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異邦人たちのパリ / 国立新美術館へ行く [ART]

 地下鉄千代田線の乃木坂駅から直結通路を通ってすぐの地上へ出ると、目の前に現れる巨大な真新しい美術館。そのオープニング企画となるポンピドー・センター所蔵作品展「異邦人(エトランジェ)たちのパリ1900-2005」を観に国立新美術館へと出掛けて来た。




 つい最近まで、マティス以外にポンピドーに収蔵されるような年代の絵画に余り興味が持てなかった僕だけど、去年の秋に渋谷で観た「ピカソとモディリアーニの時代」 / リール近代美術館展(於、東急Bunkamura 参照過去記事→http://blog.so-net.ne.jp/ilsale-diary/2006-10-24)以来どうもエコールド・パリの画家達が気になり始めている。それと云うのも、あの時観たモディリアーニが以来ずっと心に引っかかって、彼のボヘミアンな人生をフィクションで綴った映画、「モディリアーニ(真実の愛)」をDVDで観たり、改めて画集「美の20世紀③-モディリアーニ」を買ってみたりした結果、今や僕は、すっかり“モディ”のファンにまでされてしまった。

美の20世紀〈3〉モディリアーニ

美の20世紀〈3〉モディリアーニ

  • 作者: フランシス アレグザンダー
  • 出版社/メーカー: 二玄社
  • 発売日: 2006/10
  • メディア: 大型本
モディリアーニ 真実の愛

モディリアーニ 真実の愛

  • 出版社/メーカー: ビデオメーカー
  • 発売日: 2006/01/07
  • メディア: DVD

 特に、モディと彼の最愛の妻ジャンヌ・エビュテルヌの人生の悲しい結末を描いたアンディ・ガルシア主演のその映画のストーリーは印象深く、それがフィクションだと前置きされているにも拘わらず、ああ、モディリアーニとは、本当にこんな男だったのかもしれないな、などと考えるようになってしまった。芸術以外にはてんでなってない只の女たらしの酔っぱらい。なのに仲間から認められ愛される。そんなモディを囲むユトリロ、スーチン、ディエゴ・リベラらエコールド・パリの画家仲間達。お互いの才能を認めつつも激しく否定し合うライバル、ピカソ。そんな彼らが生きた時代のパリに思いを馳せる。まるで映画のシーンに紛れ込んで行く様な錯覚を覚えつつ、僕は真新しい美術館の中へ入ってゆく。


 

 すると、すぐに出迎えてくれるのが、レオナール・フジタのこの絵だ。今さらながら僕が語ることなど不要だけれど、藤田が描く女性の肌は本当に透き通る様な白さ。まるで陶磁器のように滑らかで、ひんやりとした触覚を想像させる。20世紀初頭のパリ画壇ではやはりその繊細な画風は飛び切り個性的だ。彼の作品を実際に目の前にすると、日本人の絵もまんざらじゃないよな、と嬉しくなる。写真なんかで見るのとは桁違いなオーラを感じるのだ。



◆マルク・シャガール / 『エッフェル塔の新郎新婦』(1938-39)

 僕はシャガールは甘ったるいお菓子みたいでそんなに好きじゃないと思っていたけど、なかなかどうして、こんな奇妙な鶏を見つめてるうち、だんだん楽しくなって来てしまった。方やこの絵の隣には嘆かわしい戦火に逃げまどう市民たちを描いた「戦争」。ポンピドーでも普段からこうして並べられているのかな?。結婚という幸福と戦争における死を並べて同時に見せることで人間の愚かしい歴史がより鮮明に表されているのは、観る側に物考えさせる、なかなかに良い展示方法だと思う。


 
◆アメディオ・モディリアーニ / 『デディーの肖像』(1918年頃)

 今回出されていた作品の中で僕が好きなモディリアーニはこの絵。彼の作品は、やっぱり男性を描いているものより女性の肖像の方がどうしたって魅力的。この絵は瞳が描かれているので、表情は物憂げながら柔らかい印象を受ける。
 前述の映画には、「君の心が見えたなら瞳を描こう」などと気障ったらしいコピーが付いていたけど(苦笑)、それってやっぱり、或る意味僕もそんなふうに思えるところがある。それに付いては、いろいろと学術的な批判もあったみたいだけど、フィクションと断っているのだから良いではないか。本当のところはモディにしか分からないんだ。
 彼の絵は、瞳が描かれているのと、そうでないのとはまるで印象が違ってしまう。瞳が描かれないことで人間の心理の深層や虚無感を感じ、瞳が入ると途端に生身の人間らしいそれぞれの表情を見せる。今の僕は、瞳の描かれた方のモディが好きなのだ。彼がジャンヌと過ごした、ほんの束の間の幸せな時間を連想させてくれるから。


★ ★


 さて、今回の展覧会は1900年から2005年までの作品が集められていて、とにかく幅広い展示内容になっているのだけど、さすがに近代も近代。画家や作家の著作権も継続期間中だったりして、気に入った作品を自分のblogでそのまま写真入りでご紹介出来ないのが残念なのだが、それは代わりに展覧会の公式ホーム・ページを是非見て頂けたらと思う(最下段にURLを記載しておきます)。

 その中でも、本来僕のあまり得意としないカテゴリーに入るはずのカンディンスキー『相互和音』は絵画と云うより、まるでパターンのデザインを見ている様で、ちょっと1970年代前半、ウチの母などが身につけていたブラウスやスカーフの図柄を思い出させてくれたりして意味もなく懐かしい気持ちになった。勿論、そんなテキスタイルのヒントになったのがこちらの様な作品なんだろうけど。

 そしてもう1作品。面白くて仕方なかったのはビクトール・ブラウネルというルーマニア出身のアーティストの『狼テーブル』。これ、木のテーブルを胴体に見立てて、キツネの剥製の頭と尻尾を取り付けた、ちょっとえげつない(?)作品なのだが、なんでキツネでオオカミ???。観ている誰もが「キツネだ」「うわー、キツネが」って口々に云って眺めて行くけど、タイトルは「オオカミ」。来場客の反応を見てる方がよほど楽しかったりして(笑)。
 それにしてもレザーのコートを着てる女性が「うわー、残酷ねぇ」としれっと云ったのには、さすがに「おいおい・・・」な気分で閉口(^^;。犯してる業の深さは一緒だよ(苦笑)。



展覧会ホームページ:http://www.asahi.com/pompidou/



【関連記事リンク】


いつもお世話になってます~、manbouさんの「Manbou の カタカナブログ」
  ・参照記事→http://manbouswim.jugem.jp/?eid=133


美術とワイン、僕にとってまさにツボなブログをお書きのshamonさん「ひねもすのたりの日々」
・本件展覧会記事→http://shamon-kuro.txt-nifty.com/hinemosu/2007/02/1900_2005_f86f.html
・藤田嗣治関連記事→http://shamon-kuro.txt-nifty.com/hinemosu/2006/04/post_357f.html



 おまけ画像は僕のあんまり好きじゃないポンピドゥの東側。パイプだらけでなんだかなぁ・・・(苦笑)。
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TaekoLovesParis

1月にポンピドーへ行った時、改装のため常設はほとんどありませんでした。ここに来ていたんですね。

ポンピドーは好きで、毎回行くのですが、「シューレアリズム」「ダダ」「20世紀の波」というようにテーマが設けられ、それに沿った展示になっています。だから見覚えのある絵が、ここに使われて、とか、あ~これはここにね、、とおもしろいです。
フジタの絵は、見ていますが、モジリアニの「デディー」には見覚えがなくて。。瞳があるのは珍しいですね。
<君の心が見えたなら瞳を描こう>
→そういう意図だったんですか。。心が見えるのは相手に対して愛を感じ、相手からの愛を受けとめた実感があるときなんでしょうね。アンディー・ガルシアならイメージがあうし苦悩をうまく表現できるでしょうね。映画も見たい気がします。

高校生の頃は、モジリアニの絵のように長い無表情な顔だったらいいのに、と真剣に思っていたのを思い出します(笑)。世の中的にもパリといえば、ユトリロとモジリアニが人気の時代でした。

カンジンスキー、1900年、ここから抽象が始まった、ときいています。
エポックメイキングの人ですね。初めて見たときは、「これでも絵なのね」
と思いましたが、今では、壁に貼った縦長の大きなポスターが部屋を
明るくモダンに見せるインテリアになっています。

「狼テーブル」もおもしろそうですね。いえいえ、最後の一行の方が
もっとおもしろい(笑)
by TaekoLovesParis (2007-04-09 07:34) 

yk2

taekoさん、コメントありがとうございます。

ポンピドーも1月にご訪問されてたんですか。taekoさんの旅行はほんとに世界の美術館巡りだもん、羨ましいなぁ。僕も去年、ポンピドーでマティスでも観てみようかと思って目の前まで行ったんですけど、あの赤とかブルーやグリーンのパイプを見てたらなんだか気が萎えてしまいました。なんだか巨大なゲーム・センターみたいなんだもん(苦笑)。ま、どうせ1時間くらいしか時間も取れなかったんですが。

モディリアーニの映画は結構アタマの固い美術ファンからはあんなの全部嘘っぱちだ!なんて非難されてるみたいですけど、僕は楽しめました。ただ、絵画が絡む映画はどうしても作品中で描かれる絵がニセモノっぽいとシラケちゃう部分があって、この映画の中でも一番重要なジャンヌの絵がちっともモディリアーニらしくなかったりして・・・(苦笑)。ま、それを差し引いても内容自体は面白かったですよ。

そういえばジャンヌ役のエルザ・ジルベルスタインは『葡萄酒色の人生 ロートレック』ではシュザンヌ・ヴァラドン役。今度はその息子ユトリロの親友モディの妻の役。つい、そんな事思い出して初めは違和感があったんですが、彼女の青い瞳を見ていたら、いつしか本当にモディの絵から抜け出てきた様にも思えて来ちゃいました。

taekoさんなら、きっと楽しめるんじゃないかと思います。
ぜひ“狼テーブル”と併せてご覧になって下さいませ(笑)。
by yk2 (2007-04-09 22:20) 

julliez

最後のツッコミが面白すぎます^^
モディリアニのひょろっとした人物の作風も独特ですが、シャガールのいつも地に足が付いていない浮遊している感じが妙に好きです。
ランスの大聖堂で真っ青な彼の作品を見ると、シャンパンを飲んでいるようにふわふわウキウキ不思議な気分になります。
by julliez (2007-04-09 22:29) 

yk2

julliezさん、コメントありがとうございます。

だって、ねぇ。
頭や尻尾は誰が見たって生々しいのは確かなんだけど。加工されちゃうと元が見え無くなっちゃうから、自分がいったい何を着てるか、素材に思いを馳せる事なんてこれっぽっちもないんだろうね(苦笑)。

シャガールのこの絵は云われてみれば、確かにシャンパン。うきうきするような気持ちで描かれてるものね。でも20世紀初頭のシャンパンはきっと今よりずっと高級品だったのでしょ?。若いエトランジェのシャガールは自分のお祝いにシャンパン飲めたのかな。
by yk2 (2007-04-10 08:04) 

manbou

いまごろなんですけども、
かぶってるのはフジタだけなんですけども、
TBさせていただきました。
よろしくお願いいたします(笑)
by manbou (2007-05-10 00:00) 

shamon

はじめまして。Manbouさんブログから飛んできました。
TB送らせていただきました。よろしくお願いします。

ポンピドー、一昨年パリに行った時はその存在を知らず見逃しました^^;。
一度は訪れてみたいです。

藤田の乳白色、あれは浮世絵からヒントを得たそうです。
昨年の「美の巨人たち」で紹介されてました。
藤田、昨年の回顧展は素晴らしくて二回も観にいきました、私^^;。
by shamon (2007-05-10 20:49) 

yk2

manbouさん、こんばんは。
フジタ「だけ」かぶりのTBありがとうございました(^^。

現代アート、弱いからねぇ・・・(苦笑)。

絵の具で塗られた個人的精神世界を見せられても、画家の人となりを知らなきゃ理解のしようがないと思っちゃうんだなぁ。
ポラックなんて映画見ても一向に親近感湧かなかったし。

「抽象美術にはドラマがない」ってピカソも云ってるでしょ。
僕はその「ドラマ」が結構好きなんだな(^^;。
by yk2 (2007-05-10 23:37) 

yk2

shamonさん、はじめまして。ご来訪ありがとうございます。

せっかくTBして頂いたみたいですのに、きちんと入らなかったみたいですね。きっと、こちらの設定のせいなのです(泣)。一時スパムがあまりにもひどかったもので、防止のつもりで「TB元にURL表示がない場合は受け付けない」と云う設定にしてありますもので、それに引っ掛かっちゃったかも知れません。ほんとにごめんなさい。

代わりに本文にでリンク貼ってご紹介させて頂きましたので、お許し下さいませ。

フジタの記事も面白かったです。ワインとアートを絡ませるお話は大好きなので興味深く、本当に喜んで読みました。

フジタは白もすごいけど、墨黒も油彩とは思えない色でしたね。実際墨も使ったそうだけど、どうやって溶いたのだろうと興味津々。去年の回顧展に行かなかったことを痛切に悔やみました
by yk2 (2007-05-10 23:53) 

shamon

こんばんは^^。お返事&リンクありがとうございます。

>ワインとアートを絡ませるお話
これは偶然夫が手に入れた雑誌のおかげですね。
ワインとアートはけっこう近い距離にあるってのがわかりました。

藤田の黒は私も好きです。白と黒、水墨画の影響でしょうか。
去年の回顧展のエントリを名前のところに入れておきます。
ご参考になれば幸いです。

これからもよろしくお願いします~^^。
by shamon (2007-05-11 21:51) 

yk2

shamonさん、こんばんは。
藤田嗣治の過去エントリのご紹介ありがたく読ませて頂きました。

今日、NHKの日曜美術館を見ていたら、ほぼ同時期にフランス留学した佐伯祐三や安井曾太郎らの日本人画家の話をやっていましたが、そこで改めて、藤田は抜きん出て特別な存在なんだなぁと感じました。誰にも真似出来ない手法を持っていればこそ、だったのでしょうね。

ワインとアートって、結構上手くこじつけられちゃうんですよね(笑)。
僕は特に19世紀末から20世紀初頭のフランス絵画が好きなので、特に時流がリンクしやすいみたいです。中でもロートレックとかモディリアーニとか、お酒で身を滅ぼしちゃった様なタイプがどうにも他人と思えなくて格別に好きだったりしますし・・・(苦笑)。

こちらこそ、今後ともよろしくお願いいたしますね(^^。
by yk2 (2007-05-13 23:08) 

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