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正しい日本の沈め方(完結編) [ 連載 Old..]

前の記事に書いたようにリメイク映画「日本沈没」にでてくる沈没要因では、日本はどうも沈みそうにありません。そこで、科学的に正しい「日本沈没」を考えてみましょう。なお、あくまで科学的なお遊びですので、念のため。あと、説明はまとめてマンガにしましたよ。

今回の記事もネタバレありです

●無理やりマントルに引っ張り込む
(1) まず沈み込む海洋プレートで、日本列島を無理やり引きずり込んで見ましょう。先の記事に書いたように、メタンガスではプレート境界が滑ってしまいます。ならばメタンガスを出す微生物はプレート境界以外にすんでいて、かわりにプレート境界にすむ微生物は岩石と岩石をくっつける接着剤のような成分を出すことにしてみましょう(そういう微生物は現実には発見されてませんけど)。もう、地震もおきないようにがっちりとくっつけます。こうすれば、プレート沈み込みの速度を増しつつ、日本列島を引きずり込むことができるでしょう。
実のところ、現実のプレート境界では、急速なすべり(=地震)がおきやすい場所と、地震ではなくゆっくりすべりがおきやすい場所があるようです(あるいは時として地震になったりゆっくりすべりになる場所もあるみたい)。このプレート境界の強さを決めているのは、境界にサンドイッチされている泥の成分じゃないか?ともいわれていて、泥の成分は微生物と無関係ではないので「微生物が地震の起き方に影響を与えているのではないか?」という過激な説もないことはないのです。

(2) さらに日本海にも「沈み込み」を発生させて見ましょう。沈み込みは海溝(トレンチ)と呼ばれる水深の深い海底で起きていますが、あるときそこでの沈み込みが停止してしまい、近隣の別の場所で沈み込みが始まることがあります。これを「トレンチジャンプ(沈み込み境界移動)」といいます。現実の地球でも、陸地同士がプレート運動で衝突するところでおきたことがあるようです。日本海がユーラシア大陸へ沈み込みを開始したら、日本列島も当然引きずり込まれます。お、なんか沈みそうな気がしてきた。

●日本列島を薄くする
水に浮かぶ氷は厚いほど水面より高くまで顔を出し、薄いほど水面ギリギリにしか浮きません。マントルの上に浮いている軽い日本列島を沈めるには、日本の地殻を薄くすればいいわけです。さてどうやって薄くしましょう。

(3) まず火山の噴火をとめてみましょう。日本列島は雨風で浸食を受けていて削れられています。一方で火山からの噴出物が削られた分を補っているのです。もし火山噴火がとまったら?削られる一方ですね。日本列島は薄くなります。しめしめ。ただ浸食の速度は年間数mmくらいのようですが…

(4) 次に日本列島を横に引き伸ばしてみましょう。引っ張れば地殻は薄くなるはずです。さてどうやって引っ張るか… 簡単なのは「トレンチロールバック(沈み込み境界の後退)」です。これは沈み込む海洋プレートが何かのキッカケで沈み込む場所を後退させる現象です。このため日本列島は海洋プレート側に引っ張られることになります。現実の地球でも、マリアナ諸島では地殻が引き伸ばされたような地形が見つかっています。時間はかかりますが、ますます沈むセンスです。

●日本列島の「浮力」をなくす
(5) 日本を文字通り沈めるには、日本を重くすればいいのです。先の記事でデラミネーションを紹介しましたが、その元となる重たい地殻を日本列島の深部にたくさん作らせます。これが剥れないようにしておくと(デラミネーションなし)、日本は重くなります。ただし岩石の化学変化の速度は遅いので、日本が重くなるには時間がかかりますが…

さていろいろ考えました。これらを全部おこしてみましょう。


 マウスカーソルを図に合わせると… もうなんかゴチャゴチャだ…

どの現象もめいっぱいがんばって、現象1つあたり、1年に20cmずつ日本を沈めるとしましょう。すると、なんと! 1年に1m沈みました… 40年で40m… こんだけ?

いや、もうひとつありますよ。

(6) 日本列島の軽い成分を急になくしてしまうのです。そうすると日本列島は浮力を失って沈みます。急になくなることが可能な軽い成分として、もっとも適当なのは地下水とマグマです。どちらも地殻の深くまで分布することが地震波や電磁波を使った地下調査である程度予想されています。仮に地殻の10%程度、地下水やマグマが含まれていたとしましょう。そして地殻変動に伴う断層運動や急激な火山噴火のため、地下水やマグマが全部一気に地表に噴出して海に流れていったとしましょう。すると、地殻の厚さは30kmくらいなので、
  30km x 0.1 = 3km = 3000m
くらいへこみます。おお!これで1年で「3000+1m」沈む! 日本沈没!そういえば、2000年の三宅島の噴火の際には直径400-500m、深さ200mほどの大きな陥没ができましたっけ。あながちないとはいえないかも?


 マウスカーソルを図に合わせると、今度こそ沈みます。もう意地です。

などといってますが、結局はまだ見ぬ地下に日本沈没の可能性を押し付けただけです。
・地下水やマグマは地殻の10%もないでしょう。はっきりしませんが1%くらいでしょうか?
・断層でいくら地殻が割れても地下水やマグマが全部でちゃうことはないでしょう。
・仮にでたとしても、流れ出るのに時間はかかります。1年では無理でしょう。
・沈没以前に、これだけ噴火や地震がおきたら日本中の街も野も川も山もメチャクチャです。日本、かるく全滅です。それでけではありません。地震で起きる大津波は太平洋の街々をことごとく飲み込むでしょうし、火山灰は太陽を覆い隠し地球の寒冷化を引き起こします。これじゃ、世界沈没ですね。

まあお遊びはここまで。いたずらに日本沈没の不安をあおることはこれくらいでやめましょう。

ただし地震や火山の活動と地下水が深く関係していることは事実です。例えば、1965~70年の松代群発地震では、群発地震の最後に大量の地下水が地表に噴いています。群発地震と地下水の関係を予想させる事件でした。また阪神淡路大震災の際も、地震の前後で地下水の湧出量や成分が変化したことが知られていますし、高知沖で発生する南海地震のあとは、道後温泉の湯量が減りました。地震や火山と地下水の関係は、近年のテクノロジーで解明されつつあるところです。私もがんばっております。

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おまけ:当ブログでもしばしば取り上げさせていただいております松浦晋也氏が、共著で「日本沈没」に関する本を出版されました。まだ読めておりませんが、日本を沈没させる方法も載っているようです。興味津々。
http://smatsu.air-nifty.com/lbyd/2006/07/715_84ff.html

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mitsuto1976

今夜も笑わせて頂きましたw
日本を沈めるのも一苦労ですね。
映画みたいに一気呵成に轟沈できりゃ苦労はないな(?)。

MANTAさんの一連の「正しい日本の沈め方」の説明を見ていたら、
映画の前作「日本沈没」で、ニュートンの竹内先生がコンニャクを使ってプレートの沈み込みの説明をする名シーンを思い出しました。
楽しい解説ありがとうございました!
by mitsuto1976 (2006-07-28 00:29) 

HOKUTEN

日本沈没ネタとは別ですが、最後の地下水と地震の関係。聞きかじりですが、一部研究から「地下・水蒸気爆発要因説」なるものを聞いたような・・・。
まぁ、地球がくしゃみをしなければ、想像外の事は起きないという事ですね。
で、「日本沈没」ではなくて、「日本浮上」はどうなんでしょう・・・?
ま、これまでのを読んでいると、無理そうですね・・・。
by HOKUTEN (2006-07-28 03:56) 

MANTA

- 一気呵成は無理そうですね > mitsuto1976さん
あと今回の映画に本物の「先生」も一人くらいでてもらって、演技ではなく、素で日本沈没を語ってほしかったですね。

テレマーカーさん、地球がくしゃみ、とはうまい表現ですね。地震も火山もハリケーンも大雨も地球のくしゃみですもんね。でも日本人にとっては甚大な被害です。自然には勝てません…
水蒸気爆発説と日本浮上は別記事でお答えしますね。
by MANTA (2006-07-28 07:44) 

ちゃめ

 一生懸命、日本を沈めてるね(笑)。
 テクトニクスで沈めるよりも、海水面上昇で沈めた方が、簡単そうだね。
 現実の、差し迫った脅威でもあるし。
 大陸氷河も、南極の氷も溶けまくっているそうだし、昨年、ヨーロッパを襲った異常な寒波(日本もだね)や、北極の氷冠の縮小など、海水面上昇の要素は揃いつつあるように思えるが、如何なものかな?
 海水温が上昇すると、海水自体の体積も増して、より海水面が上昇すると、聞いたことがあるのだが、これは本当かな?
by ちゃめ (2006-07-28 11:42) 

MANTA

- ええ、沈めましたとも(笑) > ちゃめさん
温暖化では日本は沈まないし、仮に沈んだとしても日本以外も沈んじゃいますよ。モルジブとか。詳しいお答えは別記事でおこないまーす。
by MANTA (2006-07-29 09:33) 

かっぱ

JAMSTECが協力してるからには、ある程度は(←ここがポイント?)、科学的に正しいんですよね?
 監修は、東大地震研(ってありましたっけ?)ですか?科学者として、こういうの相談されるのイヤだと思うなー。おかしいと知りつつ、フィクションだし・・・どこまで許容するか難しいですよねー
by かっぱ (2006-07-29 15:45) 

MANTA

- JAMSTECと東京大学地震研究所の合計4名の先生が監修しております。
> かっぱさん
こういうの相談されるのは、きっと、大賛成だと思いますよ。だってあまりにも酷い設定だと、地震関係者としては勘違いを修正するほうが多大な労力を使いますからね。ちょうど監修の感想を述べられている先生がおられますので、私の感想とあわせて次の記事でご紹介しますね。
さて、そろそろ沈没ネタもおしまいにしよっかな?
by MANTA (2006-07-30 11:53) 

しげのん

おくればせながら
お勉強になります~!日本浮上。。。興味深々。
by しげのん (2006-07-31 00:54) 

MANTA

- ふふふ、実は浮きつつあるのです。いまこのときも。
by MANTA (2006-07-31 12:19) 

猫の手屋

はじめまして♪ コメント有難うございました~。
正しい日本沈没&浮上(笑) 面白いです~~~♪
実際に研究している方があの映画を見ると、人ごとではなく真剣に考えてしまうでしょうね~・・・。(私達からすればタダの娯楽モノなんですけど) 
でも、沈没までいかなくとも大地震はありえるだろうから
研究・・・頑張ってくださいっ!!!
by 猫の手屋 (2006-08-02 18:45) 

MANTA

- こちらこそコメントありがとうございます。いろいろグダグダ書いていますが、研究者はこれが「娯楽」だったりします。われながらマニアだ。
大地震はありえます。皆さん、背の高い家具の横で就寝されないようにご注意ください!
by MANTA (2006-08-03 20:17) 

Escher

「日本沈没 第二部」によれば、日本沈没のメカニズムはコールドプルーム
現象によるマントル密度低下によって、日本列島の浮力が低下した事によ
る沈下のようです。
by Escher (2006-08-07 17:41) 

ちゃめ

>詳しいお答えは別記事でおこないまーす。
 待たせるねぇ(笑)。
 突っ込んでやろうと、牙を研いでいるんだけど(大笑)。
by ちゃめ (2006-08-07 23:24) 

MANTA

- マントル密度低下!やるなぁ~ > 小松先生
上記の(5)や(6)に相当しますね。ただしマントルの構成物質を変えるのはそんなに短期間では無理でしょうね。100万年どころかもっとかかりそうではあります。情報ありがとうございます > Escher

ちゃめさん、お待たせいたしております。意外にちゃんと?調べてますので時間がかかるのですよ。まあ、次の次の記事くらいにアップします!
by MANTA (2006-08-08 08:23) 

hirasawa

あのー、多分地表をどんなに重くしても一年に10センチ程度しか沈まないと思いますよ。マントルの主成分は橄欖岩、マグマのようにどろどろのものではありません。岩石の中に急速に沈むのは無理です。氷河期が終わって、氷が溶けて陸上が軽くなって浮上が始まった場所がありますが、未だに年に一センチづつ浮上中だそうです。
やっぱり、逆に日本海溝の東を浮上させて裏日本浮上とかのほうが現実的? 日本海溝に落ち込む太平洋プレートが割れて逆に上に押し出される。その際に多くのひび割れが起きて、その間にマグマが湧き上がり、マグマがひび割れた太平洋プレートを押し上げるとか。陸地は噴火とかで簡単にできますからね。
by hirasawa (2007-11-15 22:40) 

MANTA

- 船に乗ってましたのでお返事が遅くなりました!
hirasawasaさん、コメントありがとうございます。
えーーっと、おっしゃるとおりです!
同じことをこの前後の記事にも書きまくってしまいました。
よろしければまたご覧下さい。
○カテゴリーの紹介 > 日本沈没
 http://blog.so-net.ne.jp/goto33/archive/c20356469
by MANTA (2007-11-30 19:21) 

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