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住宅の価格構造 [これから建てる人のために]

 以前の記事(それでもやっぱり坪単価)で住宅価格の相場について記しました。

 このとき記したのは全国展開している大手H.M.とローコストH.M.についてです。両者の機能的な差は、温熱等級を例にとれば、前者が4、後者が3です。これに対して坪単価は前者が75万円前後、後者が50万円前後と、20万円以上の差があり、40坪の家であれば約1,000万円の価格差です。
 使用する部材に違いはあれど、住宅設備や材料の仕入れ値が定価の半値以下であること、大手H.M.の家の性能は基準をクリアする程度のレベルで、それほど高くはないことを考え合わせれば、この価格差には驚くばかりです。

 40坪の家に3,000万円出すのなら・・・  ウチならばもっと性能や造りの良い家を安く建てられる。 街の工務店の声が聞こえてくるようです。実際、同程度の家を工務店で建てればかなり安くなるとは、よく言われています。

 大手H.M.の殆どは大きな工場を持っており、ユニット化やプレハブ化、大量生産などによって価格上のメリットを有しているはずです。実際、大手H.M.がプレハブ住宅を作り出した頃は、低価格が武器で売り上げを伸ばしました。それなのになぜ性能価格比が低下してしまったのか。

 一つめの理由は、住宅建築ではスケールメリットが生かせないこと。

 そもそも大量生産によるコスト低減は、「同じモノをたくさんの顧客が購入する」ことによって達成されます。しかしH.M.は多様化と高級化への道を歩み出し、大量生産のスケールメリットを打ち消してしまっているのです。
(大量生産でコストが下げていれば、必然的に顧客の選べる選択肢は狭まるはずで、標準仕様で選べる部材が多いH.M.は、その分価格に上乗せされていると考えるべきです。反面、建売住宅は同じ部材を大量に使用でき、スケールメリットが生きますので、注文住宅と比較して割安になります。)

 二つめの理由は、下請けの重層構造。

 大手H.M.の損益計算書などを見ると、建築請負費の約50%を下請けに投げています。一次下請けの工務店はその仕事をそれぞれの専門業者に孫請けさせます。下請けの工務店や、孫請けの専門業者も管理費等の粗利が必要ですから、家作りに使われる費用は仕事が取り次がれる度に小さくなっていきます。

 このように、施工を下請けに投げることはコストアップに繋がります。自社に施工部隊を擁して工事を行えば、確実にコストは下がりますが、受注が落ち込んだときの施工部隊の維持費が負担になります。経営戦略上は、会社本体をなるべくスリムにしておくことが望ましく、最終的には「何もしなくても儲かる」システムが確立されれば理想的ですが、さすがにそれは難しいので、営業と手配に特化したのが現在の形態なのです。

 なぜこのような業務形態をとるのか。

 それは顧客のニーズが「性能の良い既製品を安く買いたい」ではなく、「せっかく建てるのなら多少割高でも良いから自分達の要望を通したい」という方向にあるからです。契約を勝ち取るためには顧客のニーズを満たした提案をする必要があり、そのために親身な相談相手としての営業マンが必要なのです。

 もちろんそれ以外のニーズを持つ顧客もいます。例えばプレハブには間取りの制限がありますので、「凝った構造にしたい」人は建築設計事務所に、「性能を追求したい」人はフランチャイズに、「安い家が欲しい」人はローコストH.M.に、「木の家に拘りたい」人や「安くて性能の良い家が欲しい」人は工務店に流れますが、数は少ないので顧客の対象から外しても問題にはなりません。



 住宅のコストをアップさせている3つめの要因は販売管理費です。

営業が業務の主力であるならば、そのための経費が嵩むのは当然で、営業マンの給与、広告宣伝費、モデルハウス維持費などによって、建築請負費は押し上げられます。
 施主が支払う建築請負費がどう使われるかをH.M.の損益計算書を参考にして、図示してみました。
原価率.gif

 大手H.M.では建築請負費の実に20%強が販売管理と営業利益に費やされます。また大手H.M.の従業員の半数以上は営業職です。これらの予算配分、人員配置を見ても分かるとおり、大手H.M.の仕事は家を作ることではなく、家という商品を売ることだと分かります。
 簡単に言えば3,000万円で契約した場合、600万円以上を営業マンの給与・広告宣伝・モデルハウスなどに支払っていることになります。

 因みに大手になるほど広告宣伝費が高くなるとよく言われますが、建築請負価格に占める広告宣伝費の割合は最大手で2%程度のようです。3,000万円の家でしたらその内60万円がテレビのCM放映に使われるといったところでしょう。

 施主が支払う建築請負費から、営業経費と利益を差し引くと80%弱が残ります。そこから家作りに使われる費用が支出されますが、全額ではありません。
 材料費は全体の20%程度を占めますが、H.M.の系列会社が間に入ると中間マージンが上乗せされます。
 また、営業以外の経費については、設計とかアフターサービスの部分が、施主に還元される費用になります。
 外注費の中には、工務店や専門業者の粗利も含まれますが、工務店は実質的な管理を行いますので管理費は必要ですし、施主が自ら施工するのでなければ、専門業者の粗利も必ず支払わなければならない経費です。これらは、家作りに使われる費用と考えて良いと思います。

 こうして考えると、実際に家作りに使われる費用は建築請負費の60~70%程度だと考えられます。
 もちろんこれは不必要な丸投げが行われないと仮定しての話で、大手H.M.と工務店の間に、中間マージンを取る系列会社などが入れば、さらに家作りに使われる費用は小さくなるでしょう。 (この辺りの実態は損益計算書などからは読み取れません)


 それでは下請け工務店に直接施工依頼すれば、大手H.M.の建築請負価格の60~70%で同じ仕様の家を建てることができるのでしょうか。


 残念ながらそれは難しそうです。

 大手H.M.は住宅をプレハブ化させており、工場で生産することによってコストを下げていますから、同じモノを現場で組み立てようとすると費用は割り増しになります。また軽量鉄骨のユニットなどはそもそも作れません。ここでもし特定のH.M.しか施工できない工法が要望の中で高い優先順位を持つのであれば、工務店は検討の対象外となるでしょう。
 しかし特に工法に拘りがないのであれば、大手H.M.以外の選択肢もあり得ます。耐震性や気密・断熱性などについて、同等以上の性能を持つ家を作る技術を持つ工務店は、たくさんあります。

 住宅設備や建具等はそれぞれのメーカーから仕入れますので、仕入れ値が若干割高いかも知れませんが、H.M.のオプション料金よりは安く揃えることができます。材料費・外注費が2割増、粗利が20%程度とすると、工務店は大手H.M.と同程度の性能・グレードの家を15%程度安く、坪単価で言うと65万円/坪程度で作れる計算になります。


 因みにローコストH.M.だとどうでしょうか。
 ローコストと言えども20%程度の販売促進費+営業利益は確保しているでしょうから、家に使われる費用は大きく見積もって建築請負費の80%(坪単価45万として40坪の家で1,440万円)となります。これは大手H.M.で使用される費用(40坪の家で2,040万円)の70%程度ですから、家のグレードが相当落ちるのは当然です(まあ、同じ土俵で比べること自体がおかしいのですが)。
 また設計費や人件費が削られているので、受けられるサービスが少なくなります。具体的には、打合せ回数や期間が制限される、既存の間取りのマイナーチェンジ程度のプラン提案しか受けられない、打合せに設計が同席しない、営業も工務もたくさんの物件を抱えすぎて間違いが多い、施工が丁寧とは言えない、アフターサービスが貧弱、等々です。
 この辺りを割り切ることができ、大手H.M.程の性能や設備のグレードを求めないのであれば、コストパフォーマンスは良いと思います。実際、予算額が1,800万円以下で40坪程度の家が欲しいのであれば、ローコストH.M.で建てるか、工務店で建てるかの選択になるでしょう。工務店のメリットは構造と施工の確かさ、ローコストH.M.のメリットは設備の良さですが、タ○ホームなどのローコストH.M.が売り上げを伸ばしている背景には、構造や施工など目に見えない部分より、目に見える設備を重視するいう施主が多いことが伺えます。
 関係者に知り合いがいて工務担当や大工さんを指名ができれば、当たり外れのあるローコストH.M.の施工を自分でチェックする必要がなくなり安心だと思います。



 話を戻して、ここではもう少し予算を掛けられる場合について。

 大手H.M.に対する工務店のメリットは価格、デメリットはデザイン・プランでしょう(例外は多々ありますが)。

 大手H.M.の家は基本的に、プレハブ特有の形状であるサイコロ組み合わせ型なのですが、最近の商品はデザイン面も配慮されている感じがします。大量生産品なので、本社の商品企画で優れたデザインを考案すれば、それを全ての商品に適用することができます。
 そのため営業所の設計士の力量が同程度でも、大手H.M.と工務店ではデザインに差が出る場合が往々にしてあります。この辺りは如何ともしがたい部分です。順位の高い要望項目がデザインであったり、長方形のパーツを組み合わせただけのプランに飽き足らない場合は、建築設計事務所に依頼するという方法もあります。

 これについては、稿を改めて触れたいと思います。


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たいせい

 大人数で組織的に営業していらっしゃるHMの場合、品質に信頼性を持てる会社ほど製品の均一性を保つべく、作業マニュアル作成や管理などの間接工数が多大に発生し、通常の場合では販売管理費ではなく製造原価の方に間接工数として計上されているのではないかと思います。
(ローコストHMの場合、マニュアル類の整備があまり成されず、営業店ごとで要求される高じ品質が大きく異なると聞いています。:大手HMの場合、設計者や元請けの責任者が頻繁に見まわる現場では必要ないレベルまで、事細かく詳細にわたって規定され管理されています。)
 そんなこともあって、営業経費以上に、原価に算入される間接工数の差が価格差だと感じていました。
 また原価的には、設備機器などの価格差は大手であっても街場の工務店であってもそれほど極端な原価の差はなく(大量購入乳による価格差はもちろんあります)、その他の部材や外注工事費などに限定して原価的なしわ寄せが行く傾向も強いです。
 部位にも依るので一概に何とも言えないと思いますが、うちの業界レベルで考えた場合には、引き渡し価格に対する外注での実行価格は80%もの高率ではないとの感触を持っています。

 このアプローチの方法は素晴らしいと思いますし、決して上げ足取りのつもりのコメントではありませんが、大手であればあるほど本当の原価はもっと低いレベルでコントロールされているように思います。
 株式公開している同業者の有価証券報告書や、何件かのHMの有価証券報告書の分析を自分なりにしたことがありますが、いずれも業態をよく知るはずの競合先である同業者に原価が解らないように上手く作ってあり、結構原価分析は難しいです。
by たいせい (2008-08-02 11:40) 

kappa

たいせいさん、情報ありがとうございます。

仰るとおり損益計算書などから類推できる情報には限りがあります。実際、建築経費を粗利益に含めていなかったりで、原価率が分からないようにしています。
掲示板などの情報などを参考にすると、大手H.M.の原価率は40~60%程度だと思いますが、ここでは大手H.M.と工務店を比較するという意味で、工務店と専門業者の経費は、「家作りに使われる費用」に含めていますので、原価率より高い率になっています。
施工の外注比率についてもご指摘のとおりで、中には指定工務店制と称して、100%丸投げという大手H.M.もあります。

nice!ありがとうございました。
 
by kappa (2008-08-02 22:33) 

おっちゃん

インサイダーなので微妙なところですが。。。
簡単に書かせて頂きますね。。。
外注費としてのHMは下請けに50弱パーセントで外注します。
材工共での発注で 下請けさんがHM指定の代理店(子会社)との契約(材料)が 出来上がっています。
その時点でスケールメリットを子会社が食うので、一般的な低価格の商品になります。
監理経費はHM側がするので かかるとは思いますが10%前後 大手HMの施工管理職員?あまり褒められる人を知りません。。。
規格住宅なのであまり管理する所もないのですが・・・

私も地元ビルダーの一人ですが…
HMとの差額は25~30パーセント くらいでしょうか?
付帯工事や追加工事、外構工事を入れると Total金額では30~38パーセントくらいの差になるように思います。

地元と言うくくりでまとめるとそんな感じなのですが
私は自分勝手にやっているので 参考にならないかも知れません。。

規格住宅になんて プランやデザイン、性能では負けませんよ!
だって、最後まで(引き渡すまで)目に見えない所で変更し続けて…
使いやすい高性能 求め続けるのだから!(笑)

儲かりまへんが。。。www


最近、ローコストHMの施工は少しましになってきました。。。
下請けがみんな相手しなくなってきたから。。。
仕方なく勉強したようです。

by おっちゃん (2008-08-03 21:43) 

kappa

おっちゃんさん、

材工込みで50%弱で下請けですか。
しかも材料はハウスメーカーの子会社からの購入を指定・・・。
下請けの工務店・専門業者や子会社の経費を差し引くと、原価率は40%くらいになってしまいますね。
それだけ割高な商品が何故そんなに売れるのか・・・
良く、内装材や建具の違いが「質感」などと表現されているのを見かけます。もしかして、その程度のことで大手H.M.は良いと判断されているのかも知れません。
価格差にしたら大したものではないのに・・・

情報ありがとうございました。


by kappa (2008-08-03 23:18) 

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