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チューリヒ歌劇場ペレイラ氏、経営方針を語る [オペラの話題]

 2日の朝日新聞夕刊に、来日中のペレイラ氏の談話が掲載されていました。チューリッヒ歌劇場は、人気、実力を兼ね備えた歌手の出演も多く、非常に水準の高いプログラムで、国際的に高く評価されています。今や世界で一番活気のあるオペラハウスのようです。ライモンディも例年、チューリッヒ歌劇場で歌っており、今現在、新制作の《アルジェのイタリア女》に出演中ですが、年に10公演程度の契約のようです。ライモンディの他に、国際的に活躍している歌手で、同劇場の常連としてはブルゾン、ヌッチ、シコフ、ハンプソン、キーンリサイド、クーラ、両アルバレス、シュロット、カウフマン、ベチャラ.......ぱっと思いつくだけでも、歌手の層が厚い、こちらにリストがありますので、どうぞ。いろいろな面で、歌手にとっては、歌いやすく、居心地のいい劇場のようです。


■オペラは生まれ変わる芸術..........
多くの歌劇場が経営難に頭を痛めるなか、長年の赤字を黒字に転換させた劇場が、スイスのチューリヒ歌劇場だ。来日中のペレイラ総裁に、その経営方針などを聞いた。
■「小規模」生かし黒字転換.
 多くの一流劇場が2千席を超えるなか、同歌劇場は、1100席。小ささを逆手に、戦略を練ってきた。
 「大きな劇場にはない、室内楽的な親密さがある。繊細なアンサンブルを育てれば、私たちの歌劇場の生命線になる」と、1991年から総裁を務めるアレクサンダー・ペレイラ総裁は、語る。総裁就任と同時に、 70年代の赤字問題がのしかかったが、「芸術に効率主義はあわない」とリストラはしなかった。「歌劇場は、本来、財界人や個人ら、民間の人々の手で支えられ発展してきた。その原点に戻ろう」
 オリベッティで鍛えた営業力と人脈でスポンサーを開拓、15年で自前収入を3倍に押し上げた。民間資金は、就任当時の年間100万フランから1200万フランに。小規模ならではの機動力で、年間約15もの新制作を舞台にかける。日曜日には1日2公演を上演。年間約270公演中、新制作は、約135公演だ。新作への注目は出演歌手の注目にもなり、チューリヒの舞台に立つことが大切なキャリア、と歌手たちを納得させる素材になる。聴衆の約4分の1は、20代前半まで、というデータも。
 「これくらいでないと劇場が新しいものを生み出していく力がなくなる。オペラは、常に生き生きと生まれ変わってゆかねばならない芸術なのだから」
 年に36回、通常の3分の1で入場できる日を設けた。歌劇場に憧れた幼い頃の自分を聴衆に重ね、新たな挑戦の力を得ている。
2007年05月2日記事抜粋 記事全文はこちら。
 チケット料金が高いと言われていますので、観客に若い人が多いというのが意外です。高いと言っても235〜35スイスフラン、日本円で、23000〜3500円ということは、新国立劇場並ということです。しかし、これで、連日、著名な歌手が出演するオペラが見られるんですから、なんともうらやましいことです。
 記事の中に、興味深い数字が出ていますが、この数字がどれほどのものなのか、他の劇場と比較してみました。
 記事中には、年間約270公演中、新制作は、約15演目135公演となっていますが、バレーをはずして、数え直してみました。

★チューリヒ歌劇場:2006/2007シーズン
年間31演目215公演中、新制作は 、13演目115公演
秘密の結婚&ジャンニスキッキ/Doktor Faust(ブゾーニ)/利口な女狐の物語 /ナクソスのアリアドネ/子供版利口な女狐の物語/Semele /魔笛 /フィガロの結婚/アルジェのイタリア女/BEGGARS OPERA /リミニのフランチェスコ/Szenen aus Goethes Faust
※新制作13演目115公演は、ダントツです。

★メトロポリタン歌劇場:2005/06シーズン(今シーズンも新制作は 5演目)
年間31演目250公演中、新制作は、5演目45公演
ロメオとジュリエット/An American Tragedy/こうもり/マゼッパ /ドン・パスクアーレ

★パリ・オペラ座:2006/2007シーズン
年間20演目175公演中、新制作は、9演目83公演
トロイ人/ユダヤの女/マクロプロス事件/仮面舞踏会 /イドメネオ/ルイーズ/椿姫/Le Journal d'un disparu&青髭/Da gelo a gelo

★ベルリン国立歌劇場:2006/2007シーズン
年間30演目137公演中、新制作は、6演目27公演

The Murder from "Deafman Glance"/マリア・ストゥアルダ/Doktor Faust/
marienvesper |combattimento di tancredi e clorinda/マノン/皇帝ティートの慈悲
※縮小しているのでしょうか。客演歌手は極力抑え、ほとんど専属歌手での公演が多いようです。なにしろ、この規模の劇場では考えられない一人二役で歌手の数をおさえていたりで、ちょっと情けない感じがします。《ドン・ジョヴァンニ》のマゼットと騎士長、《運命の力》カラトラヴァ公爵とグアルディアーノ神父を同じ歌手が歌うのが日常化しています。こんな合理化が、経費削減につながるとは思えませんけど。
ドイチェ・オーパー・ベルリンは、年間41演目169公演中、新制作6演目37公演。《運命の力》で、一人二役なんてことはやっていません。

★新国立劇場:2006/2007シーズン
年間13演目55公演中、新制作は5演目27公演

ドン・カルロ/イドメネオ/さまよえるオランダ人/西部の娘/ばらの騎士
※年間公演数が少なすぎですが、新制作は、他劇場と遜色ないですね。

ミラノ・スカラ座が、年間19演目150公演前後、ボローニャ歌劇場が、年間6演目40公演くらいです。イタリアの歌劇場は半年しか稼働してないようですから、こんなものでしょうか。
ドイツでしたら、バイエルン国立歌劇場の方が、よかったかもしれません。年間40、新制作6演目です。ライモンディも若い頃は、ずいぶんと出演していますが、サバリッシュが、ウチの劇場は年間300公演もやるんだぞ、と自慢していたようですから、今でも250〜300公演くらいはやっているとおもいます。数えるのが面倒なもんで.......
レパートリー制で連日公演があるウィーン国立歌劇場もざっと数えてみましたが、2005/2006シーズンで51演目281公演,新制作5演目程度のようです。やっぱりチューリヒは、別格ですね。
左上の写真をクリックするとビックリ写真が出ますが、この写真についてHPのジオログに書いた記事を転載します。

■この人誰??! 2005年2月18日(金)
 今日は、このビックリ写真について。チューリッヒ歌劇場のエルナーニの公演のときの楽屋写真です。シコフとライモンディはわかりますけど、このまん中のおじさんは誰なんだーーー。ネットを散策していて、この人誰?とおもっていた人物の素性が偶然わかりました。チューリッヒ歌劇場のインテンダントのAlexander Pereira氏、間違いないですよね。 チューリッヒ歌劇場HPで確認。
★アレキサンダー・ペレイラ:1947年10月11日ウィーン生。1991/1992シーズンにチューリッヒ歌劇場のインテンダントに就任した。(Wiener Konzerthausの元総支配人) 芸術的、経済的成功により、2011年まで任期が延長されている。
 このインテンダントさん、愛嬌がありますね。みなさんに愛されるタイプで、著名な歌手さんも集まって来て、オペラハウスの経営もうまくいくということなのかしら。歌劇場のHPの写真のポーズも面白いですね。ほんと、ユニーク!

関連記事:
チューリッヒ歌劇場"OPERNBALL2005"ゲスト出演 インテンダントのアレクサンダー・ペライヤ氏を相手に"La Calunnia"を歌ったようで、愉快な写真があります。


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コメント 18

euridice

あ、初夏の雰囲気になりましたね。ひなげしとマーガレットでしょうか?
目下六本木の新しい美術館で展覧会開催中のモネの絵みたい。

歌劇場の経営はどこも大変みたいですね・・
by euridice (2007-05-03 20:41) 

Sardanapalus

チューリッヒは本当に人気がありますよね。チケット代は割高ですが、新製作の数とレベルの高い専属歌手と人気の売れっ子歌手、そして実力のある指揮者が揃っている上に小ぶりな劇場というのがセールスポイントなんだそうです。「重唱が隅々まで聞き取れる」とか、「歌手が無理なく歌っている」とかいう感想をよく目にします。人間のサイズを超えない大きさなんでしょうね。一度は行きたいです。

>ペレイラ氏
面白い方のようですね。こういう方の人柄が良いと歌手もその歌劇場で仕事をしたくなるのではないでしょうか?

新スキン、若草色で素敵です☆写真の中の赤い花は…ポピーですか?
by Sardanapalus (2007-05-03 21:58) 

Sasha

くだんの記事(2日朝日夕刊)は私もよんだのですが、ふーん、と思っただけで通り過ぎてしまいました。この記事を手がかりにこれほどの力作をものすkeyakiさんはすごいっ!

たしか、ウィーン国立歌劇場も年間公演数がかなり多い劇場ではなかったかと思います。自分で調べてみる余裕(と、気力^^;;)がなくってすみませんが。

で、じゃぱにーずおぺらぱれす、もとい「新国」の公演数は、イタリアの伝統にのっとってたのね。ふふ。^^; で、挙げていらっしゃるスカラ座の公演数ですが、これは12月7日に開幕して春には終わってしまうシーズン以外の「秋公演」(っていうでしょうか...)その他も含まれているのでしょうね。(これも調べずに発言しちゃって申し訳ないですが)
by Sasha (2007-05-03 22:12) 

ふくきち

 こうして比べてみると、新国の公演数、本当に少ないですね~。たしか開場当初は「だんだん公演数を増やしていく」って言っていたと思うんですけど…。
 東京は引越公演が多いですから、歌劇場がたくさんある、みたいな状態でしょうか。ライバルが多くて大変ですよね。
by ふくきち (2007-05-03 22:26) 

keyaki

euridiceさん、やっと、これで落ち着きました。この写真、後に私が立っていまして、それにピントがあっているので、花々はピンぼけなんで、ちょっとモネ風になりました。
自分仕様のスキンにすると、やっぱり、季節にあったものにしたくなりますものね。
by keyaki (2007-05-04 09:18) 

keyaki

Sardanapalusさんが、スキンを変えると私も変えたくなっちゃいます。
赤いのは、ポピー,ひなげしです。春のイタリアのウンブリアとかトスカナあたりの草原はこの花が咲き乱れ、車窓からみると赤い絨毯のようです。これは初夏のミラノ郊外です。

>レベルの高い専属歌手
チューリヒの専属になれれば、幸せですね。新人発掘にも力を入れているようですし。ここから世界にはばたいている歌手もいますものね。
1991年のペレイラ氏の就任記念公演の演出は、ボブだったそうですヨ。(笑
こうやって数字で見ると、今、一番勢いのあるオペラハウスということがよくわかりますね。
今回の「玉突き型キャスト変更」も、ライモンディは、スケジュール的に無理な面があったので、断りたかったようですが、やっぱり、ペレイラ氏の人柄というか、あの笑顔で迫られると、断れないんでしょうね。
by keyaki (2007-05-04 09:41) 

keyaki

Sashaさん、
>ウィーン国立歌劇場も年間公演数がかなり多い劇場
そう、レパートリー制で連日やってますよね。まあ、どのくらいか数えてみました。思ったほどではないじゃないですか。記事にも追記しましたが、特徴は、演目が多いということですね。ドン・カルロにしても昔からの演出(ライモンディがプレミエを歌ったやつ)と、ピザ屋の演出と2種類あったりで、日替わり定食のおもむきで、ウィーンに一週間滞在すれば、6作品くらいは見ることができるということ。ウィーンはとんでもない演奏に当たる確率も高いようですけどね。チューリッヒですと、せいぜい、2演目、今ですと「ファウスト」と「アルジェのイタリア女」。

スカラ座のは、シーズン公演だけです。
by keyaki (2007-05-04 10:11) 

keyaki

ふくきちさん
新国は、1作品、4回公演っていうのが多いんですけど、6回くらいにふやせばいいとおもいますけど、やればやるほど人件費がかかって赤字が増えるってことなんでしょうか。
来日公演の呼び屋さんたち、民間業者を圧迫しないようにしているのかもしれませんが、もっと新国の公演回数を増やせば、来日のあのバカ高いチケット代も、もうちょっとなんとかなると思うんですけど。
by keyaki (2007-05-04 10:16) 

Sasha

keyakiさん、こっちが怠けて調べなかったウィーンの公演数、数えてくださって申し訳ないです。それと、なるほど、スカラ座の数字はシーズン中の本公演だけですか。それにしても、いろいろなことがわかってヒジョーに興味深いですねぇ!
by Sasha (2007-05-04 15:04) 

助六

突然ですが、ライモンディのエージェントがどこかとか、チューリッヒに出演が多い理由なんて耳にしたことあります?

独ヴェルト紙が、CAMIやや凋落後のオペラ・エージェント界事情について記事出してて、中々面白いんですが、疑問点もなくはないもんで。

興味がおありなら、ヒマ見て内容お知らせしますが。
by 助六 (2009-02-10 09:34) 

keyaki

助六さん
すっごく興味があります。楽しみに待ってます。

ライモンディのエージェントって、ドラディ氏のことですよね。ここは、数えるほどしかアーティストがいないのですが、一応、ドミンゴ、カレーラス、ライモンディ、ブルゾン、ヌッチの名前がありますね。多分、昔ながらのエージェントなんでしょうね。確かに、チューリヒ常連が多いような気がしますが、理由は、ドラディ氏とペレイラ氏が親しいのかな....くらいしか思いつきませんが....
シュロットもここなんで、いつもライモンディがシュロットの不始末をカヴァーしてますよね。(笑

今までは、ヴェローナに事務所があるだけだったようですが、最近は、スイスだったかな...にも事務所を開設したみたいです。

ヴィットリオ・グリゴーロも昨年の9月にチューリヒで、ドラディ氏と会ってますので、ウチに来ない? なんて話しがあったのではないかと思います。
で、その時に、12月のラス・パルマスのテノールコンサートにも出演交渉をしたのではないかと.....
このソプラノとテノールを分けた変なプッチーニ・ガラ・コンサートは、ドラディ氏の企画みたいなので、出演者は、彼の事務所のアーティストばかりでした。
http://colleghi.blog.so-net.ne.jp/2008-12-22

今、エージェントのHPを見に行ったら、グリゴーロ、いつのまにかここと契約したみたいです。前はマルセロ・アルバレスがいたと思いますが、今は、いないですね。
歌手の成長に合わせるとか、個性とか適性とか関係無しのアメリカ式のやり方は、ずいぶん前から、ライモンディなんかは批判的でしたね。


by keyaki (2009-02-10 10:32) 

助六

件の記事は2月4日付独ヴェルト紙に掲載されたもので「公的補助金が投入されているオペラ劇場を支配するエージェント」と題されてます。

ヴェルト紙は、独世論を誘導する力があると言われる欧州としては大部数の保守系大衆紙「ビルト・ツァイトゥング」を所有するシュプリンガー・グループが発行してるのもので、大衆紙で儲けてるシュプリンガーがメンツで出してる保守系クオリティー・ペーパーといったとこ。

筆者のマヌエル・ブルック氏は同紙の音楽担当執筆者で批評もたくさん書いてる人ですね。
記事ではかなり強烈な物言いもしてるので、その勇気には敬意を表したいと思います。

なるほど、記事で触れられてるDMのトップと言うのはドラーディ氏のことなんですね。keyakiさん情報でDMは「オジン専門」でないことも分かりました(笑)。

記事はやはり独事情中心ですけど、趣旨は「民間エージェントは、諸アーティストをパッケージの形で劇場に売り込むことで、公金で運用されている劇場のキャスティングを拘束して利己的にカネ稼いでいる」というもの。
別に新しく聞く話ではないけれど、CAMIの領分を侵食する新興諸エージェントの見取り図描いてくれてる他、演出家がスターとしてパッケージの重要要素になってるという指摘や、具体例でまあ面白いハナシもありますので、要点を整理・敷衍して紹介しておきます。

http://www.welt.de/kultur/article3121419/Agenturen-steuern-die-subventionierten-Opern.html

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【エージェントのパッケージ商法】

オペラの配役を決める力を持っているのは、もうかなり以前から劇場監督ではなく、民間のエージェントになっている。
民間エージェントは、芸術的配慮は度外視し、歌手から演出家に至るまでランダムに収めたパッケージを、公金で運用される劇場に配達している形だ。(要するに「ドミンゴ送ってやる代わりに、一緒にウチのアーティストXXやYYも買え」ということ。)

-ロナルド・A・ウィルフォード率いるCAMI(コロンビア・アーティスツ・マネージメントInc.):
最近80歳を迎えたウィルフォードは、長く音楽ビジネスの黒幕としてクラシック界に君臨、配役どころか演目選定にまで影響力を持っていた。事務所はニューヨークのカーネギー・ホール向かい。その商法はまず指揮者を劇場に送り込み、続いて指揮者と一緒に所属器楽ソリストや歌手を送り込むというもの。
CAMIが契約している主要指揮者は、カラヤン、ムーティ、エッシェンバッハ、マズア、小沢、レヴァイン、ティーレマン。

しかしCAMI帝国はしばらく前から他のエージェントに侵食されてきている。

-IMG:
元々スポーツ・エージェントだったが、近年CAMIと並ぶ主要クラッシック・エージェントとなった。

-ジャック・マストロヤンニ:
CAMIから独立後、IMGに所属。バルトリの元エージェント。
バルトリは、その後マストロヤンニも離れ自分でマネージメントを行っている。エージェントに払う8-20%の仲介手数料を節約できる。

-ジェフリー・ヴァンダーヴィーン:
IMGの歌手欧州部門のトップだったが、独立。「サメ」の異名を取る厚顔、特にネトレプコのマネージャーとして知られた。最近ユニヴァーサルと契約、ネトレプコの他、ユニヴァーサル所属のガランチャ、シュロット、ビリャソンのエージェントも務める。オペラだけでなくコンサートも。

指揮者選択については、エージェントの力はかつてに比べて低くなっているが、代って今まではエージェントのまったく勢力域外だった演出家がエージェントの重要な商売手段になってきている。演出家はしばしば天才的創造者を自認し、作曲家と平等の地位を欲しているのだ。売れ筋の演出家は1シーズン最高3演出の契約を取れる。
演出の契約交渉は特に国際共同プロダクションの故に大変複雑で、彼らの手に負えなくなっている。当然演出家はエージェントを使うことを好むし、エージェントは演出家と抱き合わせで指揮者や歌手を劇場に送り込む。

-プント・オペラ:
イタリアの小口エージェントだが、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督を2シーズン務めたパルンボのエージェント。
彼の在任中には、プント・オペラ所属の歌手が多くベルリン・ドイツ・オペラに登場した。
 
-ガーミナル・ヒルバート:
バイエルン国立歌劇場のあるマクシミリアン通りに事務所を構え、同歌劇場はヒルバート所属アーティストを好んで起用している。
特にヒルバートのスター・バリトン、ガヴァネッリなどはミュンヘンのイタリア・オペラ上演に毎晩のように登場している。
やはりヒルバート所属のダムラウ、グルベローヴァ、カサロヴァはしばしばミュンヘンで歌っている。
ヒルバートは、特にヴァーグナー歌手を集めており、ヴァーグナー上演にはヒルバートの提供する「歌手パッケージ」は避けて通れない。

-ミヒャエル・レーヴィン:
ヴィーンのエージェント、かつていくつかの歌劇場の歌手選択を支配。中欧劇場に勢力。
売れ筋の歌手、指揮者、演出家、舞台美術家を混ぜたアーティスト・パッケージを送り込むことで、近年いくつかの劇場で「綜合卸問屋」の地位を獲得。バルセロナ、ハンブルク、フランクフルトがその例。

バルセロナの音楽監督は、ボーダー、ド・ビリー、ヴァイグレと3代続けてレーヴィン所属。
ハンブルクのGMD兼インテンダント、ヤングもレーヴィン所属。フランクフルトで活動していた指揮者カーメンゼークはやはりレーヴィン所属で、今シーズンからハンブルクでヤングの助手に就任した。
演出家パーデ、ウォーナー、ヨーステン、ミーリッツ、クプファーもレーヴィン所属。
ヴァイグレはフランクフルトでGMD就任プレミエ公演としてライマンの「リア王」を振ったが、当然演出はウォーナー、主役はやはりレーヴィン所属のW・コッホが務めた。
ヴァイグレがドレスデンで「ボリス」の新演出を振った時、演出はパーデが担当した。
フランクフルトの「パレストリーナ」新演出は、指揮がレーヴィン所属K・ぺトレンコで演出はクプファーだった。
ハンブルクの「ヴァルキューレ」新演出ではレーヴィン所属のガスティーンがブリュンヒルデに予定されていたが、初日前に病気となり、代役としてやはりレーヴィン所属ポラスキーが歌った。

ミュンヘンのバフラー総監督の回答:
「レーヴィンを特別扱いはしてない。私のヴィーンのフォルクス・オーパー監督時代、レーヴィンからボータ、シュトルックマン、ミーリッツ、ヴァイグレらを紹介され起用した。彼らのレベルは当時のフォルクス・オーパーのそれを抜きん出ていたからだ。彼らの参加で劇場も一新された。ミュンヘンで再度レーヴィンのアーティストを起用するのは、癒着の嫌疑を呼ぶかもしれないが、かと言って彼らを契約せずにいられるだろうか?レーヴィン所属のアーティストには重要な人材が多い。他にも例えばグリーン所属アーティストも起用しているが、重要なテノールは殆どグリーン所属だからで、グリーンをレーヴィン以上や以下に扱っているわけではない。必要なアーティストがレーヴィン所属だというだけで、それ以上ではない。」

-ゼムスキー・グリーン:
ニューヨークのエージェント。テノール34人を保有。アルバレス、カウフマン、バルガス、ビリャソン(数日前に脱退)。

-DMアーティスツ・マネージメント:
ヌッチ、ライモンディ、ブルゾン、ポンスといった「オジン・スター」が所属。彼らはチューリッヒにしばしば登場するが、DMのトップはペレイラのお好みテニス・パートナー。

一方、有力エージェントといえども、能力のない歌手を送り込むことは不可能になっているのも事実。指揮者ド・ビリーの妻ハイディ・ブルンナーもう前から夫の指揮する公演にいつも出るわけではなくなっているし、エージェントのレーヴィンも彼の妻レギーナ・シェルクを売りこむことは止めている。CAMI所属のわがまま歌手バトルも94年のトラブル以降メトでCAMIの指揮者レヴァインの庇護を受けられなくなってしまった。

【劇場のオペラ上演は、私企業のカネ儲けのためのDVD・映画製作の「お膳立て」化】

オぺラ劇場のギャラは上限があり、劇場は名を成すための場になって、もう以前からカネ稼ぎは、劇場公演に付随して製作されるDVD・映画などの派生ビジネスによって行なわれるようになっている。
最近は公金で運営される劇場でのオペラ公演は、私企業が製作する映画・DVDの「お膳立て」化しているのだ。

2010年ヴィーンでガランチャ、ネトレプコ、ビリャソン、恐らくシュロットも揃えた「カルメン」がヤンソンス指揮で予定されているが、この上演はもはやDVD・映画のための伴奏音楽みたいなものだろう。その伴奏音楽に公的補助金が費やされるわけだ。映画を担当するのは例のネトレプコとビリャソンの「ボエーム」を撮ったロベルト・ドーンヘルムなのだ。

裕福なガン治療医師でイタリア健康相も勤めたウンベルト・ヴェロネージを父に持つトッレ・デル・ラーゴのプッチーニ音楽祭監督の指揮者アルベルト・ヴェロネージは、DGとベルリン・ドイツ・オペラをカネで買った形だ。ヴェロネージは昨夏ティミショアラのオペラ劇場を借り切って「友人フリッツ」を練習した後、ベルリンでアラーニャとゲオルギューを使って演奏会式上演でその録音を行った。録音は、かつては誇り高かったDGが販売するのだ。

DGは専属アーティストのアラーニャに登場願うことによってしか、カネのかかるオペラ全曲録音を行えない状態だ。しかもモンプリエの「シラノ・ド・ベルジュラック」上演にせよ、ヴェローナの「道化師」上演にせよ(共にアラーニャの兄弟が演出・美術を担当)DGが出すDVDのお膳立てなのだ。加えてアラーニャの兄弟作曲のオペラ「死刑囚最後の日」にせよ、フランスでしか知られていないマリアーノゆかりのオペレッタ集にせよ、DGはもはや芸術レベルの議論はしないままアラーニャのオファーを鵜呑みにしている状態だ。

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エージェントの「パッケージ商法」で問題になるのは、
① 実力ある有名アーティストを起用したい場合、抱き合わせに他のアーティストを押し付けられれば、劇場としてキャスティングの芸術的整合性を保てなくなる。
② 特定のエージェントの独占が進んで、そのエージェントから漏れたアーティストは能力にかかわらずチャンスが減る。(よく批判されたCAMIの弊害が典型。)
③ 公金で賄われている劇場予算が、特定の民間エージェントに集約的に利する。
といったとこでしょうかね。

一人のアーティストが、複数のエージェントを使ってるケースも多いけど、その場合エージェント間の「棲み分け」はどうなってるんでしょうね? 専ら地理的な縄張り調整?
by 助六 (2009-02-12 13:10) 

keyaki

助六さん
ありがとうございます。いろんなタイプのエージェントがあるんですね。

「パッケージ商法」は、ぜんぜん目新しくないというか、まだそんなことが通用するんだ...というかんじですが、なんか日本の商社みたいですね。
大勢アーティストを抱えて、質より量で稼いでいるエージェントは、衰退するんじゃないかと思いますが、そうでもないんですね。

DVDや映画で稼げるのかしら....今も昔も、それより大規模コンサートとか、ドザ回りのコンサートのほうが実入りがいいと思います。

>DMアーティスツ・マネージメント
これは最近スイスにつくった支店?で、イタリアでは"OPERA ART"

>一人のアーティストが、複数のエージェント
多分契約したからといって、登録料とか契約金をとられるわけではないでしょうから、複数使っている歌手は、多いようですね。
ライモンディとかドミンゴとかカレーラスとか「オジン・スター」がDMアーティスツ・マネージメント(=OPERA ART)に名前があるのも、ドラディ氏と親しいので、名前を貸しているだけかも...枯れ木も山のにぎわいってことで....
ドラディ氏のところは、ウチはオーディションは一切してないから、いろんなものを送って来ないでね....なんてわざわざ明記してます。才能のあるアーティストには自分からスカウトに行くってことですよね。

実力のあるアーティストは、どんなエージェントでもいいでしょうけど、並のアーティストは、「パッケージ商法」をやってるエージェントを選んだ方がいいということですね。
フリーでオペラだけで、食って行ける歌手ってどのくらいいるんでしょうね。
by keyaki (2009-02-13 01:31) 

euridice

>「パッケージ商法」は、ぜんぜん目新しくないというか、
まあ、また例の伝記ネタですけど、ホフマンの弟がエージェントの仕事について話していますので、転載させてください。

・・・フリッツ・ホフマンも専門教育は音楽大学で始めた。彼は打楽器を学んだ。しかし、オーケストラ楽団員のキャリアはチャンスがとても少ないように思われたので、むしろ外国語を完璧に学ぶことにした。彼はパリで、つまり、世界的オペラ・スターたちの仲介をするある大手のエージェント(Dr.ヒルパートのところ。ホフマンのパリのエージェントだった)で言語的能力と芸術的能力の思いきった転換をはかった。「冷たい水に飛び込む」ようなものだったと、彼はその当時のことを表現する。そして、ぞっとするフランネルのスーツを着用しての、たまらなく嫌な最初の三週間をどうにか無事にやり抜こうと頑張った。二年足らずのうちに、パリでマネージメント業の基礎を身につけ、フランスの首都の有力な人々と知り合った。これこそ「独立する前に持てば、はかりしれない利益」になる。
 
 結局再度未知の世界に突き進んだ。つまり、自分の兄弟の専属マネージャーとして独立したのだ。そして、それを遂行してきた。
『頑張り抜くためには、物に動じない神経が必要だ。大きな利点は「複数の仕事を抱えるのではなく、ひとりの歌手に集中して、彼の利益のため交渉するだけでいいことだ。

エージェントは、劇場総監督と芸術家に間で、複数のケースを同時に抱えていることが多い。エーンジェントの関心は芸術家をできる限り頻繁に、できる限り高く売ることにある。同時に値段と役を巧みに操らなければならない。というのは、常に何人かの新しい歌手をいっしょに売り込まなければならないからだ。ひとりのスターだけを単独で斡旋できることなどめったにない。

更に、エージェントはオペラ・ハウスにひいきにしてもらうために互いに競争している。その際、歌手の不利になることが決められることが多い。

成功したスターはいずれにせよこういった避けがたい妥協によって道を固めてきた。一方、「セットで」売りたいエージェントは譲歩せざるをえない。

しかし、私の信条は、決して取り入らないということだ。演出家や指揮者がある歌手に固執すれば、エージェントには自分の提案を押し通すチャンスはほとんどない。私はよりよい出発基地を手に入れようと努力するが、そこでは、売り込もうとはせず、「私たち」を手に入れたいと思ってもらうようにするというのが、私の主義だ』
by euridice (2009-02-13 09:59) 

keyaki

euridiceさん
ホフマンの弟は、大手エージェントに勤めて、ノウハウと人脈を得て、ホフマンのマネージャーになったということですね。
パヴァロッティは、あのブレスリンが専属マネージャーだったんですよね。

>「パッケージ商法」
今、バレンシアでやってる《ファウスト》も、「パッケージ商法」といえなくもないですね。直前に病気でキャンセルしましたが、マルガレーテのドマス、ファウストのグリゴーロ、メフィストのシュロット、皆同じエージェントです。全員集客力のある歌手のセットですけど。こういうのならば、観客も劇場も歓迎ですよね。

オペラ歌手の場合は、デビュー当座は、エージェントも必要でしょうけど、あとは、自分の人脈で、インテンダント、指揮者、演出家とかで出演を決めているのではないかと思います。

いずれにしろ売れている歌手は、エージェントも鵜の目鷹の目で狙っているんでしょうけど、売れない歌手でも、契約しててもらえば、代役歌手になりますから、たくさんアーティストをかかえていたほうがいいということなんでしょうね。別に経費がいるわけではないでしょうから。
エージェントの力より、やっぱり、実力の世界でしょう。
by keyaki (2009-02-13 14:50) 

higi

チューリヒか劇場が黒字なのはペライラ氏の強力な集金力による所が大です。そうして獲得したスポンサーからのお金の内、確か7%が彼の収入になります。入場券は銀行等が接待目的で競って購入し、その際高額で有る事が都合が良いのだと言う人もいます。私自身はスカラの定期会員になっていて、チューリヒに足を伸ばす事は無いのですが、先日スカラに初めてやって来たチューリヒ歌劇場の常連と称するスイス人は、スカラに於いて脇役迄すべてがクオリティを持っている事に驚いていました。
by higi (2012-04-02 03:41) 

keyaki

higiさん
そうなんですか.....それでも再生させたんですから当然の報酬なんでしょうね。日本なんか赤字でも不正をやっていても自分の報酬はいただいちゃうトップがたくさんいますけど...

>入場券は銀行等が接待目的で競って購入し、その際高額で有る事が都合が良いのだと言う人もいます
なるほど....しかも、小さな劇場ですから、必然的に入場料は高くなるでしょうね。
今シーズンからビジネスマンのペレイラではなく演出家のホモキにインテンダントが変わりましたが、うまく運営してほしいですね。オペラかしゅさんたちが路頭に迷うようなことにならないように。

スカラ座は、スカラ座であって欲しいですね。
チューリヒの脇はアンサンブルの方々で、かつてはカウフマンもそうでしたから、皆さん実力のある歌手さんだと思いますが、なにしろ連日公演があるわけですから、プレミエ以外は、リハーサル期間も短いんでしょうね。
スカラ座もなんかいろいろ問題有りのようですが.....そういえば、最近24才か25才の指揮者がスカラデビューを果たしたようですね。

第二ブログでいろいろ情報を収集しているテノールが、秋には、ボエームとリゴレットに出演しますので、感想とかをコメントしていただけると嬉しいです。
by keyaki (2012-04-02 10:06) 

higi

1987年生まれのAndrea Battistoniがフィガロを暗譜で見事に指揮しました。常に歌手見つめ、口パクをしながらグイグイと音楽を引っ張っていました。若いながら信念を持っている様に見受けられました。2月には日本で二期会のナブッコを指揮しているんですね。来年はスカラでオベルトを担当します。

ボエームは定期公演に含まれていませんが行きたいと思っています。ネトレプコの出演する日は既に5倍のプレミアムがついています。
by higi (2012-04-03 20:43) 

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