以心伝心!!! [あの日から今日まで]
”彼”を名前で呼ぶことが出来なくなってから一ヶ月が過ぎようとしていた。
温度差はあるものの、お互いにギクシャクしたものがあることは確実に感じていた。けれど、それが仕事にまで影響するか?といえば、そこはお互いにそれほど幼稚なわけではなく、必要最低限の会話が交わされる中で、ただただ淡々と日々過ぎていった…という感じだった。
こうなる事は、半分承知の上で自ら望んだことなのだと言い聞かせては(毎日会えるだけでいい…)そんな風に自分で慰めていたように思う。
でも現実はというと”会える”というよりは”顔を合わせる”と言った方が正確であるという状況だった。
誤算だらけの日常をくり返しているうちに、”誤解”を解く必要さえもないような関係だったのだと思い、そんな気持ちさえ失くしつつあった。
そんなある日、近頃はバッグの中に放置されっ放しになっていた携帯が昼の休憩を待っていたかのように鳴ったのである。
一瞬≪ドキッ!≫っとした。でも、”彼”であるはずがないとすぐに打ち消す。
登録されていない、見覚えのない番号が点滅していた…。
「はい。」
「ワ・タ・シ…」
「あっ!奈央?元気してた?」
「うん。元気よ!美由はその後どう?」
「特にはなにも…」 (泣きたい気分だった…)
「あのね、携帯変えたから番号知らせようと思って。」
「今のコノ番号ね?」
「そう!で、ma-saにも伝えてよ!あの人最近、夜は電源切ってるのよねぇ」
「うん。わかった…。」 (嘘だ…そんな話を出来る状態じゃない)
「ついでに、電源切るなぁーって言っておいて!(笑)」
「ん。今、会社だから…また電話する。」
”彼”との事をまだ話せないでいたところでの電話で、この場所がオフィス内でなければ、全てを打ち明けてしまいたい気持ちだった。
これまでも何度、彼女に話したいと思ったか知れない…。でも、私自身が混乱している状態で正確に伝えることが出来ない気がして、話す機会を逸してしまっていたのだ。
”今夜こそ電話しよう!今ならちゃんと話せる”そう思った。
彼女だけが唯一、私の気持ちを知り、理解してくれる存在なのだ。色々な事実や思いを正確に正直に伝えられるよう、今一度、自分の気持ちを整理して電話をしようとした...とその時! 携帯が鳴る… 以心伝心とはこの事だ
ちょっと待ってまだ、変更していないはずなのに…ディスプレイには ”NAO” と点滅している。 何故、古い番号のまま?と半信半疑で電話をとった。
「はい。奈央よね?」
「うん。ma-saに伝言してくれた?」
「…ていうか、番号生きてるじゃない?」
「だって、嘘だもん(笑) アレは旦那の携帯だし…。」
「何?意味わかんないよ」
「わかんない?≪電源切らないで≫って美由の代わりに言ってあげようと思っただけよ(笑)」
「…聞いたの?」
「どうして、黙ってたの?さぁ…聞かせてもらいましょうか?」
この時点で、私は用意した言葉の全てを忘れ”泣き”の体勢になった事は言うまでもなく…。
そして、この電話で”彼”の誤解の全てと、そこに隠れた真実を知る事になる。それから…私自身も”彼”をひどく”誤解”していた事までが明らかとなるのである。
コメント 0