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医療崩壊-「立ち去り型サボタージュ」とは何か [本(医療問題]

『医療崩壊』
小松秀樹(泌尿器科医)
朝日新聞社(2006)


日本の医療制度は医師逃散の危機にあり。必読。

2000年WHOの
保健医療システム総合評価で日本は世界一。
まだかろうじて
日本の医療システムは持ちこたえている。
しかし、今や日本の小児救急は全国的に崩壊し、
産科診療も崩壊しつつあるという。

外来診療費の比較。
開業医は大病院の2.93倍もある。
およそ3倍である。
そして医師の46.8%は勤務医である。

逮捕された偽医師がいた。2004年の収入が2000万である。
ところが勤務医の給料は400~700万なのだ。
これは医師として相応しい給与であろうか?

岩手の公立病院の風景。
小児科を一人で担当する医師。
夜中の2時半に発熱の子どもが現れ、
さらに朝5時にも発熱の子どもが来て呼び出し。
そして朝8時半に勤務すると患者250人待っている。
これでは体が持たない。
これで給与は普通のサラリーマンと変わらないのだ。

だから多くの医師は勤務医を嫌い、開業医になろうとする。
開業医になれるのは、親の病院を継ぐ場合だろう。
これは明らかに医師の世襲化を押し進めていると言えよう。

日本の病床100当たりの医師数は、アメリカの1/5、ドイツの1/3。
日本の病床100当たりの看護師数は、アメリカの1/5、ドイツの1/2。
この数で医療事故が防げるはずがない。

イギリス医療の悲惨なる状況。
イギリスでは、患者は医療機関を選べない。
発熱程度では主治医に電話するだけだ。
要入院でも病棟までの待機時間は平均3時間32分。
最高は78時間。事実上患者は放置されている。
イギリスの医師は次々と海外に移住している。
年度末に休院する病院もある。予算が尽きるためだ。
イギリスの医療予算のGDP比は、
日本とほぼ同じで、先進国で最低レベルである。


日本の医療はイギリス型になるのか。あるいはアメリカ型になるのか。
アメリカでは、患者の医療保険でカバーされていない手術は拒絶される。
アメリカの医療は産業であり、お金がないと受けられないのだ。

日本の長すぎる大学院制度。
宇沢弘文によると、修士2年と博士3年の2種の過程を
英語を誤訳して、間違って縦につないでしまったらしい。
間抜けすぎる……

自分の行為は完璧でないのに他人には完璧を求める困った人たち。
あなたは自分にできないことを医師に求めていないだろうか?
自分が医師だったら、自分が求めるような仁者として振る舞えるのか?
医師は聖人ではない。あなたの家族でもないのだ。

医は仁術という。医師のための心得である。
それは患者が求めるものではない。
これは医師が自分の身を守るための保身術なのである。

アメリカで、医療事故で訴えられる医師の特徴を調査した。
その結果、訴えられた医師とは、技量が劣る医師ではなく、
患者への愛想が悪い医師であった。
医は仁術とはまさに患者をまやかすための技法でもある。

医療は戦争に似ている。人の生死を扱う。
その効果は確率的であり、万全は有り得ない。
医師と患者の関係は、将軍と兵士の関係に近い。
対等ではないのだ。

将軍はその生涯に体験する戦争で無数の人の命を失う。
どんな名将でも、味方に一人の死者も出さないことは有り得ない。
医師もまたその生涯で無数の患者を診療するが、
決してすべての人の命を救うことはできない。

医は仁術とは、用兵は仁術というのと同じ意味でのみ正しい。
それは呉起が兵士の膿を自ら吸ったようなものである。
将軍が兵士を適切に動かすためであり、
治療に当たって患者に適切に共同してもらうためである。

また、患者から「医は仁術」と主張するのは論理的にも無意味である。
そもそも仁が不要な職業があるだろうか?
医が仁術なら、教師も仁術であるし、政治家も仁術である。
ありとあらゆる職業に仁の心が必要である。
それらさまざまな職業を比較して違いを捉え、
主張しなければ無意味なのある。
患者が仁であることを医師に求めれば、
医師は医療技術を低くしても、患者に愛想のよい態度を取るだろう。
患者に迎合し患者を満足させるためには
必要な治療すらしなくなるだろう。
何かを求めるということは、
その分だけ何かを切り捨てることになることを忘れてはならない。

宋襄の仁という言葉がある。
仁の心の厚い宋の襄公は、
礼儀を守ったために戦いに負けて多くの人命を失い、人々に恨まれた。
漢の時代に霍去病という将軍がいた。
霍去病は傲慢不遜であり、仁の心など全くなく兵士を平然と見下したが、
戦えば必ず勝ち、兵士に慕われた。
医師は霍去病であっても、宋の襄公であってはならない。

医療の基本言語は統計確率である。
同じ条件の患者に同じ治療をしても結果は同じと限らない。
良いことも悪いこともあるのだ。
なぜなら、人間は一人一人が異なる存在であるからだ。
結果からは医療の適否は判断できないのだ。
ただその過程を詳細に検討することでのみ真実がわかる。

法律家の考える結果違法説を医事紛争に持ち込むのは間違いなのだ。
結果違法説では医師はすべて犯罪者になってしまうという。

患者と医師の相互不信と、それを煽るマスコミ、迎合する警察は、
医療制度を崩壊に導く危険がある。

対策として検討されるスウェーデンの無過失保障制度。
医師の過失を証明せず補償で被害者救済する。
医療に起因する避けられた障害について補償する。
補償と異なり賠償は医師への非難を含んでいる。
また医療事故は警察でなく、
医療事故調査の専門機関に調査を委ねるべきとする。

思うに、とりあえず外来診療費の異常な格差を是正するべきだろう。

医師の多くはたいした報酬でなくとも、
自らの技量に誇りを持って行動する。
金銭で行動する医師などそう多くない。
自覚的エリートの生きがいとは歴史に参加することという。

これは光武帝の功臣1位たる鄧禹の言葉を思い出す。
"名前を歴史書に残そうと思うだけです"
(垂功名於竹帛耳)
真に学に志し、大志を持つものはこうでありたい。

・今日の一言
名前を歴史書に残そうと思うのみ。
I just think I'll leave my mark on history
공명을 죽백에 드리울 뿐입니다.
垂功名於竹帛耳。

タグ:小松秀樹
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コメント 2

おかあ

子どもを産んでくれなきゃ困る、と言っている人達へ。
産む機械と呼ばれても気にしません。
それより、なんとかしてください。
総合病院から、産科がどんどん消えていますよ~。
産科が消えるから、小児科も消えています。
by おかあ (2007-06-19 10:28) 

Kay-akira_Hirota

そういえば、少子化対策と正反対ですね。何考えているんだろう。
by Kay-akira_Hirota (2007-07-26 23:51) 

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