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天国と地獄… (地獄編) [あの日から今日まで]

言わなければヨカッタ…その言葉。

「あの、ひとつ聞いてもいいですか?」

「さっきの話の事なら、終わった事だから言いたくないね。」

「すみません…。」

「って言うのは社長としての気持ち。あの状況では気になって当然だろうから話そうか…。」

そう言って社長は重い口を開いた。

「もう四年前の出来事なんだけど、あの会社のドライバーとうちの女子社員が恋してね、それが俗に言う”不倫”だったわけ、そのうえ女の子は妊娠までして二人で失踪騒ぎを起こしたんだよ。」

「すみません…。もういいです!」

「いいよ。最後まで聞いて。美由にも知っておいてもらった方がいいから。」

「はい…。」

「それで、二人が見つかるまでの間に当然、会社同士の話合いになったわけだけど、俺も若かったし、よそ様のお嬢さんを預かっていた責任もあって…さっき頭を下げてた人、あの人に殴りかかるところまでキレた。応接のテーブルもひっくり返したし…。もちろん取引停止した。」

「それが、何故?また今は復活しているわけですか?」

「半年後に、さっきの人が失踪してた二人を連れて来たんだよ。子供とその女の子に対しての責任を果たす様に会社としても最後まで面倒みるからと言ってね。 それでうちの会社に対しての賠償として、”契約の再開の有無に関係なく、一年間無償で発送を受けさせて欲しい”と言って来た。俺としては、その女子社員が守られさえすれば納得だったし、あの人の誠意に負けた。」

「そうでしたか…。」

「もちろん、一年間無償で…っていうのは辞退したよ。弱味に付け入るっていうか、人の足元みるような商売はしたくないからね。 とまぁそうゆう事があって…さっきみたいな状態になったわけ。納得した?」

「はい。嫌な話をさせてしまって…失礼しました。」

「いいよ。一人の女性を不幸にした分まで二人は今頑張ってるらしいから。」

これで話は終わる…と思った。

「ところで、こんな話になったから聞くけど…今のドライバーと美由はアヤシイっていう人間がいるんだー。課長だけど…(笑) 俺は美由なら心配ない!って笑い飛ばしておいたけど、そんな事件があったから少しは気になってるんだ。」

話が急転回して、私に向けられたのだ。

「大丈夫です。仲がいいのは本当ですけど、実を言うと彼は高校時代の友人ですから。」

「ああ、そういうことか。まぁでも会社では仕事上の域を越えないようにね。」

冷静さを保つ事だけに必死だった。

今日の”彼”の態度が期待していたものと違っていた理由が理解できた。

それと同時に、私が抱いている”彼”への想いは≪極秘事項≫になってしまったのだ。

”大丈夫です”と答えたけれど、何が大丈夫なものか…

この会社にいることが”彼”との接点なのに、この会社にいる以上”点”でしかないのだ。

いくつもの”点”をつなげて、いつか”線”になれたらいいと思っていたのに…。

”点”であることすらも、好奇の目で見られてしまうのである。それは、課長だけには留まらない…この事実を知っている者はみな同じ目を持っているはずだ。

全然大丈夫なんかではない…!!!

勇気と覚悟が出来るまで”秘密”にしておくつもりだった、私の想いはココにいる限り”一生の秘密”にしておかなければならない。

”来なければヨカッタ”のに…。 ”聞かなければヨカッタ”のに…。

”来てしまったから” そして ”聞いてしまったから”

行き止まりの恋はどうなってしまうのだろう…。 凍りついた恋心はこのまま”封印”するしかないのだろうか? 

もうどこにも行けない片想い。

まさに ”心の地獄” 


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