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コラボ、コラボって、うるせーよ。 [生活雑感]

森を抜けると大きな空が広がっていて本当に気持ちがいい。

昨日の夜も熱のためか嫌な夢で寝汗をいっぱいかいて、夜中に何度も目が覚めた。それで目が覚めたら、なんと午後1時。外は初夏を思わせる日射しで、どうやら熱も下がり食欲も出てきたので一安心。夕方、週末の食事の準備のためにスーパーに出かけて買い物を済ませ、ついでにアジア向け国際電話カードを4枚補充した。今日は少し蒸し暑くて、雲も多い。お城の前の芝生を横切って、山を下りてUバーンの駅まで行き、そこから電車で小さなショッピングセンターまで片道約40分。芝生は大部分がサッカー場のようにきれいに刈られていて、むせ返るような草いきれの中に羊臭さが少しだけ残っていていた。さらに山を下ると、森の中はとにかく虫だらけ。よくわからない無数の小さな羽虫が飛び交っていて、それにタンポポの綿毛も舞っていて、少々大げさだけど吹雪のようだった。多分、急に暖かくなって、さらにこの蒸し暑さのせいだと思う。喉のところだけオレンジ色が鮮やかな灰色の小鳥が、枝の上でトライアングルを弾いたような高い声で鳴いている。道の脇には名前の知らない野の花がたくさん咲いていて、蝶もたくさん飛んでいた。モンシロチョウにしては小型だし、飛び方も変わっていると思っていたら、花にとまった姿はぼくの知らない蝶で、ヨーロッパは日本とは生態系が違うことを思い出した。森の中ではさまざまなシジミチョウを見かける。どれも日本では見たことがない種だ。シジミチョウの英名はゼルフィスで、風の精または西風神の意味。たぶんシジミチョウは海を渡れないから、各地に固有種がいるのだと思う(本当?)。ちなみに北海道と本州でも生態系は異なる。津軽海峡を東西に横切るブラキストン線で動植物はシベリア系と満州系に分けられる。だから本州にはシマリスはいない(ことになっている)し、北海道にニホンザルはいない。

毎日のように森を散歩していると、これが特別なことではないような気がしてくるけど、考えてみると贅沢な経験だと思う。ぼくは「奇跡の森」と呼ばれる手つかずの森林が残る町で生まれて、東アジアの森の国で育ち、縁あってヨーロッパの森の国に辿り着いた。ぼくは砂漠の暮らしは知らないけれど、もし砂漠や草原の国に来ていたら、つらくてすぐに帰国していたかも知れない。そうだ、忘れていた。森を散歩するたびに思い出すもの。ぼくは森の中を一人で歩いていると、いつもアン・モロウ・リンドバーグが書いた「海からの贈物」を思い出す。長年、吉田健一が翻訳した新潮文庫版を読んでいて、ある日「クレヨンハウス」を覗いてみると、加筆部分を収録した新訳が出ていたのですぐに買ってみた。訳者は落合恵子さん。でも結局この本はまだ未読のまま東京の知人宅に預けてある。一般には女性向けの本に括られているけれど、ぼくはこの本を読んで目からウロコどころか鯛一匹落ちたくらい、いろいろと影響を受けた。

海からの贈り物

海からの贈り物

  • 作者: A.M.リンドバーグ
  • 出版社/メーカー: 金星堂
  • 発売日: 1969/05
  • メディア: 単行本


海からの贈物

海からの贈物

  • 作者: 吉田 健一, アン・モロウ・リンドバーグ
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1967/07
  • メディア: 文庫


海からの贈りもの

海からの贈りもの

  • 作者: アン・モロウ リンドバーグ
  • 出版社/メーカー: 立風書房
  • 発売日: 1994/10
  • メディア: 単行本



最近「コラボレーション」という言葉がよく使われるけど、たぶん本当の意味は、異分野のプロフェッショナルが複数集まって、お互いの影響を受けながら人数分以上の素晴らしい仕事をするということだと理解している。ところが近頃使われるコラボレーション(コラボ)と言えば、ダメなやつらが5人集まって、やっと1人前の仕事をすることにも都合良く使われていて、最近もっとも嫌いな言葉の一つになってしまった。半人前や未熟者のための言葉に成り下がった感じだ。ましてや、例えば設計と施工、製作と印刷、生産と販売……みたいに、もともと恊働として当たり前だったものまで「コラボレーション」と呼ぶにいたっては、便器のフタをしたまま用を足したくらい、呆れ返って言葉もでないぜ、まったく。ともかく何でもコラボ、コラボと言っている人は、頭が悪そうに見えるから、気をつけたほうがいい。「徒党を組まない思考への意志」と故・須賀敦子さんが評したリンドバーグ夫人の「海からの贈物」を読んで、群れて社会的無責任のぬるま湯に浸かることを恥じて欲しいと思う。ぼくは共同作業(一人でできることを大勢でやること)が大嫌いだ。恊働が大前提になっているワークショップや、もともとプロ同士の恊働で成立している仕事はともかく、とりあえず何かの目的(仕事)のためにみんなで集まって……というのも大の苦手で、誘われても理由をつけて断るようにしてきた。本来、共同作業というのは個々の思想や実力がせめぎ合う命がけの行為なのに、そんなに簡単に共同作業なんてできるかよ。だから、そんなぼくの目標は「孤高」。孤高同士が出合い初めて、コラボレーションというものが成立するのだと、あえて言わせていただく。孤高への道のりは遠いけどね。ふー。

「海からの贈物」がアメリカで出版されたのは1955年。消費拡大と物質文明のただ中のあったアメリカに、アン・モロウ・リンドバーグのような人がちゃんと評価されていたことに、当時のアメリカの真っ当な精神風土が窺えた。それから30年後、バブル好景気に沸く日本で、アメリカの未来学者デュエイン・エルジンが書いた「ボランタリー・シンプリシティ」という本が翻訳出版される。みんなお金を使いたくて仕方なかったとんでもない時代に、「自発的に簡素な生活を送ろう」なんて本は、あまり見向きもされないまま、未だに絶版。ぼくの手元から無くなってからもずいぶん経つ。古書店に売ってしまったのかも知れない。アメリカの意識の高い一部の国民の間では、この「ボランタリー・シンプリシティ」の思想が新しい生活常識、暮らしの規範になっていると、内橋克人氏は自著の中で書いていた。ぼくはこの本のテーマで雑誌の特集を企画したいといつも思っていたけど、実現はしていない。この本もある意味、アメリカの真っ当な部分だと思いたい。読者からの手紙などを追加収録した「ボランタリー・シンプリシティ」新版も出ていると言う噂を聞いた。それならなおさら、追加分を加えた再版が求められるところだ。ぼくは、ぼく自身、今だからこそこの本の意味が理解できるのではないかと思う。20世紀後半を代表する生活思想の一冊(だと思うけど、ちゃんと読んでいなかったので自信はない)。ファンの人がいたら申し訳ないが、ゴキブリより嫌いな「ソトコト」みたいなインチキ雑誌出版社が、ネットワークビジネスの手あかで汚れた触手を伸ばす前に、心ある、いや、フツーの出版社に出してもらいたい。ぼくがリビング・デザインセンターという会社で「LIVING DESIGN」という雑誌の仕事をしていた頃、リビング・デザインセンターから出せば良いのにと勝手に思っていた。

ボランタリー・シンプリシティ(自発的簡素)―人と社会の再生を促すエコロジカルな生き方

ボランタリー・シンプリシティ(自発的簡素)―人と社会の再生を促すエコロジカルな生き方

  • 作者: デュエイン エルジン
  • 出版社/メーカー: ティビーエス・ブリタニカ
  • 発売日: 1987/10
  • メディア: 単行本



昨日の夕食はニンニク入り焼きそば。今日の昼(朝)食はゴハンと梅干し、海苔、ザーサイなど。

森の中を一人ですたすた歩くのもいいけど、大切な人と、今の半分くらいの速度でゆっくりと歩きながら、いろいろな話をしてみたい。このさい話はしなくてもいい。雑木林を縫って吹いてくる木の匂いのする風に追い抜かれて、森を抜けた空の広さに驚きたいと思う。絵筆では描けない雲のグラデーションをぼんやり見ていたい。森の国に来ることができて本当に良かった。散歩の途中、そんなことを考えていた。


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akane

大阪(と言うより日本)も、先日から初夏のような、日差しです。
初夏の早朝はなんとも言えないくらい、空の色が青でもなく、うすい白が入っていて........。
今のこの時期にしか見る事のできない空がとても好きです。

風邪、治りつつあるよぅで、安心しました。
by akane (2005-04-30 10:46) 

ヒロ@七里ヶ浜

今日の威勢のよさ。小気味いいですね。
「便器にふたをしたまま用を足したいくらい」
いい啖呵。
確かに、にせものを言葉で言いくるめる誤魔化しが、私も嫌いです。
by ヒロ@七里ヶ浜 (2005-04-30 22:43) 

いとうちおり

ほんと、小気味よいですねー。
ボリス・ヴィアンの早川から出てるシリーズの邦題に通じる気持ちよさ!
(「墓に唾をかけろ」とか「醜い奴らは皆殺し」とか…(笑)。いいぞー。)

実は私もグループ化が苦手で、でもそんなこと公言しちゃうと人としてアレかしら?と思っていましたが、私も今日からカミングアウトして「正しい孤高」をめざします!

ところで今ニセコに来てるんですが、素晴らしい食材いっぱいで、ここに橋場さんがいたらものすごく美味しいもの作ってもらえそうなのになぁ。
by いとうちおり (2005-05-01 01:22) 

hsba

風邪の心配、どうもです。もうすっかり良くなりました。大阪の初夏の空、いいですねー。青い空に白い雲、ビールに串カツ。んーたまらん。

ヒロ@七里ヶ浜さん、どうも。本当は偽物、如何物を自覚しているのに虚勢を張っている人は苦手ですね。「王様は裸だ」と言えないたちなので。余計な気を使ってしまい、つらいです。「コラボ」って言葉も、遡れば、原稿を考えるのが面倒な編集者が早く仕事を切り上げて、合コンに間に合わせたい一心で使い始めて、その後、どぶ川のアメリカザリガニのように異常繁殖したような様子も窺えます。

「屠殺屋入門」「ぼくはくたばりたくない」、いいぞー! んじゃあ、ぼくもカミングアウト。このブログのタイトルのおしまいは「うっせーよ! ばーか」だったんですが、バカに誇りを持って生きている人に申し訳なく思い、最後の「ばーか」は削除させていただきました。ところでこの季節、ニセコのうまいものって何ですか?
by hsba (2005-05-01 08:07) 

@シン

奈良も暑いです。
こんな日は、家族で河原でバーベキュー。
冷えたビールを、キューっと。
牛タンを塩でいただく、幸せなひと時。
「備長炭」ドイツにありますか?
手作りソーセージとか、炭で焼いたらめちゃくちゃうまそうだけど。
by @シン (2005-05-02 06:57) 

hsba

ドイツは家庭で直火で魚や肉をことはタブーみたいなんですよね。煙が出る料理はダメみたいです。バーベキューをする場所が近くにありますが、みんな薪で焼いてますね。しかも生木を使っている人もいた。それではみんな薫製になってしまう。ぼくもソーセージは炭や直火で炙りたいほうですが、ドイツでは鉄板の上で焼くか、茹でるのがほとんどです。もったいない。ドイツに炭があるかどうか、今度ホームセンターで見てみますね。
by hsba (2005-05-03 08:53) 

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