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ラストスマイル。 [ナースの宝箱]

参明学士さんの明日融けてこの世から姿を消すことがわかっていても、満面の微笑み
でそこにあった雪だるまの記事を読みながら、私の中に1人の患者さんの笑顔が浮か
んだ。忘れないで、と言われているような気がして書かずにはいられない。

・・・大丈夫。忘れてなんていないけど、雪だるまの写真の中の笑顔と重なったので
ちょっとだけ、思い出を書かせてもらうね。

ある、おばあちゃんが長い間治療のために入院していました。
けっこうお金持ちだったおばあちゃんは最初から個室に入院して過ごしていたのです
が、いつも上品で、丁寧で笑顔の絶えない可愛い方でした。

もともとぽっちゃりした感じだったけど、治療の副作用で顔が丸くなっていったのに
「あら~、私みんなが持ってきてくれる差し入れが美味しくて食べすぎたのね。持っ
てきてくれるのが嬉しくて食べちゃうのよ。病院の食事も美味しいから全部平らげて
るのにね。こんなに食べるおばちゃんなんて私くらいじゃな~い?看護婦さん。」
そんなに困っているような感じはなくニコニコと笑って話しかけてきます。

食欲も薬の副作用の一つ。食事制限もない方だったのと、抵抗力が落ちるほうが心配
な状態だったので、「大丈夫ですよ。ちょっとお薬のせいで、食欲でるのと、お顔が
丸くなっちゃうって先生も言ってましたよね?食べれなくて元気がなくなったら治療
も辛いから、栄養つけて頑張りましょうね。それに、ちゃんと全部食べる方は他にも
いるから心配ないですよ。」そう声をかけると「あらそう?よかったわ~。病室から
ほとんどでられないし、食べることがもともと好きだけど、今は楽しみなのよ。」

夜勤で朝方ベッドの上でテレビを見ながらラジオ体操していてびっくりしたこともあ
るし、ラジオから聞こえる曲に合わせて口ずさんでいるだけのつもりだったけど、部
屋の外までその歌声が聞こえてきた午前三時の巡回もあった。
声をかけると恥ずかしがって周りが起きなかったか、本当に心配していた。

日々、辛い治療の中でも穏やかで笑顔の絶えないほがらかな方とみんな思っていた。

難しい病気で、治療が効果なければ急激に病状が悪化する。
そんな恐れていた事態になって家族はみんな覚悟していたが、酸素をどんなに上げて
も、なお必要な数値とならず、息苦しさは増してくる。

そうなったとき、痛みは痛み止めがあっても息苦しさをとる薬がない。
息苦しさを感じないように鎮静剤で意識レベルを落としてあげるより、苦痛を取りの
ぞく手段はない。ようは薬で眠らせることになる。
が、鎮静剤は呼吸を抑制してしまう作用もあるので、投与はぎりぎり本人が眠ってい
られる最低限の量で調節する。だんだん慣れてくると増量や併用しないと効かなくな
ってくるが、それでも薬を使わず息苦しさの中少しでも生きながらえるか、患者さん
が苦しくないよう、残りの時間が少し短くなるだろうけど、薬をつかってあげるか、
家族に十分説明した上で同意の元、薬を使用する。(安楽死、とは違います。)
一時的に使うのではなく持続して使います。使い始めたものを家族の都合でやめると
患者さんがよけい苦しむので、事前にしっかりと同意を得なければなりません。
ここに書いてあるよりはもっと色々複雑ですが・・・

その患者さんにも酸素の投与量がとうとう限界の量になっても息苦しさがとれないと
いう状態になってしまいました。
お部屋に私がいたそのとき、かけつけた方に、患者さんが今までのお礼を言っていま
した。笑顔の中にキラリひかる涙が流れていました。
そう、家族や最後に逢いたかった人たちにきてもらって、一人ひとりに最後の挨拶を
お別れをしていたのです。
「先生、今みんなに挨拶できました。息苦しさが取れる薬は、眠ってしまうんでしょ
う?だから先にみんなとお話したかったんです。お父さん(旦那さん)に薬を使うか
の返事まってもらってたんです。先生、使っていただけますか?だいぶ苦しくなって
きたから。」

旦那さんと奥さんはとても仲の良い夫婦で、いつも奥さんのために差し入れを持って
洗濯物を取りに来て、毎日通ってきていました。そんな夫婦二人で話し合ってきめた
そうです。そばにいる方々も涙ながらにうなづいています。
一人、抱きついて首を横に振る家族の方に、患者さんは「ありがとう。本当に世話に
なったわね。お願いだから見守ってね。」と。

薬を用意して点滴の途中からつないで効いてくるまでの少しの間、長い間治療してき
た主治医の先生と私達に、お世話になったことのお礼を笑顔で言いました。

いつもと変わらない最後の笑顔で「やっぱり少し怖いわ。手を握っててくださるかし
ら?」ふっくらした手を握って、その体の力が抜けて眠りにつくのを見守りました。

数日後、患者さんは眠ったまま亡くなりました。
患者さんが亡くなったことを知って、涙にくれたおばあちゃんがいました。
「なんであんないい人が私なんかより先に逝ってしまうの。」

本当に素敵な笑顔のほがらかな方で、最後まで強さを持った人でした。
今も最後のお別れをしている姿と向けられた最後の笑顔が心に焼きついています。


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参明学士/PlaAri

トラックバックありがとうございます。

人はどこからやってきて、どこへ行くのか。人の永遠の悩み。

人は生きたように亡くなって、亡くなったように生まれると言います。

新しい生を決めるのは、過去の自分の生き様だと。

いつも笑顔でいたおばあちゃん。きっとまたどこかで笑顔を振りまいているに違いありません。

明日の自分がどうなるかわかっていても、今を全力で生きる。

そんな姿に打たれるもの、大きいです。
by 参明学士/PlaAri (2005-01-04 09:06) 

アキオ

コメントも頭にうかびませんm(_ _)m
by アキオ (2005-01-04 10:48) 

run-hirachiko1

苦しくても最後まで残る人のこと気遣ってるこのばあちゃん。(すみません、ばあちゃん、て呼ぶのは凄く好感持ったから。うちのばあちゃんみたいで)
人柄が想像出来て、そんな方が病気で亡くなられたんだな・・と思うと涙がでます。
ばあちゃんの顔に似てるという、参名学士さんとこの雪だるまも見てきました。
笑ってました。きっと似てるんでしょうね。
by run-hirachiko1 (2005-01-04 11:25) 

kiyo

僕も最期まで強く生きようと思います。
by kiyo (2005-01-04 13:24) 

happytime

亡くなる時は自分の意識のあるうちにお別れの挨拶をしたい・・
そんな気持ちがよくわかります。
家族に勝手に薬の使用を許可されてしまったらと思うと。。
素敵な人生を歩まれたご夫婦だったのでしょうね。
優しいお話しを読ませていただきました。
by happytime (2005-01-04 14:53) 

ひな

**参明学士さん**
なんか雪だるまとの笑顔と明日をも知れないという感じだけで
トラバしてしまいましたが、あの笑顔が全てでした。
**アキオさん**
本当に私達頭を下げました。それくらい凛とした姿でした。
先生も、言葉もない、とあとで言っていました。
人柄は他のおばあちゃんの言葉でもわかるとおり、普段から
そのように凛と生きてきたすばらしい人だったのでしょう。
**chiko さん**
残される家族を思って言葉を残したのと、自分の人生を自分で
きちんと幕引きした、そんな引き際が見事でした。
でも、その場面に実際いたときは何でこんないい人が?って、
心の中で繰り返していました。
**kiyoさん**
私も強くありたいと思います。大好きな人たちを守れるくらいで
いいから、強さが欲しい。
**はぴたん さん**
医療の現場で働いていると、本当に自分が病気になったらどう
したいか、どのように生きたいか、を普段から家族と話すことが
大切だって思います。
家族が決めるのではなく、本人が決められるためには、家族に
理解していてもらわないとかなり厳しいので。
by ひな (2005-01-04 18:09) 

inlagoon

人生の最後をきれいにまとめられる方ほど立派な人はいないと思う。
ご冥福をお祈りします。
by inlagoon (2005-01-04 18:10) 

ひな

**インラグーンさん**
本当に、パニックになってもおかしくない身体状態の中、最後まで
立派だった姿に心を揺り動かされました。
「やっぱり少し怖いわ。手を握っててくださるかしら?」の言葉に、
死への恐怖の中あのような行動をとったことに本当に頭の下がる
思いです。
**小紋さん**
今日もいらしてくれてnice!ありがとうです。
by ひな (2005-01-04 18:20) 

kiki

どう思ったら、どう生きたら目前に迫る死の中で自分を保ち人を思いやれるのだろう・・・。そう思いました。 強くありたい強く生きたい。今はまだ模索中だけど人生最後の時に心から笑えるように凛と生きていきたいと思いました。
by kiki (2005-01-04 19:02) 

seita

こうしたご自身の身を裂くような文章に果たして「nice!」というものが適切であるか、なんとも言いがたいのですが、心底敬意を表して押させていただきました。blogで辛くならぬよう。
by seita (2005-01-04 19:18) 

年をとるほど、自分に係わった方が、この世から「さよなら」されていきます。今、目の前には元気な素振りを見せているのに。。そして病気回復後の希望を話して見えます。今の病気の帰結というものを此方は知らされているのですが。でも元気になってほしい。。。自分が尊敬する人を見舞った時の気持ちです。
これが良いのかどうかは分かりませんが、その気持ちにnice!です。
by (2005-01-04 19:42) 

ひな

**kikiさん**
まったくそのとおりです。凛としていたいです。
**seita さん**
逆にこうした場で書くことで、辛さとか重さを軽くしているのかも
しれません。ご心配してくださる気持ち、嬉しいです。
抱えるには重過ぎることも、口に出すといくらか救われるような
そんな感じでブログを使っているのかもしれません。
**mizusato さん**
きっとこれから先、歳を重ねるほどに、身近な人の死にも立ち会
うことになるのでしょう。辛いです。
by ひな (2005-01-04 20:15) 

りんたろ

ひなさん、いつもいいお話をありがとうございます。
生きているといろんなことがあるけれど、最後に心残りなく笑顔で逝けたら、その時はじめてしあわせな人生だったと言えるのでしょうか。
by りんたろ (2005-01-04 20:34) 

ichiro

積極的な治療をせずに思う存分楽しんで逝くのがいいのか、最後までスパゲッティ状態で逝くのがいいのか。。自分だったら前者を選ぶような気がします。自分の両親とか家族の場合はわかりませんが。。

笑顔で逝きたいものです。
by ichiro (2005-01-04 22:28) 

素人写真

ひなさんの文章は,本当に「宝箱」だと思います。
人間,病気の時には,医師と看護師に自分の全てをさらけ出します。
その時,自分の気持ちを受け入れてくれる医師と看護師に出会えたら,本当に幸せだと思います。
by 素人写真 (2005-01-04 22:53) 

ひな

**りんたろさん**
いつそのときが来るかはわからないので、いつでも精一杯生きて
いきたいですね。幸せのものさしは人それぞれでしょうから。
** ichiroさん**
コメント2つ同じだったので、片方だけ削除しましたm(__)m
スパゲッティ状態、という言葉は好きじゃないですが・・・
(お気を悪くされたらすみません(>_<))
長くなるのでまた別の機会に。
でも、人間らしいままで、というたとえなんでしょうね。
自分らしい最後だといいなとは思っています。
**飛行機雲さん**
私の文章が、というより出会った人々が、過ごした時間が、
教えられたものが、受け取った気持ちが、宝ですね。
出逢えてよかったと思ってもらえるナースでいたいです。
by ひな (2005-01-04 23:18) 

ad_oliver

一昨年亡くなった祖父のことを思い出しました。
自分にとって何が大切だったのか。
なくしてみて初めて気づくというおろかなことがある。
一番の後悔は祖父の死に目に立ち会えなかったこと。
このおばあさんとは状況が違うとはいえ、最期に話をすることができたことをうらやましく思いました。(もし話せたとしても私は泣いて何も話せなかったかもしれないけれども。)
このおばあさん、素敵な方ですね。
死というものをしっかり受け入れようとしていた。
私にもそんな日がくるんだろうか。
長文ごめんなさい<(_ _)>
by ad_oliver (2005-01-05 01:22) 

yunaママ

最後にそんな強さを持てるように、今現在、日々の生活をしっかりと大切に生きて生きたいと思います。
by yunaママ (2005-01-05 08:28) 

ひな

**Ollie さん**
親元を遠く離れて嫁いだ時点で、両親の最期のときに間に合わないかも
しれないという覚悟はしているつもりです。
でも、できれば最期に向かう日々をともに過ごしたいと思ったり。
いつそのときが来るかわかりませんが旦那と結婚したことは後悔しなくて
も、親元を離れなければならなかったことは後悔するかもしれないと思っ
っています。
**yunaママさん**
今を大切に生きた積み重ねが最期もきちんと生きることができる、そこへ
とつながっていると信じて、大切に生きていきたいですね。
by ひな (2005-01-05 10:19) 

maa

はじめまして、いつも読ませて頂いていますまあと申します。
読んでいて、涙が込み上げてきました。
悲しいのではなく、おばあちゃんの強さに感動しました。
ほんとうに。
私もできることなら、このんな凛としたおばあちゃんになりたいなぁ。
by maa (2005-01-05 12:47) 

ひな

**lalaluさん、ridgeさん、Ruiさん**
nice!ありがとうです。ホントに素敵な方でした。
**まあさん**
初めまして(^-^)
凛としてい続けること、何事も続けていくことは困難ですが
乗り越えてもなお、強くいれればいいなぁって思います。
おたがい頑張りましょう。
by ひな (2005-01-05 15:26) 

ひな

**Minnie さん**
こちらも読んでくださったんですね。ありがとです(^-^)
by ひな (2005-01-05 21:05) 

ナースの宝箱 今全て読みました。
涙がぽろぽろでてきてしまいました
一日一日を大切に生きていかないといけないと改めて思いました
by (2005-01-05 23:23) 

ひな

**おきちゃんさん**
お互い頑張っていきましょう(^-^)
読んでくれてありがとうです。
**甘夏 さん**
nice!ありがとです。またいらしてくださいね(^。^)
by ひな (2005-01-06 07:48) 

はらぼー

心遣いを自然にできる人の穏やかな笑顔は
周りの人の心にいつまでも残っていくのでしょう。
おばあちゃんのような「ひと」になれるよう
ボクらはそれぞれに、日々を頑張っているのでしょうね。
様々な人間に出会い、様々な最期に立ち会う職場は過酷でしょうけど
素敵な人との出会いを大切にしていってくださいね。
頑張る気持ちになれた新年です。ありがとうございます。
by はらぼー (2005-01-08 12:59) 

ひな

**はらぼーさん**
こんにちは。
これからもどんな素敵な出逢いがあるのかと思うとわくわくしてしまいます。
こちらこそ、優しい言葉をありがとです(^-^)
by ひな (2005-01-08 15:40) 

sumeru

はじめまして。
今日、ひなさんのblogを訪れたのは2度目です。
最初にこのblogを読ませていただいた時にはすぐにコメントできませんでした。
読み終えて、涙で文字が打てませんでした。
今、少し時間が経って落ち着いたので書き込みさせていただいています。
私自身、身内の死をこの何年間で幾度も経験し、病院の先生を恨んだことも恥ずかしながらあります。
でも、ひなさんのような優しいナースの方もいらっしゃることを知って心が癒されます。
たいへん辛いお仕事だと思いますが、これからもひなさんの体も大切にして患者さんのためにがんばってください。遠くから応援しています。
素敵なblogをこれからもよろしく。
by sumeru (2005-01-21 01:40) 

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