「博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」(1964) [映画の観方]
<原題>Dr.Strange Love:Or How I Learned To Stop Warrying And Love The Bomb
<監督>スタンリー・キューブリック
<出演>ピーター・セラーズ
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■これもタイトルがいいですね(「8 1/2」もそうですけど、タイトルは重要です!)。なんとも長いタイトルですが、遊び心があります。一目でコメディだと分かるし。邦題も原題の意図を忠実に汲んでますね。
それにしてもこの長いタイトル、製作サイドは嫌がったんじゃないでしょうか。観客が覚えづらいとかなんとか言って。そういえば、ビートルズにも「Everybody's Got Something To Hide Except Me And My Monkey」という長いタイトルの曲がありました。ジョンの曲ですが、彼らしいユーモアを感じます。
■ピーター・セラーズ、1人3役
キューブリックといえば、「2001年宇宙の旅」や「時計じかけのオレンジ」の印象が強いですが、僕はこの「博士の異常な愛情」と「ロリータ」が好きです。そしてそのどちらにもピーター・セラーズが出てるんですね。
この人もかなり好きな役者さんです。いわゆる正当派ではなくコメディアンなんですが、ディフォルメされた個性的なキャラクターを演じ分けさせたらこの人は一番じゃないでしょうか。
「ピンク・パンサー」のクルーゾー警部役が有名ですが、「チャンス」での庭師役など、ほんとに印象に残る、そして笑える役が多いです。
この「博士の異常な愛情」はそんなピーター・セラーズが1人3役を演じており、まさに彼の真骨頂と言えるでしょう。実は白状すると、初めてみたときは1人3役だと気付きませんでした。後でその事実を知って衝撃を受けたのを覚えています。
■リアルな戦闘シーン
映画は冷戦下の核の脅威、戦争の愚かさをブラックに描いたコメディで、みどころは何と言ってもピーター・セラーズのなりきりぶりなんだけど、実はあまり語られてませんが、この映画の凄いところはリアルな戦闘シーンの描写にあると思います。
狂った司令官によって外部と隔絶された部隊と、大統領の命で彼を捕らえようとする部隊が市街戦を繰り広げるんですが、このシーン、まるでニュース映像を見ているかのような迫力。基本的に、カメラは常に後方からのアングルで撮られています。金網越しであったり、銃を連射する兵士の肩ごしであったり。つまり、実際にその場にいる者(戦場カメラマン、もしくは兵士)の目線で描かれているわけです。
実際に銃撃戦が行われている中で、正面から撮るということは、カメラが撃ち合っている両者の間に位置することになるから、リアルさとはかけ離れたものとなるでしょう。ここでは正面からに見えるショットでも、手前に木の影などが映りこんでおり、目線の主は常に遠く物影に隠れていることが分かります。
そしてまた手持ちカメラ(だろうと思われる)によるブレや不安定な目線の動きなども、その場にいる者の恐怖や緊張感、あるいは予測不能な事態に対して即興で対象に目線を動かす様子を見事に表現しています。
このリアルな戦闘シーンの描写により、画面に一段と緊張感が生まれ、それが緊張と緩和の落差を大きくしているんですね。これにより、エンディングでのカタルシス効果はより強くなっています。
■「プライベート・ライアン」「ブラックホーク・ダウン」
スピルバーグの凄いところは、こうした非日常的な映像をいとも簡単に(実際はそんなことはないでしょうが)作れるところだと思います。「未知との遭遇」における宇宙船、「E.T」における宇宙人、「ジュラシック・パーク」における恐竜など。
冒頭数十分にも及ぶ執拗なまでの戦闘シーンは、カメラの揺れによる気分の悪さを、戦闘シーンの生々しい描写による気分の悪さに置き換えようとする意図もあったのではないでしょうか。
唯一残念なのは、トム・ハンクスの存在。別にトム・ハンクスが悪いわけじゃないけど、彼が画面に出ているだけで、ああ、これは映画なんだ、とどこか醒めて見てしまいました。
個人的には同じ戦争ものとしては、リドリー・スコット監督「ブラックホーク・ダウン」の方に軍配が上がります。こちらはコマーシャルかと思うくらい綺麗な映像で、およそリアルとはかけ離れた映像ですが、映画的な迫力という意味では負けてないような気がします。反ドキュメンタリーで、戦闘シーンなども忠実に描かれていたようですが、撮り方がうまいから全く飽きさせない。特に中盤以降は引き込まれました。
・The Authorized Stanley Kubrick Web Site
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