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若山和央さん/森/シンクロニシティ [生活雑感]

お日柄良かったのか、お城のまわりはウェディングドレスが3〜4組。それぞれプロのカメラマンを雇って、結婚式の記念撮影をしていました。ソリチュードにはプロテスタントの教会があり、レストランもあるのでここで式を挙げてパーティーをする人がいるみたいです。屋外が気持ち良い季節になり、週末にはこうした結婚式が増えてくるそうです。

ぼくは森の中にあるもう一つのお城を目指して散歩しました。

しかし見つからない。どんどんと深い森に入っていく。結局ぐるぐる回り約3時間後、ソリチュードに戻ってきてしまった。方向を間違えていました。森の中は少しひんやりした清々しい空気で、鳥の鳴き声も心地よかった。雪解け水があちこちに小さな池をつくっていて、ところどころに清流がさらさら音をたてていました。木々はまだ新芽が頭だけのぞかせる程度ですが、中には小さな花をつけた木もあり、その木の回りは無数のハチが飛び交い、ネコが人に擦り寄るように、花と戯れ合っているように見えました。
陽の当たる道では、きらきら光る小さなミチオシエが、ぼくが歩く先々へと羽ばたき飛んでいきます。昆虫図鑑にはハンミョウと言う名前で出ている甲虫で、英名はスパニッシュフライ。この種類かどうかは分かりませんが、猛毒を持つ個体もいて(食べたら……ですが)、乾燥させたものは、古くから媚薬として知られています。木陰では赤茶色のヒオドシチョウが羽を休めていました。越冬したのかも知れません。おそらく間伐材だと思うのですが、森の手入れのために切り倒された広葉樹の切り口からは、露のように樹液が流れ出していました。森は世界中どこも同じ。

15年ほど前、グラフィックデザイナー、彫刻家の若山和央さんから聞いた興味深い話を思い出しました。若山さんは、現在のように観光地化する前のバリへ何度か足を運んだ方です。バリ島の森の中にしばらく滞在して、ひたらすら木彫に勤しんだこともあったと、そんな話をお茶を飲みながら聞いていました。若山さんは当時40歳でしたが、ぼくより10歳以上も上には思えず、若々しくて颯爽としていた方でした。元資生堂のデザイナーで、イラストも数多く手掛けています。

そのときの話はこんな内容でした。

ある日、若山さんがバリの森を歩いていると、ある男が原木を手渡し
「おまえはこれを彫らなければならない」というようなことを突然言われたそうです。
そうすると不思議なことにそこから彫り出さなければならない形が見えてきて、あとはひたすら、木を削り、その形を発掘したという……それも面白い話なのですが、さらに、その木を彫るように指示した男は、バリ島にはいない動物や鳥を、あたかもそこにいるかのように彫っていたというのです。もちろん現在のように情報網が発達していたわけではなく、その男は見たこともないはずの動物を、数多く彫っていたそうです。見たことのない動物をどうして彫れるのか、若山さんが尋ねても「よく分からないが、見たことがあるような気がする」と答えるだけ。そこで若山さんは、森には人知を越えた情報のネットワークがあって、世界中の森は何かでつながっているのでは、と感じたと言うのです。つまりその男は、未知の生物を森のネットワークから教わっていたのでは……と。もう15年以上も前のことなので、内容が正確か不安なのですが、若山さんはそんな話を聞かせてくれました。

森に生きている動物に、もし人間のような自意識がなければ、動物たちは、自分を「森」自身だと感じているのではないかと思うことがります。ぼくたちは自分を自分だと意識しなければならない感覚が強いぶん、自分を見失うことを恐れ、自己を常に知覚できるように感覚を使いながら生きています。だから暗闇では自分自身が見えないことを恐がり、また、脳障害などで手足の感覚を失った人は、触覚で自分自身の存在が確かめられず、目を閉じると体が溶けて失われるような恐怖心に襲われると聞いたことがあります。しかし森で暮らす動物は、自身の意識が森全体にまで拡大していて、森の生命は自分の生命であり、森の傷みは自身の傷みとして受け止めているのではなかと、想像することがあります。むしろ森に身を委ね、自身の存在を森の大きな意識の中に溶かしてしまえば、個体としての死も恐れることもなくなります。こうした壮大な意識が、ぼくたちの想像を超えたレベルで世界中でつながっているとしたら。若山さんの話はそんなことを想像させました。

20世紀初め、グリセリンは結晶化しない化合物だと思われていました。当時、研究者がどんな実験をしても、グリセリンが個体になることはなかったのです。しかし、ある時、オーストリアからロンドンに送られた、樽詰めのグリセリンで、どういうわけか一個だけ固まっている樽が発見されました。グリセリンの結晶は世界の化学者の研究材料となり、初めてグリセリンの結晶化が確認されるわけですが、不思議なのは、これが発見されたことを機に、世界規模でグリセリンの結晶化が同時発生的に始まったということ。つまり、それまでグリセリンは固まったことがなかったのに、たまたま、ロンドン港で結晶化が認められたことを契機に、ロンドンから遠く離れた、世界中のグリセリンが、思い出したように、突然、結晶化を始めたという話です(これは本当の話ですから)。同様の話はほかにもあります(エチレンジアミン酒石酸の異常型結晶の話など)。グリセリン同士で連絡を取り合ったとは思えませんが、とにかく「結晶化」という事実が地球上のグリセリンに共鳴して同時多発的に結晶化が起きたわけです。ぼくはこの話をライアル・ワトソンの本で読みました。タイトルを忘れてしまったけど。
ひょっとしたらディヴィッド・ピートの「シンクロニシティ」だったかも知れません。

シンクロニシティ

シンクロニシティ

  • 作者: F.David Peat, 管 啓次郎
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 1989/07
  • メディア: 単行本


化学の分野では「種結晶」という言葉があります。ある物質をお湯に限界まで溶かして、その後溶液をゆっくりと冷やしていくと、温度の低下で溶けきれなくなったものが結晶として沈殿します。これは理科の実験で体験済みだと思います。でも中には、一度溶けてしまうと結晶構造を忘れてしまい、再結晶化しない物質もあります。それを再び結晶化させる方法として、もとの物質をひとかけら溶液に入れる、という簡単な方法が。そうすると溶液は結晶構造を思い出して、一瞬にして結晶が析出されるというわけです。ここで入れる「ひとかけら」が種結晶です。人の記憶と化学は似ているところがあります。

若山和央さんは今何をされているのか、実はよく分からないのですが、一時はミュージシャンのEPOさんと一緒に暮らしているという噂を聞きました。EPOが関係する会報誌のデザインも手掛けていたようです。また、文化女子大学で絵画を教えていたという話も。いずれにしても今はもう彫刻は彫っていないのでしょうか。
若山さんの作品は、日本では珍しいプリミティブな彫刻で、そのような作品は、ほかには89年に亡くなった砂澤ビッキさんしか思い当たりません。 若山さんの彫刻が好きでした。横浜国大を修了したばかりの、谷内田章夫、木下道郎、北山恒の建築家3氏が共同主宰していたワークショップという設計事務所と、若山さんはよく仕事をされていました。

最近少し太ってきたので、動物性脂肪をできるだけ控え、しばらくはベジタリアン生活。朝はキャベツ炒めの卵とじとトマトのサラダ。ベジタリアンなのに卵食べてますが。ドイツのキャベツは固くて、多少火を通しても塩をふっても、へなへなになりません。量も減らないので日本と勝手がずいぶん違います。昼は焼き菓子を一切れ。

夜はドライトマトと厚揚げのリングイネ。ドライトマトは少し和風な味があると勝手に思い込んでいるので、和の食材と合わせてみました。組み合わせどうこうよりドライトマト自体がおいしいので、パスタもおいしいです。さらにパスタを和えたフライパンに残った油をそのまま使い、キャベツとタマネギを炒め、それをリングイネの茹で汁に。残りのリングイネをぽきぽき折って放り込んで、さらにニンニクのマリネも入れて煮込み、白い野菜スープもつくった。


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akane

3時間も森の中を歩き回るなんて...。
「ある~日、森の中、熊さんに、出会~った♪」その歌をおもいだします(笑)。
最近、少し太ってきたのですか???なれない海外生活などで、痩せる気がしそうなのですが・・・。
まさしく、このブログのタイトル通り「痩せたり太ったり」?ですね(笑)
帰国して、松浦亜弥似の先生に怒られない程度に、頑張ってください☆彡
by akane (2005-04-03 23:11) 

yasu

橋場さん、こんにちは。海外で暮らそう!働こう!のyasuです。

3時間もさまよって元に戻ってしまったのに”清々しい空気で、鳥の鳴き声も心地よかった。”とは、よほど居心地が良いところなのでしょうね。

ところで、“海外在住者の声“をE-mailで私のほうに既に送ってくれたでしょうか?
実は、私のブログからの自動送信E-mailソフトは不具合で送信不能になっていました。
詳細はコチラ;http://blog.livedoor.jp/myasu1/archives/17906250.html#trackback

もし、既にE-mailを送信していただいた場合には、私のほうには残念ながら届いておりません。
本当に申し訳ないのですが、今度はご自身のE-mailソフト経由で私のほうに投稿を送っていただけないでしょうか?
 送信がまだの場合は、このコメントに関しては無視してください。
E-mailでの送信、お待ちしております。本当に申し訳ありません。
by yasu (2005-04-04 00:06) 

かたおか

美しいところですねぇ、ふう。
今回のお話、こういうの大好きなんです、おもしろかったです。
ライアルワトソン!! 「アースワークス」だったかと。。
「シンクロニシティー」って、読んでみようと思います。
by かたおか (2005-04-06 12:51) 

hsba

うー、まったく、すぐに太るので嫌になりますよ(もともと太ってはいるのですが)。40歳過ぎると太り方が変わってくるので、要注意です。ダイエットで体重を落として、その後、リバウンドするとダイエット前の太り方とは確実に変わりますから。やっぱり内臓脂肪が付きやすくなりますね。食事も重要ですが、運動も大事なんですよね。ダイエットって科学ですから、カロリーを消費した分、体重が計算通りに確実に減ります。

ライアル・ワトソンは「生命潮流」だったような気がする。たしか「100匹目の猿」の話。この逸話もそうですが、ライアル・ワトソンの本は、某新興宗教やいかがわしい経営コンサルなどの説話に都合よく使われて、誤解されることが多いので残念ですね。別にワトソン博士の言っていることがすべて正しいわけではなく、おそらく中にはつくり話もあるとは思うのですが、それを都合良く解釈して、ワトソン博士の権威を借りて自説を吹聴する怪しげな人がいるのが悲しいです。そもそも彼の書物を日本で最初に出版したのは、生長の家系の出版社だったので、新興宗教の思想とは相性が良いのかも知れません。オルタナティブという意味では。

「シンクロニシティ」は面白かったです。文庫にもなっていると思う。遠藤周作が帯を書いていました。ぼくはこの本を、サイパン島のクーラーの音がうるさい、ココナツオイルの匂いの漂うダイバーズロッジで読んだので、「シンクロニシティ」と聞くと、自動的にコパトーンの香りが思い出されます。以前はなぜ、そんな香りを思い出すのか分からなかったけど、たぶんサイパンの記憶がよみがえるのではないかと、最近、気づきました。
by hsba (2005-04-07 04:10) 

かたおか

そうなんですよねっ!
ライアルワトソンの話って、「不思議なこと」が多いけれど、
そういうのって別に「不思議なこと」なんじゃないと思います。
by かたおか (2005-04-07 12:04) 

ぐー

こんばんは。
素朴な疑問です。ドイツでもお日柄ってあるのでしょうか? 
占星術のようなもので割り出すとか?
もしそうなら、大安、友引、みたいなドイツ語の表現も
きっとあるのでしょうね。
by ぐー (2005-04-07 22:59) 

hsba

んー、ドイツのお日柄ですね。調べておきます。シュツットガルトにはカトリッックの人も多くて、敬虔な信者は金曜日は肉を食べないとか、日曜日は洗濯機を動かすこともダメとか、そういう習慣はあるみたいなので、キリスト教にまつわるタブーなどもあるかも知れません。話は変わるのですが、普通、ドイツ語で「こんにちは」は「グーテン・ターク」ですけど、シュツットガルトでは時々「グリュス・ゴット」と声を掛けられることがあります。これは南ドイツ特有のカトリックの挨拶だと、ドイツ人が教えてくれました(本当だろうか)。意味は「神の栄光を」みたいな意味だそうです。
by hsba (2005-04-08 00:03) 

ぐー

何事も神様なのですねぇ。
話は変わりますが、今日4月8日はお釈迦様の誕生日です。
あ、伊勢神宮の遷宮のための儀式は今年から始まるようです。
本番は8年後ですが。

★ドイツのお日柄のこと、おひまーなときで結構ですから。
by ぐー (2005-04-08 00:43) 

hsba

はあ、灌仏会ですね。そういえば江戸のハンダ職人が、失敗してダメになることを、「ひ(し)がつよかった=四月八日だ」をしゃれて、「おしゃかになる」と言ったとか……。一方では地蔵を鋳るのに間違えて釈迦像を鋳てしまうことから、不良品を「おしゃか」と呼ぶようになったという説もあります。ぼくはハンダ職人に一票ですが。
by hsba (2005-04-08 00:50) 

ぐー

江戸のことば遊びですね、わたくしもぜひハンダ職人に。
ところでハンダ職人というのは、
どんなものをついでいらっしゃったのでしょう?
by ぐー (2005-04-08 06:42) 

はじめまして

若山君の知人です。彼とコンタクトをとってみてはいかがでしょうか?

以下は、最近、若山君が作ったホームページです。
http://homepage.mac.com/toratres/
若山君のブログです。
http://blog.so-net.ne.jp/sowaka/
by はじめまして (2005-04-18 13:00) 

hsba

若山さんのブログ(しかも同じso-net)があったとは知りませんでした。さっそく覗いてみました。ありがとうございます。こういう形で情報をいただけるとは、ネットはすごいなあと改めて思いました。
by hsba (2005-04-18 21:42) 

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