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慰安旅行② [あの日から今日まで]

憂鬱な気分のまま朝を迎えた。

いやいやではあっても、いざ出発してしまえば仲間との悪ふざけも楽しく、旅行会の係として接待や雑用に追われて、予定を淡々とこなしている間に時間は過ぎてしまった。

バスの中で、課長からの”おい!ビール” ”おい!氷”と命令口調に心の中では(おい!おい!って私はお前の妻じゃない)とキレつつも、とりあえず表向きの薄っぺらな笑顔を保つだけの余力はまだ残っていた。

そもそも、この慰安旅行というのは、若い社長の体育会系な方針により、営業部門の私達が日頃の感謝の気持ちを込めて、製造・物流部門の社員の人たちを慰労するという主旨のもので、ある意味仕事よりハードだった。

 「三次会は自由にやればいいから」と社長は私達の頑張りを認めつつ笑った。

「三次会までもつ子がどれだけいるか?ですよね」と笑って答えて少しだけチクリと釘を刺しておいた。

大人になった今でこそ、社長と社員という歴然とした立場の違いは認識しているけれど、ひと度仕事を離れてしまえば”けいチャン” ”みゆチャン”と呼び合える幼なじみという関係も水面下ではあるものの確かに存在していた。

宴会の席での事、予測通り課長からの呼びつけられ、嫌悪感丸出しで前に座った私にいきなり!”愛人になれ!!”と爆弾発言

これはグーで殴ってもいいレベルの発言か? 一回は我慢するか?と自問自答していた瞬間…社長が割って入ってくれたのだ。

「この不景気で俺だってそんな事出来ないのに、愛人を囲う余裕があるなら給料削っていいかなー課長 (笑)」

その場の空気を壊さぬように配慮した、それでも確実に警告となる洒落たイエローカードに心から感謝した。

この社長の苦言で”ゲスな課長”は一気に借りてきた猫となり、”彼”へのお土産は失業報告ではなく、希望通り信州のりんごが確定したのだ。

そして、大きな問題が解決したとたん安心と共に忘れていた淋しさがこみ上げてきた。

普段の私なら絶対に出来っこないところだけれど、張り詰めた気持ちで呑み続けたお酒がここへきてまわり始めていたのだろう、三次会を抜け出して”彼”に電話をした。時間も時間だし…寝てるかも…と思って、チャクシンを残すだけのつもりだった。  でも、以外に短い呼び出しで通話に切り替わった。

「殴ったの?」と”彼”の第一声に驚いた!

「ううん…りんご買って帰れそう」 (好きって言っちゃいそうだった)

「そっか…じゃ寝るわ!オヤスミ酔っぱらい(笑)」

”じゃあ寝る”って?心配して起きててくれたの?

えーっ!!! まさか”彼”も…。と一瞬舞い上がった気持ち

ちょっと待て!でも”彼”は私を≪面倒くさい女≫だと思って嫌いだったはず、そして私は”あの頃”となんら変わってはいない。

好きなわけないじゃん とあっという間の前言撤回

それ以上の妄想に暮れることなく、”酔っぱらい”の私は敢え無く撃沈(-_-)zzz

  

 


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