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6.第3章:ミラノでの最初の勉強(1)会計士高等専門学校自主退学 [ L.Magiera著:RR]

このフレーズが、父に罰金を払わせたが、変声期が終わったこともわかった
5.第2章:声の発展の続き

 テアトロ・コムナーレでの公演の数々、即興的なショーと学校の勉強の間で、ルッジェーロは、声だけ成長したわけではなかった。
 ピエール・クレシェンツィ会計士高等専門学校に入学した時、彼の父とほとんど同じくらい背が高く、クラスの女生徒達の憧れの的だった。
 少数の同級生は、前の年の夏、彼がロマーニャの海岸で《オテロ》の"Credo"を歌うのを聴いていた。そして、他のジャンルでも同様に、アポロのような体つきのあの少年の美しい音色の歌のことを詳細に女の子達に伝えた。
 ライモンディは、商業の勉強に彼の楽しみを見いだすことはなかったようだ。確かにこの学校には、彼の賛美者もいなくて張り合いがなかった。数分間の休憩時間に、級友達のリクエストに応えて、度々彼の声は、厳格な学校の廊下に鳴り響いた。そして、明らかに音楽的聴覚の素質がほとんどない校長は、毎回彼を堅苦しい学校の雰囲気と同じような態度で厳しく注意した。
 複式簿記の秘訣を習得することに関心が持てなかったのか、あるいは、度重なる校長の叱責に嫌気が差したのか、3年生になったルッジェーロは、唐突ではあったが断固とした決意で、勉強を止めた。※16才

 だしぬけに突然ピアノの勉強を止めた時は、父チェーザレにショックを与えたが、今回は、母ドーラが突然の無謀な行為を責めた。
 ドーラ・デッレ・ドンネは、"紙っきれ(卒業証書)"を盲信している家族の中で育った。どうあっても卒業証書は絶対に重要なものだった。息子がその決断を彼女に伝えた時、失意のどん底に陥って、ついに、今まで決してそのようなことはしたことがなかったが、劇場のように危険で当てにならない道を進もうとしているルッジェーロを無責任に励ました夫を激しくののしるに至った。
 しかし、チェーザレは、ルッジェーロが、音楽院でどっちみち卒業証書を取得して、万一、歌手として成功しない場合も中学か同じ音楽院で教えることができることを穏やかに説得力のある口調で彼女に説明して、短時間で彼女をなだめることに成功した。

 そこで、ドーラは、少なくとも声楽の卒業証書を取得することをルッジェーロに真剣な気持ちで約束させた。息子が、彼女を満足させることは何一つ難しいことではなかった。それは彼が望んだまさにそのことだったのだから。

 さて、そこで教師の選択という難題の前にルッジェーロはいた。友人のモリナーリ・プラデッリでなくて誰に相談するのか? ところがマエストロは、巡業中で彼を探し当てるまでに数ヶ月が過ぎた。その間、ドーラは、なにもしないか、バレーボールの対抗試合にかまけている息子を見る度に、あきれて失望した。

 ついにモリナーリ・プラデッリが帰国して判決を下した。カンポガッリアーニの他にルッジェーロの声をまかせられる人は誰もいないということだった。
 彼ならば、同時にミラノの音楽院への入学の段取りをつけるとプラデッリは考えた。そして数日後ルッジェーロはロンバルディアの州都に出発した。

 彼が一人で取り組んだ初めての長い旅だったし、ミラノははじめてだった。中央駅の巨大な金属の骨組みがなかなか面白いと思った。駅の構内から出て、ヴィットーリア・ピサーニ通りに入って、音楽院への道のりを徒歩で行くことにした。

 彼は、今もまだバレーボールの全国ジュニア代表チームの選手だったので、たくさん歩くことは、筋肉を充分によくほぐす効果があるんだ...とつぶやいた。
 マンゾーニ通りを通り抜けようとして、不意にスカラ座の前に出た。好奇心にかられて大きなポスターに目をやった。おお! なんて名前が!
 同じシーズンに集められたマリア・カラス、ジュリエッタ・シミオナート、マリオ・デル・モナコ、チェーザレ・シェピ、エットーレ・バスティアニーニ......の名前を見て、チェーザレがするに違いない解説を想像した。
 ちょっとめまいがした。おそらく早起き(5時に起きた)のせいだと思うが、ガレリアの喫茶店で元気を回復することにした。ー続くー Leone Magiera著"RUGGERO RAIMONDI"

※イタリアの学校制度
<義務教育>
旧制度では小学校5年間(6〜10歳)、中学校3年間の8年が義務教育。
新制度では小学校6年間、中学校3年間となり、中学校までが義務教育となる。
<高等学校>
イタリアでは中学校卒業資格を取得すれば希望する高等学校に入学できる。高等学校は、文系高校・理系高校・職業学校などに細分化されている。中学卒業者のほぼ全員が高等学校に入学するが、留年および退学者が多いのが特徴である。旧制度では5年制および3年制に分かれていたが、新制度では一律3年課程となる。
音楽系ではコンセルヴァトーリオ(Conservatorio)という音楽学院が40校ほどある。イタリアの Conservatorio は全て国立なので、学費はほとんどかからない。《ローマの サンタ・チェチーリア音楽院》《ミラノの ベルディ音楽院》等有名。


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コメント 2

euridice

お母さんの反応、普通でしょう? 結果がよかったから、笑えますけどね。でも、こういう他人の伝記というものも、人生の因果関係について、幅広く考えるきっかけにもなりますね。「挫折」をどう処理するかって、本人だけでなく、時にはもの凄く大勢に影響を与えることもあるわけで・・・
by euridice (2005-11-08 07:34) 

keyaki

本当に身につまされますね。
お母さんにしてみれば、お父さんが甘いから・・・と腹が立ったと思いますね。
by keyaki (2005-11-09 20:54) 

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