SSブログ

★★★★★ - DVD『犬神家の一族(1976年)』 [ ┣ TV・映画・DVDレビュー]

今日は、前回レビューした『犬神家の一族(2006年)』の続きというか……DVDがすり減るほど我が家で繰り返しロードショーされている作品がいくつかありますが、そのうちのひとつが、これ。
『犬神家の一族(1976年)』です。

とりあえず言いたい!
1976年版犬神家は最高だと!!
※以下ネタバレ全開、ご注意願います

犬神家の一族(1976) 廉価(期間限定)

犬神家の一族(1976) 廉価(期間限定)

  • 出版社/メーカー: 角川映画
  • 発売日: 2007/07/06
  • メディア: DVD


若干のツッコミどころはあります。
松子は返り血をどう処理したの、とか。
猿蔵ボートの管理サボリすぎでしょ、とか。
復員した佐清がちょっと太り気味だね、とか。
刑事役に角川春樹氏はないでしょw、とか。

だけど、役者陣の演技力と演出がそれを押し切ってしまう。
『お黙なさい!』というセリフを言わせたら、今も昔も(故)高峰三枝子さんが日本一w。草笛光子さん、あおい輝彦さん、坂口良子さんは天才役者ですね。石坂浩二さん、加藤武さん、大滝秀治さんはハマりすぎw(1976年の時点では、ですが……)

その役者陣の中でも、野々宮珠世を演じた、
島田楊子さんはスゴイ。
オーラが違うわ。

どういういきさつか知らないけど、東宝で配給する作品にも関わらず、ヒロインにわざわざライバル会社の松竹所属の島田楊子さんをキャスティングしたのは大正解だったと思います。それだけの価値はあった。もう、お釣りがくるほど。

例えば、ニセ佐清に時計の修理(目的は指紋の採取)を頼む直前、菊人形の背後に身を隠す猿蔵にちらりと目線を送るシーンがあります。『なにかあったら助けてね』的な不安と決意が、あのゼロコンマ数秒の演技から見てとれる。

例えば、佐清が告白状を持って珠世に別れを告げに来るシーン。佐清にすがりついて泣きながら絞り出すように言い続ける『言わないで…言わないで…!』はアドリブだろうと思いますが、相手役のあおい輝彦さんマジで惚れちゃうんじゃないでしょうか;;;。

俺なら絶対惚れる;;;。
絶妙です。


一方で、作品全体に目を向けると、これだけ演出がきっちりしているのに、脚本に遊びの余裕があるから、何回観ても、いろいろと妄想させてくれる余地がある。

推理モノなのに、
何度観ても飽きない。
これはスゴイことだと思うんです。

例えば、なぜ若林は事件が起きる確信をもって金田一に救いを求めたのか。

これは割と簡単に答えが出ます。

映画冒頭の珠世の危機は(その後の金田一と古舘弁護士の会話によれば)3度目なワケで、そのキッカケを作ってしまったのは他ならぬ若林自身だから。1度目・2度目の珠世の危機を知ったとき、(古舘によれば)珠世にひそかに心を寄せていた若林がどんな心境でいたことか、想像に難くない。

つまり、若林が金田一に相談していた『容易ならぬ事態』とは、これから起きるであろう佐武・佐智の殺害ではなく、まさに現在進行形の珠世の危機であった可能性もあるワケです。

また、松子と共通の秘密を握ってしまったこと、その秘密のキーマンである珠世が危険にさらされていることから、自分自身の身に災難が降りかかる恐怖もあったでしょう(実際にそうなったけど)

ただ、新作(2006年版)では、金田一に若林の予言として『血みどろの事件が起こる』と言わせてしまう。

これは観客をこれから起きる惨劇にガイドするために付けられたセリフだと思いますが、この一言は松子がすでに殺害を計画しており、その松子と若林が共通認識を持っていたことを示唆し、この二人の立ち位置と距離感をかなり特定させてしまうもので、観る者の想像の範囲を狭めてしまう。興ざめってモンです。

例えば、小夜子はあの後どうなっちゃったのか;;;。

湖に突き立ったニセ佐清の逆立ち死体を見ながらつぶやいた『私も仲間に入れてよ……』というセリフを最後に、彼女の姿は見れなくなってしまう。

新作ではここまでなんですが、本作では松子が犯人と知らされた梅子が竹子に向かい『あなた黙っていられるの!? あなたは私よりももっとひどい思いをさせられてるじゃないの!』と叫ぶ。

これはたぶん小夜子のことを言っているんだろうと想像できるんですが、もしかして、あのカエルをなでてる姿より先までいっちゃった(=逆立ち死体の仲間になっちゃった)んだろうか;;;。

その結論を想像させる描写はありません。


例えば、なぜ松子は(遺言状が発表される前に)珠世を危険な目にあわせたのか。


ここは、遺言状が発表された後の松子の行動(珠世と佐清を強引に結婚させるために佐武・佐智を殺害する)と、一見矛盾します。新作では、古舘弁護士の『(若林が遺言状を)どこまで読んだかわかりませんが』というフォローのセリフがありました。

確かに、遺言状の内容を見た若林が、その内容を松子に完全に(正確に)伝えなかった(『珠世が大事にされている』てな具合に中途半端に伝わったとか)と考えると、松子が珠世を狙った理由も納得できる。

だけど、そういう無粋な演出はいらないです;;;。頼むから、観る側に想像する楽しみを残してください。なぜなら、本作のままなら他の想像もできるからです。

佐武・佐智を一撃必殺で死に追いやった松子のことですから、やろうと思えば珠世を仕留められたハズ。逆に仕留めなかったということは、殺害の意図なしに珠世を危険にさらしただけという解釈もできる。こうなると、また別の想像を楽しむことができます。

松子が遺言状の内容を完全に把握した上で遺産を独占するためには、珠世に死なれたら困る。加えて、佐清が復員してきたのを機に、遺言状の発表にかこつけて那須で佐武・佐智を殺せばいい。しかし、単純に佐清だけ生き残ったら、疑いの目が松子と佐清に向くのは明白。だから、最初に珠世を危険にさらすという矛盾を作っておく

これは最後の松子のセリフ『二人を亡きものにすればどうでもよかった』と矛盾するように思えますが、逆に言えば『二人を亡きものにするまではやり遂げる』ということ。珠世の危機は、別々の二つの殺人を完遂するまでの時間を稼ぐことを目的として準備したミスリードだったという解釈もできる。

個人的にはこっちの解釈のほうがスッキリするので、新作の古舘のセリフは俺にとってはジャマなんです。

背景を妄想する楽しみがある。
しかし話が曲がることはない。
意図したかどうかはわかりませんが、この作品は、こういうバランスが絶妙なんですね。

今後も我が家では際限なくロードショーされていくでしょうw。
最高!!!


nice!(0)  コメント(4)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 4

あまちゃん

 この映画、犯人が分かっているのについ見てしまいますね。
2006年版は見ていないので、DVDを借りて見ますよ。(無謀かな?)
by あまちゃん (2008-01-22 22:50) 

chibimametanku

こんばんは。
私は文字派+殺人シーンとか苦手なので、小説で読んだだけなのですが、みみちゃんさんのblogで『犬神家の一族(1976年)』を見てみたくなりました。
探してみま~す。
by chibimametanku (2008-01-22 23:36) 

みみちゃん

あまちゃんさん、コメントありがとうございます。
いやもう、ウチでは何回観たことか;;;。たぶん100回以上観てるんじゃないかな;;;。

2006年版ですが、俺の主観的な感想は、前日のレビューで書いた通りです。DVDも持ってますが、観るとムカつくので封印状態です;;;。

Amazonのカスタマレビューを見る限り、
◆1976年版:約4.5点(5点満点)
◆2006年版:約2.5点(5点満点)

……です。……それなりの覚悟があれば……;;;。
もしご覧になるときは、冒頭の『おはる』さんから先制パンチが来ると思うので、ご注意を;;;。
by みみちゃん (2008-01-23 00:15) 

みみちゃん

chibimametankuさん、コメントありがとうございます。
いわゆる映像的なコワイのがお得意でないならば、何箇所か血系とグロ系がありますので、ぜひお食事の時間は避けられたほうがよろしいかと。俺は逆に原作を知らないので、タイミング的に原作と同じ流れなのかどうかがわかりません。ご注意ください。

しかし、映像美と役者さんの演技はホントにスゴイです;;;。あまり本文に書きませんでしたが、あおい輝彦さんの演技も絶妙でした。そのあたりもお楽しみください。
by みみちゃん (2008-01-23 00:22) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。