きのない時間を過ごしていた。
それでも、今夜はいつもみたいに来るかどうか判らない電話を待って…携帯とにらめっこしているのではなく、確固たる”約束”の上で待っているのだ!
”待つ”という行為にこれだけの心地良いトキメキがある事を久しく忘れていたように思う。
どれくらいの時間が流れただろう…日付も変わり、長引く緊張感に少し焦れてきた頃…。
pi.pi.pi. (やっとこの緊張から開放される…と思いつつ)
「お疲れ様」
「うん。疲れた…マジで。」
「…それなら今夜でなくてもいいかも。笑」
「違う…早く帰りたくてちょっと無理した(笑)それでもこの時間だけどね。」
「でも、楽しい話じゃないかもしれない.…汗」
「電話したくて、無理した…って言ってンじゃん(笑)どんな話でもかまわないよ。それに言わなきゃいけない事があるのは、俺の方だしさ…。」
「なぁに?」
「美由が言いたいこと全部聞いてからでいいンだ…俺が言いたいのは一つだけだから。」
「うん…あのね、私…自分がした事だけど、雅サンと普通に話せなくなってから後悔したの…でも、変な噂話が出たら雅サンに迷惑がかかると思ってした事…。」
「俺は美由と違って最初に全部聞かされてたから…その辺の注意はしてたよ。それでも、そうゆう目で見たいヤツは見ればいい…関係ないヤツに何て思われようが”俺たち”の知ったコトかって途中から思い始めた。」 (この”俺たち”にドキンとした)
「でも…」
「じゃあ、なんでパーティーで無視したか?って聞きたい?」
「煩わしい事に関わりたくないんだ…と思ったけど。」
「違うよ、あの場合は事件の関係者じゃん?それこそ、変に誤解されちゃ困る相手なわけ…間違いなく担当をはずされる…。」 (一瞬の沈黙…)
長い期間にわたり気持ちを抑えていたのと、こうして話す時間を失っていたことで、私があまりに素直に気持ちをぶつけたせいか?”彼”もいつになくストレートに話してくれた。 でも、この言葉の後に”はっ”として、何か続きの言葉を飲み込んだ受話器の向こうの”彼”の顔が見えたように感じた。
そこで(いつものペースに戻してあげなくちゃ)と思った…。
「社長の女でも、私に会いたいから?担当はずれたくない?(笑)」
「…。(笑) 俺が言わなきゃいけないのはソレなんだ…。」
「美由 愛人疑惑のこと?」
「ホント、ごめんな 誤解じゃ済まされないほどヒドイ事言ったと思ってる。」
何故、そう”彼”に思わせたか聞きたい!!!と思ったけれど…止めておいた。
おそらく”彼”は本当の言葉を言うことはないであろう…とわかっている。 わかっているだけに”彼”がまた一つ言葉を飲み込む瞬間を感じてしまうのが嫌だったのかもしれない…。
「で、今は?どう思ってるわけ? (笑)」
「不倫とか出来るタイプの女じゃないと思ってる…というか、そんな事は知ってたはずなんだよ…ホント、ゴメン…」
”この言葉”が聞けただけで、もう充分だった。
「仕方ない…消しゴムで消しておくよ。言われた私も忘れたいから(笑)」
「じゃさー、その消しゴムで”聞いた話”も消してみる?関係ない過去の話に惑わされて、不自然に振舞うのはアホらしくね?」
”彼”がそういう気持ちでいてくれるのなら、私の”心”の部分は私自身が細心の注意をすれば済むこと…”彼”の提案に何の問題もない!むしろ、私からもそう願いたい気持ちだ。
「うん…そだね。」
「よかったよちゃんと話ができて…ありがとな しかも遅くまで待たせて…さ。(笑)」
「ううん…待つの嫌じゃなかったし。もっと早くに話さなきゃいけなかったね、私こそありがと…また明日。」
「また、後で…じゃね?」
「あっ!そうだ(笑) じゃ!後でよろしくね」
「了解オヤスミ…。」
電話をきってから…ホッと安心したのと、”彼”への大好きが溢れ出して涙がでてきた…。 でも、その涙はこの一ヶ月間に流した”悲しい涙”とは全く種類の違うものである。
”早く帰りたくて…”と言ってくれた”彼”の言葉に答えたくて、”待つのは嫌じゃなかった…”と言えた私にも驚いていた。
最初から、こんな素直な気持ちでいたら?”悲しい涙”を流すこともナカッタ。
今からでもいい…この気持ちを忘れなければ…二人の距離が近くなるのはそう遠い話ではない…と感じた夜である。
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