SSブログ

「悲しい人達」 その⑮ 「ハートブレイク」 [レッドの物語]


写真  野幌森林公園  2007年8月

*************************************************************************************
以下はフィクションです。でも、北海道の小さな町で赤や黄色い髪の若い介護さんを何人も見ました。
*************************************************************************************

「いったいどうしちゃったんだ。」
そういって、シュンはあたしをまじまじ見つめる。
「何だよ。シュン。あたしは何も変わってないよ。もし、あんたがあたしを変わったって思うなら、それはさぁ・・。あんたが本当のあたしを見てなかったってことじゃん。」
「ふーん。何か知らねぇけど、ややこしいね。俺はややこしいことや説教がましいのには飽き飽きしてんだよ。」
そう言ってシュンは一人でバイクを飛ばして札幌に戻っていったよ。
これで、何かが終わったって思った。

 


 

さんざん、荒れた高校時代。
親、兄弟、学校、先生、じいさん、とにかく反抗した。考えていたことは自由になりたいってことだけ。何が自由かなんて解らなかったけど、自分の考えで勝手気ままに生きてみたかった。何やかんやと意見を言うやつらや組織にはとことこん反発したなぁ。規則やルール、社会ってものなんかどうでも良かった。そして、高校を情けで卒業してすぐにバイクに乗って生まれ育った湖畔の小さな町を出た。カッコイイ町といかした仲間、そして自由と輝きを求めて札幌に・・・。札幌で2年間、ライブハウスで出合ったギタリストのシュンと暮らした。シュンはライブで輝いてた。シュンの弾くギグは最高だったよ。シュンのライブのない時はススキノの飲み屋のバイトで食いつなぎ、月に何回かはバイクでツーリング。でも、違うと思った。想像してたのはもっと刺激的でもっとカッコイイ生活だよ。それからシュンと東京に出た。でもさぁ、やっぱ東京はすごかった。あたし達ってなんてカッコ悪いんだろうって思ったよ。形だけ真似たっていいフリなんかできゃしない。つっぱって生きるってのにもセンスと努力が必要だってさんざん思い知らされた。シュンよりうまいギタリストなんてたくさんいたしね。とんでもない事件に3回ほど巻き込まれ騙されてボロボロになってこのままじゃ二人ともだめになると思い、シュンは札幌に、そしてあたしは、故郷の湖畔の町に戻ることにした。要するにさぁ、はじけ出されたんだよね。札幌ではあれほど輝いてたシュンも東京では輝き続けることができなくて本当に悲しい思いをした。

でもさぁ、突然田舎に帰ったって受け入れてくれる所なんてあるわけないんだよね。家に戻ったら、あたしの真っ赤な髪と唇のピアスやパープルのシャドゥ、黒いマニュキア見て、親やじいさんが凍りつくのが解った。知らん振りして勝手に家にはいりこんじゃったけどね。いまさらさぁ、突然髪黒くしてスーツとか着れるわけないじゃん。さんざんぱらつっぱって馬鹿にして故郷を出たのにさぁ。もしかしたらもう生きていける場所ないのかなぁと思ったりしたよ。それで1ヶ月ほどブラブラした。親も腫れ物にさわるみたいな接し方してきたけど、かえって有りがたかったなぁ。そうしてある日、思ったんだ。こんなあたしでも、ちょっとがんばってみようかなぁってさぁ。

田舎の新聞の小さな求人。老人施設の介護職。めっちゃ給与とか安いけどむしろ望むところで面接。
赤いツンツンの髪や唇のピアス見ても施設長は驚かなかったよ。ちゃんと目を見て「頑張れるかい?」って聞いてくれた。なんだかうれしくて「はい。」って思わずいい子ぶった答え・・・。よっぽどの求人難だったんだろうなぁ。

今はさぁ、あたしのこと、みんな「レッド」って呼ぶよ。75歳のじいさんも85歳のばあさんも、他の職員もね。もう唇のビアスは取ったけど、この赤い髪はむしろ年寄りにしてみたら目立っていいみたいだ。他の職員はなんだか見分けがつかなくても、あたしのことは赤い髪がわかるらしくみんな「れっどーっ」って呼んでくれる。言葉遣いもさぁ、良く解んないから、「おっ、じいちゃん、今日も快便かぃっ。」ってな感じ。「ばぁちゃんさぁ。何か食いたいもんねぇの?」とかさぁ。そのほうが気兼ねなくいろいろ会話できるみたいだしねぇ。一度は落ちるとこまで落ちたって思ってるから別にウンチさわるのもお尻拭くのもさほど抵抗はなかった。他の職員が躊躇するような仕事も修行だと思ってできたしさぁ。そんなこんなで職員や施設長ともなんとなくうまくやっていけるようになった。最近は何となく自分がこの場所なら少し輝いていられると思い始めたんだ。こんなあたしでも頼りにしてくれる人達がいるんだよ。

シュンがやってきたのはそんなとき。「俺も札幌でなら食うくらいなら困らない。だからまた札幌で暮らそうぜっ。」って言ったシュン・・。
違うよシュン、あたしは輝くシュンを見ていたかった。シュンの強い輝きで輝く自分を夢見てた。食えるとか食えないとか、そんなことを期待してた訳じゃない。
あたしは、今でも好きだけと、切ないくらい好きだけど、でも、今のシュンといっしょにいてもうまくいかないと思う。心が震えるよ。苦しくてどうにかなりそうだけど・・・。言いたいことがたくさんあって、伝えたいこともたくさんあるのに、ほとんどちゃんと伝えられなかったあたし・・。
でも、今はあたし一人でも少し輝いていられる。夢見てたような、クラクラするような輝きじゃあないけれど・・。
みんなが待ってるよ。松じいさん、カヨばあさん、正平じじいに、すけべな竹じじい。
オムツ替えてほしいってかい?おやつ食べさせろってかい?仕方ねえよなぁ・・。今いくから待ってろよ。

頭の中では今でも、カッコ良かった、あのころのシュンのギターが鳴り続けてるよ。
さようなら、シュン。心が裂けそうだけれど、あたしはここで生きてくよ。
輝き続けるためにさぁ。涙なんか流してる暇なんてないんだよ。


nice!(20)  コメント(14) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 20

コメント 14

こんばんは^^
そんな輝き方もあるんだぁ~って思いながら読みました。
今渋谷なんかたむろしている若い子も、こんな輝き方見つけたら
日本も捨てたもんじゃないけれど・・・
素敵なストーリーをありがとうございました~♪
by (2007-08-18 21:40) 

なんか、力強さを感じました。
実際、いるでしょうね。^^
by (2007-08-18 22:05) 

pistacci

お、なんか、いぃ話じゃんっ☆・・・影響受けやすいです・・
見た目が・・なんて本もヒットしてるけれど、
見た目だけじゃない、っていうことも、事実ありますよね。
by pistacci (2007-08-18 22:21) 

Kimball

(凡人オヤジがおこがましいですが)
やっぱ、haruさんの作品には「つかみ」がありますね!!
読み出すと最後まで「つかまれて」しまいます!\(^o^)/
by Kimball (2007-08-19 06:44) 

青い鳥

赤や青や黄色の髪の子達、私の住む地域では大分減りましたが、
そうすることでしか自分の存在を示せない気の毒な子達です。
こんな輝き方を見つけてくれるのなら、救われますね。
by 青い鳥 (2007-08-19 07:26) 

haru

早速コメントありがとうございます。
以前に北海道のなかでも僻地に近い老人施設をいくつか見学させてもらったことがありました。でも施設には意外と若い人が働いているのにびっくりしました。しかも、髪が赤かったり、青かったりピアスをしたり・・。ある施設で話を聞いてみると、田舎を捨てて都会にでて、つっぱって生きていこうとした若者達の中で、結局はそういう世界でやっていけないと挫折した人達がいくあてを失い田舎に帰ってきてこういう人手不足の施設で働いているのだと聞きました、ただ地元で目いっぱいつっぱってきたので髪の色とかは彼らなりの事情からすぐには変えられないとのこと。でも、気取ったところがなく、言葉遣いや行動は乱暴でも意外と老人達の受けがいいとのことでした。その時の心象がずっと残っていて、こういう話を作ってみました。
by haru (2007-08-19 09:54) 

haru

○mimimomoさん
渋谷で立派にたむろしてやっていける若者ってのにも彼らなりのステータスがあってダサイのは受け入れないという壁があるのでしょうね。
そういう意味では、渋谷の町に同化してしまってるやつらでは無理かも・・
強い挫折感があってできることかもね。

○こうちゃん
ほぼこれに近いことが現実にあります。
驚きですよね、

○pistacciさん
ちょっと不器用で田舎の閉鎖的な社会でははじけるしかない若者っていますよね。彼らの本心は自分らしく生きれて受け入れてくれる場所を探しているのかも知れません。

○Kimballさん
いつもありがとうございます。

○青い鳥さん
そういう子達を単純に否定するのではなく受け入れようとする大人や社会が少ないということもあるのかも知れません。
by haru (2007-08-19 10:04) 

masugi

今回も素晴らしいです~。一気に読んじゃいました。
そう、太陽の輝きを反射して輝く月ではなく、
自ら輝く太陽にならなくてはいけませんよね。それが
どんなに小さな太陽でも。
by masugi (2007-08-20 01:17) 

haru

○masugiさん
うん。太陽と月の比喩は素敵ですよね。そういうことを表現したかったけどなかなか言葉が思いつかなかったなぁ。
そうかぁ、太陽と月かぁ・・。リメイクすることがあれば使わせてください。
by haru (2007-08-21 13:25) 

トキちゃん

初めておじゃまして、一気に読みました。
若い時は、色々経験してそれを肥やしに
人は成長していくのだと思います。
まだまだこれから、沢山恋して、失恋して
自分をしっかり見つめて頑張ってください。
by トキちゃん (2007-08-22 14:04) 

haru

○トキちゃんさん
コメントありがとうございます。
あのう・・。ぼくは50歳の男性です。これはあくまでもフィクションですので・・。でも、これから、たくさん恋して失恋したいですよ。
by haru (2007-08-22 14:30) 

かよりん

「レッド」の心の成長がなんか嬉しいですね。
こんな輝き方素敵です。
by かよりん (2007-08-23 20:49) 

むらさき

家に近所にちょっと目立つ子供たちのたまり場になってる
お宅があります。時々おまわりさんも訪ねてくるのですが、
出会うと「こんにちわ~」と気持ちよく声を掛けてくれます。
 個性の表現が大人たちには受け入れがたいのでしょうね
(私も含めて) 回り道が糧になって「レッド」君の様に
輝く事が出来るようにと祈ります。
by むらさき (2007-08-26 10:35) 

haru

○かよりんさん
人間はある枠のなかで押さえつけて育てるよりは、自由に外へ出て痛みを知って育つのを待つほうが早いのかの思うことがあります。
乱暴そうで悪そうな人にも意外に暖かい心を持った人もいますよね。

○むらさきさん
若者を育てるということが、町ぐるみ、家族ぐるみの時代がありました。
目標はどうしてひとり立ちさせるかということだったと思います。
そういう視点が今は無くなってただ押さえつけることをしようとすると反発だけを招くのかも・・。
by haru (2007-08-26 22:32) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。