SSブログ

日経の取材 [▼研究実況 Now!]

日経さんのある雑誌から、メタンハイドレートに関する取材を受けた。

日経さんなので、メタンハイドレートと経済という視点からの取材である。
現在、メタンハイドレート(通称メタハイ)に対して一般には2つの意見が出されている。
・メタハイは次世代の国産エネルギーとして期待できる。
・メタハイは採掘が難しく、エネルギー資源としては期待できない。
今回の取材はこの視点からであろう。私に白羽の矢が立ったのは、
たぶんメタンハイドレート関係の新聞記事がきっかけのようだ。

はじめ私は取材を断ろうかと思った。私はメタハイの専門家でもなんでもない。
海中に電気を流して地下を探査する「海底電気探査」という手法を開発していたとき、
たまたまメタハイというターゲットがあり、日本海の地下のメタハイらしき構造をたまたま
見つけただけだ。基礎科学技術の研究者にとって、経済的視点からの取材は正直、おもい。

ただ2つの点をアピールするために、メタハイの取材を引き受けることにした。

その1:メタハイがたくさんできる場所を調べねば!
石油資源を考えてみよう。石油ははじめからそこにあったわけではない。
●石油ってどうやってできたの?(石油情報センター)
 http://oil-info.ieej.or.jp/static/whats/1-1b.html
ここにあるように石油ができるには、「熟成に必要」な熱に加えて
「石油の材料を含む地層」「できた石油の移動」「石油を溜まりやすい地下構造」
の大きく3つが必要だ。
メタハイも同様。「メタハイができる温度や圧力」はだいたい分かっているが、
「メタンの材料を含む地層」「できたメタンの移動」「メタンが溜まりやすい地下構造」
が必要だ。特にメタンがどう移動して、どう溜まってメタハイになるのかがわかれば、効
率よく高濃度のメタハイ層を探すことができるだろう。いまは闇雲とはいわないが、メタ
ハイができそうな場所を掘ってみるだけで精一杯である。メタハイの厚い層を探す方法を
開発することと、なぜそこに厚い層が形成されるかを考えることが必要だ。

その2:メタハイが分解してしまう理由を調べねば!
温度・圧力条件を考えるとメタハイが海底面にあってもよいのだが、実際には稀だ。すな
わち、海底面ではメタハイができないか、できたとしても何らかの要因で分解してしまう
らしい。なぜ分解するのか?生物が影響しているのか?地質的な要因がキーか?分解せず
に海底まで出ている場所では、他の場所と何が違うのか? 地下構造を調べて海底の泥のサ
ンプルを取ってくれば結論がでるのではないだろうか?と思うわけだ。

---
また「資源」面でメタハイは注目されているが、実は「環境」面とは表裏一体である。メ
タンは資源としてのガスであると同時に、温暖化ガスでもある。一説には5000万年前に地
球が急速に温暖化した際の要因は、メタハイから放出された大量のメタンガスであるらし
い。またメタハイが分解して地中に大量のメタンができれば、地層が不安定になり海底地
すべりをおこすだろう。事実、メタハイ層の近くには昔の海底地滑りの跡が見つかることはある。
海底地すべりは津波を起こしたり、インターネット通信の要の海底ケーブルを切ってしまうだろう。
人間がメタハイを資源利用しなくても、自然のメタハイが将来どうなるかは調べなければならない。

天然のメタハイが発見されたのは1970年代。研究者達はいまやっとその一端にたどり着い
たように思う。

取材にこられたライターさんは、とてもまじめで勤勉な印象の方だった。遠くまでお越し頂き、
恐縮である。ライターさんは他にも何名かの研究者に取材をされているようだ。
どんな記事になるか、素直に楽しみである。

人気ブログランキングへ

とはいえ、ある人いわく
「メタハイを海底から回収する方法って、まだないんでしょう?
 じゃあいくら地下に埋まってるのを探す方法ができてもダメじゃん?」
うー、おっしゃるとおり。
でもそんなこといっても全部いっぺんにできやしない。地道に少しずつ、少しずつ。
全部をひっくるめて、最後に資源に使えるかどうかを考えないと。

けど、それじゃ社会はなかなか許してくれないのよね…
結局はメタハイが資源として使えるのかどうかに注目が集まるわけで。
なんか自分の研究って、社会にとってなんなんだろうって思う今日この頃。

※追記
載ったよー、日経エコロジー2月号。


nice!(0)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 6

ちゃめ

>「海底電気探査」という手法を開発していたとき、…メタハイらしき構造をたまたま見つけただけだ。

 やっぱり、基礎研究って大事だね。
 頑張れー!

 と、真面目な疑問をちょっと…、
 資源としてのメタハイ実用化には、まだまだ道のりが遠いような印象を、今回の投稿から受けたのだけど、自前で供給できるエネルギー源を持つことは、国策上も非常に重要だろうね。
 理想としては、化石燃料や原子力の利用を完全に止めて、エネルギー供給をサスティナブルなソースに限るのがいいと思うけど、再生利用可能なエネルギーで、全てのエネルギー需要を賄えるのは、まだまだ先になりそう。
 メタハイは化石燃料の範疇に入ると思うけど、再生利用可能なエネルギーで、需要が賄えるようになるまでは、とても有望なエネルギー資源になると思うなぁ。
 でも、メタハイの実用化がサスティナブル・エナジーの実用化よりも遅かったら、画餅で終わっちゃうけどね。
 このあたり、どうなんだろう?

 とはいえ、自然のメタハイを調査する必要性は、投稿に書かれているとおり、温暖化防止の側面からだけでなく、依然として高いと思うよ。
by ちゃめ (2006-11-22 15:33) 

ほのぼの101

たまたま大学の学園祭での研究室公開へ行くきっかけがありました、そこではメタンハイドレートの効率良い採掘方法を研究していましたよ~。
注:私は理数系ではありません。(^^)
by ほのぼの101 (2006-11-22 23:52) 

MANTA

- >やっぱり、基礎研究って大事だね。
ありがとうございます。そういってくれる人は少ない気がしてます。

>メタハイの実用化がサスティナブル・エナジーの実用化よりも遅かったら、
>画餅で終わっちゃうけどね。
興味深い問題ですね。返事が長くなりましたので、別記事にして見ます。
by MANTA (2006-11-23 20:22) 

MANTA

- メタンハイドレートからメタンガスを回収する方法は研究が急ピッチですすんでるところです > ほのぼの101さん
あっと驚く回収方法もあるかもしれませんね。
by MANTA (2006-11-23 20:25) 

FieryIce

温度圧力がハイドレードの安定領域内だったとしても,周囲がメタンガスに不飽和であれば,ハイドレートは溶解してしまいます.つまり通常の深海底ではいくら圧力が高くても,ハイドレートは不安定です.
by FieryIce (2006-11-26 16:30) 

MANTA

- コメントありがとうございます。
>周囲がメタンガスに不飽和であれば
まさしく、その理由を知りたいわけです。ハイドレート層の上へはメタンガスは供給されにくいのか?それともメタンガスが海底付近で減ってしまう理由があるのか?といったところです。
ところで「FieryIce」って燃える氷なんですね。Cool!
by MANTA (2006-11-26 22:25) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。