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「イムジン河」と「パッチギ!」 [CINEMA]

「パッチギ!」は「イムジン河」という歌の日本語歌詞をつくった松山猛の「少年Mのイムジン河」という著作をモチーフとして作られた映画です。この映画の中で歌われる「イムジン河」は物語のクライマックスを大いに盛り上げる役割を果たしています。「イムジン河」という歌は僕にとっても思い出深い歌で、35年以上前に出合い、大げさに言えば、僕とフォークソングを結びつけてくれた特別な歌といえます。

イムジン河 水清く とうとうと流る
水鳥 自由にむらがり 飛び交うよ
我が祖国 南の地 想いははるか
イムジン河 水清く とうとうと流る

北の大地から 南の空へ
飛び行く鳥よ 自由の使者よ
誰が祖国を 二つに分けてしまったの
誰が祖国を 分けてしまったの

イムジン河 空遠く 虹よかかっておくれ
河よ想いを 伝えておくれ
ふるさとを いつまでも忘れはしない
イムジン河 水清く とうとうと流る

(作詞:朴世永 作曲:高宗漢 日本語詞:松山猛)

「帰って来たヨッパライ」というコミカルな曲が大ヒットして一世を風靡した、ザ・フォーク・クルセダーズ(フォークル)というバンドが、この大ヒット曲の次にレコードにしたのが、「イムジン河」でした。ところが、さまざまな理由で発売は中止され、放送することも禁止されてしまいました。その理由が、主に政治的な配慮から、というのは後から知ったことで、当時はなんだか訳がわかりませんでした。中学生だった僕は、フォークルの第2弾として発売されるはずだったこの曲を、ラジオで一度だけ確かに聴いた記憶があります。大ヒットした曲の次に、まるで正反対の路線の曲を出すというあざやかさに驚くとともに、美しい旋律に彩られてはいるけれど、メッセージ性の強い歌詞が心の中に深く残り、フォークソングというものに宿る力のようなものを実感した初めての曲といってもいいかもしれません。当然、この歌の奥に秘められた深い哀しみなど知る由もありませんでしたが、朝鮮半島に暮らす一つの民族が、イムジン河を隔てて二つに分断されている現実を、一つの歌で知らされるという経験をしたのでした。

 ある一つの歌との出合いが、聴いた人の心の鐘を鳴らし、大げさにいえばその人の人生を変えることだってあるんだということは、「パッチギ!」の主人公・康介が映画の中で証明していることであり、僕にとってもすんなりと実感できることです。中学生の頃にこの歌と出合っていなかったら、大学に入学してフォークソングのサークルに加わることもなかったかも知れません。
 「イムジン河」は、放送が禁止されていて、レコードも楽譜もなかったはずなのに、どのようにして覚えたのでしょうか。コンサートなどでは、フォークルをはじめとしてさまざまな歌い手に歌い継がれていったということなので、きっと誰かが歌っていたのを聴いて覚えたのでしょう。コマーシャルベースに乗らなくても、人々の口から口へ歌い継がれ、伝わっていくという、まさにフォークソングの本来の姿がそこにあります。その頃覚えたメロディと歌詞はずっと心の中から消え去ることなく、折りに触れ口ずさんできました。

 2002年、あのフォークルが一時限りの再結成を果たし、「イムジン河」もついに封印を解かれ、日の目をみることができました。フォークル再結成につかの間熱狂させられたことも今では遠い昔のことのように思えるこの頃、「パッチギ!」によってふたたび脚光を浴びたこの歌が、あらためて多くの人の心に何かを残してくれるとするなら、とてもすばらしいことです。

 奇しくも今夜、ワールドカップ・アジア予選の初戦で日本は北朝鮮と対戦しました。北朝鮮の代表選手の中には、在日のJリーガーも加わっていました。「パッチギ!」の中でも、朝鮮高校の生徒が、国に帰ってワールドカップの代表になることが夢だと語る場面がありましたが、たぶん祖国の土を踏んだことのない若者が、代表になってその祖国を背負うということが、いったいどのような気持ちなのかは容易には想像できません。結果は2対1で日本が勝利を収め、テレビははしゃぎすぎと思えるくらい、ゴールシーンを流していますが、このサッカーをきっかけとしてでも、日本と朝鮮半島の歴史に思いを馳せ、映画「パッチギ!」に足を運んでくれる人が増えるなら、そこからまた新しい何かが始まるかもしれません。

 「イムジン河は、地理のうえの河だけではなく、実は人間と人間のあいだにも流れる、心のへだたりでもあるかも知れない」と松山猛は2002年に発売された「イムジン河」のライナーノーツに記しています。へだたりを乗り越えていくこと、それがすなわちパッチギなんだそうです。乗り越えられない河なんかないんだ、ということをこの映画は熱く訴えているような気がします。


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