カラヤンにNo!(@_@) R.ライモンディのスカルピア [トスカ]
1月13日のチューリッヒの《トスカ》のレビューを見つけました。こちらです。フランス語はわかりませんが、なんとなくいいことが書いてあるような気が.......
質問:カラヤンにNo!ということは難しいですか?
ライモンディのスカルピアは世界に衛星生中継されたり、映画になったり、65歳の今日まで各地の劇場でも好評で、当たり役と言ってもいいでしょう。もともと、スカルピアは一般的にはバリトンの役ということもあり、レパートリーではありませんでしたが、1979年のことですが、カラヤンが《トスカ》のレコーディングのために、彼のスカルピアを望んだのがはじまりです。連日6時間のカラヤンとのピアノリハーサルで、ああでもないこうでもない、と言われ、途中で放り投げたくなった...などと後日ライモンディが語っています。カラヤンにとって、《トスカ》の録音は、1962年以来ですから、17年降りで、リッチャッレッリ、カレーラス、ライモンディというその当時の旬の歌手、まあ、手垢のついていない歌手を選んだということでしょうか。
3年後の1982年には、ベルリンで、同じキャストで演奏会形式で上演。普通は、その後、舞台で....ということになるはずですが、それっきりでした。カラヤンは6年後の1988年にザルツブルグ音楽祭で《トスカ》を上演しますが、スカルピアは、フランツ・グルントヘーバーで、ライモンディではありませんでした。
なぜ、ライモンディはスカルピアを歌わなかったのか、私も疑問に思っていましたが、昨年のODB-Opera主催のバキエとライモンディの座談会で明らかになりました。話題が指揮者のことになって、「カラヤンにNo!ということは難しいですか? ライモンディさんも断ったことがあると聞いていますが」という司会者の質問に答えるものでした。カラヤンは、演奏会形式での上演の後、4〜5回、舞台でライモンディにスカルピアを歌ってもらうつもりだったそうですが、断ったということなんです。
「ベルリンでの演奏会形式での上演は、素晴しいものでしたが、ちょっとテンポが遅かったという問題がありました。私は、まだ若かったので、このような遅いテンポで歌い続ければ、私のキャリアは終ると思いました。オペラのテンポではなく交響曲のテンポで歌い続けることは、声にとっては問題なのです。カラヤンは、このような理由を理解しなかったと思いますが。」というのが、ライモンディの言い分です。
結局、実演は、10年後の1992年のあの世界同時衛星中継の《トスカ》で、その後、主要レパートリーとして世界各地の歌劇場で歌うこととなったのです。
♪カラヤンの《トスカ》♪ ★1930年:ザルツブルグ ★1936年:アーヘン ★1939年:アーヘン ★1958年〜1964年 ウィーン スカルピア役は、ゴッビ、ホッター、ロンドン、 バスティアニーニ、タッデイ ★1962年:正規録音 L.プライス、ディ・ステファノ、タッデイ ★1979年:正規録音 リッチャッレッリ、カレーラス、ライモンディ ★1982年:ベルリンで演奏会形式の公演 録音と同じキャスト ★1988年:ザルツブルグ ★1989年:ザルツブルグ |
♪1982年ベルリンライブ |
ーしかし、このドラマティックな役(スカルピア)は、また、声的にも非常にやりがいがありますね。歌手として、この役を頻繁に歌い過ぎると、足元をすくわれるのではないですか。
RR:実際声を最大限に使うようにみえる、こういう物凄くドラマティックな役には当然非常に注意深くしています。しばしば大音響のオーケストラを超えて、歌わなくてはなりません。しかし、私は今は、何を、何処で、何度、誰と共に歌うかを条件として要求できます。きょうスカルピアを歌ったら、その後、2日間、完全に歌わない、完璧な平和が必要です。それに、三日に一度以上は決して歌わないという原則を常に守っています。
ーカラヤンともたくさん仕事をなさっていますが。
RR:カラヤンとの仕事もすばらしかったです。カラヤンからは、音楽や声の色彩を学んだからです。トスカのことを考えると、殊に弱音の部分でなんとも輝かしいベルリンフィルを引出したことか。あのようなことは二度と経験したことがありません。カラヤンは弱音で歌う勇気をもつべきだと言いました。フォルテがとてもはやっているときにだれもそんなことはいいません。さらに、弱音はその上演に声の色彩の全スペクトルをもたらすためにとても大切なのです。しかし、今日、やわらかい音色を聞くことはあまりありません.........
◆その他のカラヤンとのエピソード
・カラヤン指揮の公演とレコーディングの記録ちょっとしたエピソードも
・インタビュー:トスカ(スカルピア)のお勉強で、毎日6時間も、マエストロ・カラヤンにあーーだ こーだと言われ....
・インタビュー:カラヤンのすばらしさを語っています
・インタビュー:カラヤンは弱音で歌う勇気をもつべきだと言いました...
関連記事: RRと指揮者(6)ヘルベルト・フォン・カラヤン
参考: ・トスカ録音 ・トスカ公演記録
毎度、最後まで読んで下さってありがとうございます。 指揮者クイズ:ガブリエル・バキエの言いたい放題 ★ショルティは○○ (ヒント:音楽を勉強する人の必需品) ★○○大好きプレートル (ヒント:テンポに関する音楽用語)ライモンディもこれには同意していますが、それは彼のパーソナリティーだと擁護 |
ローマの来日でスーリアンのスカルピアが雑誌で割りと絶賛されてましたがなんか納得いかないです・・。レポレッロは音域が低いのでもともとバリトンにはきついのです モーツァルトの役自体がヴェルディと比べて明らかにバリトンには低いですね、Dジョヴァン二もレポよりは少し高いですがハイバリトンには低くてきついようです モーツァルトはバスバリトンに歌いやすいようかかれているようです Dホロストフスキーは前によく歌ってたDジョヴァンニを低くて喉に良くないからもう歌わないと言ってます。
by おさむ (2007-01-20 15:03)
>何を、何処で、何度、誰と共に歌うかを条件として要求できます。
これ、いいですね~。この条件を要求できるようになるまで、どのくらいかかったのでしょうね。最高ですね。
by ふくきち (2007-01-21 00:22)
そういえばスカルピアってバスティアニーニも歌っていました。一般には余り高く評価されては居ないようです。ライモンディの方は世界中で歌っているし、定評もありますね。 それでも、レパートリーにするまでには結構待ったというのが興味深いです。
こうしてみるとなんだかバリトンとバスのレパートリーって重なる部分が多いですね。 やっぱりもともと、バリトンはバスから派生したせいでしょうか......。 後でこの点についてブログに書くつもりなのでこちらにTBさせていただいてもよろしいでしょうか?
by yumemi (2007-01-21 06:29)
批評、ベタ誉めですわ(笑)。
by 助六 (2007-01-21 11:11)
おさむさん
声域と声質は、なかなか難しいですね。歌手自身が一番とくわかっていることだとは思いますが、デビュー後に転向するケースもあるということもけっこうあるので、声の成熟っていうんですか、そのへんのこともあるんでしょうね。
スーリアンは、なんでもそこそここなす歌手というイメージなんですが、レパートリーが140というのが、自慢していいのかどうか、私は、??ですが、日本の評論家受けはいいようですね。ライモンディのレパートリーが多すぎるとかなんとか批判した評論家先生のご意見も伺いたいですね。
by keyaki (2007-01-21 18:22)
ふくきちさん
>この条件を要求できるようになるまで、どのくらいかかったのでしょうね。
ライモンディのレパートリーの変遷からみると、だいたい1985年前後からかな..とおもいます。ということは、45歳前後でしょうか。
デビューして 20年くらいが勝負ってことでしょうか。
by keyaki (2007-01-21 18:27)
yumemi さん、TBありがとうございます。
スカルピアというとゴッビを思い浮かべますが、これって、マリア・カラスとセット」で....というかんじですよね。やっぱり、プリマドンナオペラですものね。
でもライモンディの場合は、このスカルピア役を魅力的なものにしたというか、この役の光をあてた功績があるとおもいます。
by keyaki (2007-01-21 19:58)
助六さん、ベタ誉めですか。それはめずらしい。
毎回チューリッヒで見ている方達もみなさん素晴しかったという報告ですから、気合いが入っていたようですね。
by keyaki (2007-01-21 20:07)
コメントの話題から外れますが、カラヤン絡みの記事、連続記事の最初だけをTBします。どうぞ、続けてのぞいてください。
by euridice (2007-01-22 09:13)
euridiceさん、TBありがとうございます。
再度、読ませて頂きました。
ライモンディは、袂を分かつ、という結果にはなりましたが、カラヤンについて同じような感想を持っていますね。
カラヤンに注目されるということは、歌手にとっては、名誉なことであったことは間違いないことですね。
上の記事でもリンクしていますが、抜き出してみました。
................................................................
ライモンディの卓越した音楽的知性とその役に於ける純粋で荒々しいエネルギーは、間もなく、カラヤンの注意をひき、ライモンディに新たな可能性の世界を開いた。
カラヤンは途方もない人物でした。私としては、ちょっと怖い感じでした。それは、いつも偉大な存在の中にいるような印象を持ったからです。カラヤンと歌わなければならないとき、毎回、自分自身に自信がないように感じました。何を期待されているのか分かりませんでした。カラヤンは歌手達にやりたいように、自由にさせて、影響を与えました。オーケストラに対するのと同じでした。説明するよりは、魅力的な態度をもってしました。我々は自分の人格を自由に表現できたのですが、私はいつも説明し難いパニックに捕われました。生きている伝説の前にいる自分自身を見い出して、非常な尊敬の念にとらわれて、パニックになったのです」
しかし、ライモンディは、カラヤンの教師としての技術を認めた最初の人である。「カラヤンとのドン・カルロの最初のリハーサルを覚えています。いつものように、別の言葉で言えば、鉛のように重く、フィリッポを歌いだしまた。すると、カラヤンは、ただ手を自分の唇に当てて、かすかな叫び声を上げたのです。信じられませんでしたが、私は、大声を出すことではなくて、音色を作ることが必要だと、瞬時に理解したのでした」
................................................................
カラヤンが、スカルピアにライモンディを望まなければ、ライモンディはスカルピアを歌っていたかどうかは、疑問ですね。
ライモンディ自身も、カラヤンにもらった役という意識があったので、カラヤン抜きでは、歌えなかった、歌わなかったんでしょうね。
変な言い方ですが、10年後、ほとぼりがさめてからレパートリーに戻した、ということなんでしょうね。
by keyaki (2007-01-22 10:15)
はじめまして。
いつもログしておりました。
ライモンディのスカルピアを聞くとゾクゾクするほどセクシーで悪くて・・・大好きです。
カラヤンがライモンディにオファしなければ、こんなに素晴らしいスカルピアを見ることができなかったんですね。
この記事をよみまして、今までカラヤンは余り好きではなかったのですが、カラヤンの偉大さが少しわかったような気がします。
拙オペラblog
http://blog.livedoor.jp/tea_violetta/
お暇な時にご覧ください。
by (2007-01-23 11:52)
いちき りんこさん
コメントありがとうございます。
おぺきちさんのオペラブログ、ご紹介ありがとうございます。
楽しい記事満載なので、過去ログも読まなくては.....
by keyaki (2007-01-24 00:57)
>ゴッピ
確かに。 でも個人的にはゴッピは余り好きではないんです。確かに素晴らしい歌手/役者だと思いますが。 スカルピアは難しい役だと思います。良い人になってしまってはどうしようもないけれど、ただの好色親父かと言うと、それもまた違うのではないかと。ちょっとサディスト的二面性が出せてこそ、だと思うのです。
by yumemi (2007-01-25 07:41)
yumemiさん
ゴッビは、好き嫌い別れるようですが、私自身、ほとんど聴いていないのですが、ヤーゴとかスカルピアでの評価が高く、「昔は、スカルピアといえばゴッビでしたが、今は.....」みたいなインタビューもありますね。
ライモンディのスカルピア観をインタビューから。
「スカルピアは実に魅力的な人物です。朝、枢機卿の指環にキスし、午後にはちょっと拷問をし、夜には、もっとも汚らわしい売春宿に行くのです。非常に快楽主義的な人物で、トスカで具現されているように、あらゆるタイプの官能的快楽に弱く、同時に氷のように冷酷に計算高く、非常に頭のいい政治的権力者でもあります。緻密な計算と綿密な制御によってその地位にのぼりつめたのです。ねすみをもてあそぶ猫です。やりすぎて、最後にはねずみにしてやられた人物です。」
by keyaki (2007-01-25 14:27)
eurideceさんに紹介いただいて参りました。
カラヤンの「トスカ」に関するライモンディの評、大変興味深く読みました。
拙ブログでは過去のライヴを取り上げています。よろしければお読みください。
リンクもさせていただきました。よろしくお願いいたします。
http://liverecording.blog49.fc2.com/
by Kurwenal (2007-02-24 16:45)
Kurwenalさん、いらっしゃいませ。
ルッジェーロ・ライモンディ一色で、びっくりされたかもしれませんが、コメントしてくださって、嬉しいです。
今後ともよろしくお願いします。
過去のライヴというのは面白いですね。ぜひ、ライモンディ関連をまた取り上げていただきたいです。
by keyaki (2007-02-24 21:14)