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狂言風オペラ 「フィガロの結婚」 [伝統芸能]

2006年3月25日(土) 東京オペラシティ コンサートホール 19:00開演

【出演】
主人(アルマビーヴァ伯爵)     茂山千之丞
太郎(フィガロ)             茂山宗彦
おすう(スザンナ)           茂山 茂
天丸(ケルビーノ)           茂山童司
おはる(バルバリーナ)        茂山あきら
奥方(アルマビーヴァ伯爵夫人)  人形(操演:小野智美・島美穂)

【演奏】
ドイツ・カンマーフィルハーモニー ブレーメン管楽ゾリステン
中村寿慶 (鼓)

【設定】 時代不詳、京の都

*****

キャスティングをご覧になって、「はて?」と感じた方も多いと思います。
かく言う私も、始まるまでは頭の上を「???」が飛び交っておりました。

ポイントをつかんで説明すると、モーツァルトの名作オペラ「フィガロの結婚」を、
音楽はそのままに狂言のお芝居として上演するという試み。しかも人形も登場。
舞台設定も京の都に移し、役名も「主人」や「太郎(冠者)」など、基本的な
狂言の上演スタイルでの舞台。でも、劇場はオペラシティ。

一昨年、某交響楽団による歌劇「カルメン」(ビゼー)を、歌手の人形振りと浄瑠璃と
オーケストラをミックスさせた演奏会を鑑賞したのですが、あまりの乱雑っぷりとふざけっぷり
(暴言ですが、本当にふざけているようにしか見えませんでした)に激怒し、以来、
西洋の伝統芸能と東洋の伝統芸能を融合させる試みに、軽くアレルギーがありました(苦笑)。

今回は、音楽だけでなく「言葉の芸術」でもあるオペラを、
どのように狂言に置き換えるのか…一抹の不安がありました。

狂言をオペラシティで、しかもクラシック音楽で観るって…?
しかもクラシックに鼓が加わるって…?おまけに人形も登場するって…?
観る前から、考えすぎて知恵熱が出そうな勢いでした(笑)。

ところがどっこい!!(死語)
幕が上がってしまえば、予想以上に楽しい舞台でした!!

【物語】

京の都の、さる主人(アルマビーヴァ伯爵)の屋敷。
屋敷の奉公人、太郎(フィガロ)はおすう(スザンナ)との結婚が決まり、
しかも屋敷の中に新居を与えられて上機嫌。

しかし、主人は実はおすうに下心があり、太郎がいない隙を狙って
彼女に言い寄るつもりなのです。そんな主人の思惑を見抜いているおすうは、
それとなく太郎に忠告。仰天した太郎は、主人の鼻を明かしてやろうと
あれこれ策を練ります。

おはる(バルバリーナ)との逢い引きを見つかって大目玉を食らった
天丸(ケルビーノ)が密かに想いを寄せているのは、実はお屋敷の奥方(伯爵夫人)。
けれど奥方は夫の浮気を知りながら、密かに心を痛める毎日です。
そんな奥方の心を知り尽くしているおすうは、男性陣をこらしめるため、ある計略を思いつきます。

遠距離恋愛のピンチに立たされた天丸の恋は?
おすうの心を疑う太郎は?とうとう浮気がバレてしまった主人は?
そして、全ての恋の顛末は…??

【カンゲキレポ】

いや~、笑い続け、感動し続けた2時間でした。
クラシック音楽に乗せて狂言の芝居が繰り広げられるという異色の舞台ですが、
大きな違和感も感じさせず、致命的な破綻もなく、非常によく練り上げられた舞台でした。
茂山家の技芸の確かさに感服し、演奏の細やかさ、楽しさを堪能し、
そして人形の動きの美しさにため息をつく、非常に満足感の高い作品でした。

***

あるシェイクスピア研究家が、このような言葉を残しています。
「シェイクスピアの偉大なところは、いつの時代に置き換えても、
舞台をどこに設定しても、作品の本質は変わらずにあてはまることだ」。

なるほど~、と大きく頷いていたのですが、シェイクスピアのみならず、
世界中の偉大な名作にも言える事だと思います。
もちろん、緻密な時代考証や工夫は不可欠ですし、制作サイドの責務でもありますが。

今回は、「フィガロの結婚」という作品をひとつの基点として、出演者、演奏家、人形師が
舞台上のそれぞれの自分の役割と立場を明確に把握し、そしてお互いの芸質を理解し、
尊重し、交流を深めた結果、予想もしなかった、けれど予想以上に素晴らしい舞台となりました。

***

特に、舞台に人形を登場させるという試みは、単なる思いつきに終わらず、
その意図が明確であったため、舞台上で非常に重要なアクセントとなり、大成功でした。

人形を操演したのは、劇団「貝の火」(代表:伊東万里子)所属の人形師、
小野智美さんと島美穂さん。
「伊東万里子」と聞いて、「ピン!!」ときた方、かなりのNHKマニアとお見受けしました。

1982~84年にかけてNHKで放映された「人形劇三国志」。
人形劇という枠にとらわれない本格的な脚本と演出、壮大なスケール、
川本喜八郎制作による人形の素晴らしさで大人気を博し、今でも
再放送のたびに新たなファンを拡大しています。

放映当時、私はまだ物心つくかどうかの年齢でしたが、兄と並んで
テレビを見ていた記憶があります。物語はよくわからないながらも、
人形の動きの美しさに夢中になっていました。お気に入りは関羽と趙雲。
中学生の時に再放送され、その時は同級生と大騒ぎしています。

前置きが長くなりましたが、伊東万里子さんは、その「人形劇三国志」で
劉備玄徳ほか、メインキャラクターの人形を操演されていた方なのです。
この他、「平家物語」や「新八犬伝」等、NHKの人形劇番組には欠かせない存在でした。

ですから、プログラムでお名前を発見したときは驚きと喜びで胸がいっぱい。
「この方が主宰する劇団の人形師の方々なのだから安心~♪」
と、無条件に信じてしまったのですが、期待を裏切らない素晴らしい助演でした。

プログラムに掲載されている座談会の中で、茂山あきらさんがこのように述べています。

「奥方(伯爵夫人)というのは、他の登場人物とちょっと違うキャラクターなのですね。
すべてを超越しているというか、すべてをお見通しというか。(後略)」

舞台を観ていると、奥方は夫の浮気を見抜いているけれども、ぐっと胸の内に
しまいこんでいます。浮気を明かしても、最後は優しく微笑んで夫を許すわけです。

その聡明さ、大らかさは、実は男性が女性に対して望んでいる「理想像」なのでなないかと。

彼女はいるけれど、思わず他の女性にも惹かれてしまう…でも大切なのは彼女…ゴメン…。
という殿方、結構いらっしゃるんじゃないですか?(笑)
ま、「仕方ないなあ~」と思いつつ見守ってくれる女性がいるからこそ、
殿方は花と花との間を飛び回れるわけですけどね(笑)。

「フィガロ」の中で、奥方というのは、男性にとって崇拝されるべき
「理想の女性」の視点で描かれているのではないかと思います。
その「理想」を「偶像化=人形操演」という形をとることで、役の内面性が
生々しさを出すことなく、純粋に象徴化されるという成果を挙げました。

それにしても、人形って本当に表情豊かですね~~!
人間達とお芝居する場面もあるのですが、見ていて全然違和感ありませんでした。
制限された動作と振りだけで、あんなに感情を豊かに表現できるとは!

主人の浮気に心を痛める寂しげな表情、天丸を女装させるときのワクワクした表情、
おすうと企みを思いついたときの「やってみせる!」という感じの表情、
主人の浮気を明かしたときのいたずらっぽい表情、そして、彼を許すときの優しい表情…。
全て、わずかな手の動きや振りで表現するのです。

その美しさと情感と言ったら!!驚くのと同時に、心から感動しました。
(また文楽を観に行こう…と決意するとろりんさんでした)

***

人形賛歌に思わずスペースがとられてしまいましたが(苦笑)、
もちろん、狂言も演奏もレベルが高くて、満足満足☆です。(偉そう>笑)

実は茂山家の若手狂言師の舞台は初めて見たのですが、
発声もしっかりしていて、人気も実力もバッチリ!人気者なのも納得です。

クラシック音楽には鼓が似合う、というのも新たな魅力の発見でした。
いや、これがね~、本当にビックリするくらい合ってるんですよ。
(もちろん、それまでに工夫と努力が重ねられているのでしょうね)

それにしても、オペラシティ コンサートホールは、本当に良いホールですね。
座席シート以外はほぼ木造りですし、天井も突き抜けるように高くて
反響しやすいように工夫された設計ですので、音楽も声も包み込むような優しさで、
スーッと心の中に入ってきます。

*****

実は、次の日がとても朝早いという事情があり、そしてアレルギーの事もあり(苦笑)、
開演直前まで観劇を躊躇していました。けれども、本当に楽しい時間をプレゼントして
もらいました☆舞台と観るときは、余計な先入観を持たず素直に向き合う事が大事だな、
と初心に立ち返ったカンゲキでした。

今日のお星さま…★★★★★(予想外の満天!!アマデウスに乾杯☆)


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コメント 2

“某友人”

アレルギーが克服でき、いや、それ以上に感動できて良かったですね。
珍しい仕立ての狂言(オペラ?…分野は何になるのでしょう?!)をご覧になれて、良かったですね!
by “某友人” (2006-03-28 21:35) 

★とろりん★

”某友人”殿、コメントありがとうございます☆
舞台は余計な先入観を持たずに、真っ直ぐな視線で
向き合うことが大事だな、とあらためて考え直す良い機会でした。
狂言の面白味も堪能して、管弦楽団の素晴らしい演奏も満喫して、
人形の美しさにもうっとりできる、一石三鳥な舞台でしたよ~♪
by ★とろりん★ (2006-03-29 10:14) 

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