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なごり海 [きょうの敬遠]

 南国から帰ってきたひとは「なかなか社会復帰できない」と、よくいうが、わたしにはそのためのリハビリは必要ない。
 たった5日の滞在では廃人になるべくもなく。
 それに、それほど南国ライフにどっぷり浸かっていたわけでもない。
 ただ、行動だけをたどれば、傍からみれば贅沢な時間を過ごしていたとみえるかもしれない。

 海に浮かんで魚とたわむれて、飽きたら浜辺にあがって木陰で読書。
 また気が向いたら海に入って、疲れたら宿に戻ってぼーっとテレビをみる。
 日が沈んだらまた浜辺に出て、こんどは満天の星空を仰いで、飽きたらまた宿に戻って、また読書。
 そして虫の音を子守唄に、就寝。

 どうだ、うらやましいか。

 しかし、読んでいた本がこういうもので。

ゴシックとは何か―大聖堂の精神史

文庫版 鉄鼠の檻

 そして、みていたテレビ番組というのが、地方局の“八重山チャンネル”でなぜか連日夕方に放送されていた、

 『ローゼンメイデン』

 なのである。

 波の音をききながらゴシック建築について学び、南の島までやってきてまで『ローゼンメイデン』をみて夕暮れを迎え、南十字星を眺めた後、真冬の箱根で坊さんが座禅する姿を想う。

 彼岸と此岸をいったりきたり。

 おかげで、南の島の海と、ゆるやかな時間のながれに閉じ込められずにすみ、以前となんら変わらない心境のまま職場復帰した。

 つもりだったのだが・・・。

 職場で会うひと逢うひと、口をそろえて、

 「黒い」
 「くろい」
 「クロイ」

 心境に変わりがなくとも、わたしの身体は一変していたようだ。

 普段、鏡を見ないため気付かなかった。もちろん、日焼けしていた自覚がないわけではない。そこは気楽ながらも悲しきひとり旅。自ら日焼け止めが塗れない背中を主とした後半身や、油断して処置を施すのを怠ってしまった脚部は惨憺たる状況に陥っている。

 しかし顔はよしな、ボディーにしろ、といういことで、服を着ても晒される部分だけは、真っ白になるくらい日焼け止めクリームを塗りたくり、がっちりガードしていた。
 それでもそのガードを紫外線がぶちやぶり多少の日焼けをしたとしても、毎日の自転車通勤のおかげで季節を問わず黒ずんでいるわたしの肌であれば、たいして変わりはしないだろうと高をくくっていたのだが。

 どうやらわたしの顔は日焼けしてクロいらしい。
 南国の名残をまわりに撒き散らしていることをいまさらながら知らされ、そうなっていることを自覚してしまったことにより、現地では足を踏み入れながらもすぐに引き返してすんでいた彼岸の感覚が蘇ってきて、東京という離れた土地にいるせいか、その蘇り方も実に中途半端で、踏み入れた足だけ海に浸かって波でくすぐられこそばゆく、足が砂にうずもれて、どうにもこうにも引き返しがたくなっている。
 長いリハビリ期間が必要になってしまった。


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