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映画「魔笛」ケネス・ブラナー監督 [映画]

なんだか期待はずれだった「ヘンリー五世」以来、今までにいくつか見た同監督の映画のなかでは、一番おもしろかったかも・・ どうもこの監督とは相性が悪いみたいなので、かなりためらったんですけど、なんと言っても「魔笛」ですから・・というわけで、帰り道にちょっと寄れる映画館で上映中だし、行ってきました。

男優陣は、やっぱりね、いかにも英米人という感じの優男コンビ(タミーノとパパゲーノのことです)で、それなりに悪くないけど、心は動かず。かたや、夜の女王とパミーナはとても好みでした。全然可愛い感じではないパミーナですが、特に雨の中、ずぶぬれで、タミーノに無視されて嘆き悲しむ姿や、短剣を手に自殺を思う場面が魅力的で、引きつけられてしまいました。その構図が美しかった・・

夜の女王は、戦車に乗っての登場、憎い夫、つまりザラストロですわね、に対する復讐心の塊、娘にザラストロを殺せと鬼の形相で迫る、すさまじい我が子虐待ぶり、城壁をよじのぼった窓からザラストロを認めたときの表情、彼の差し出す手を一瞬握ったかと思いきや拒否して暗闇に落ちて行く表情、よかったです。この時のザラストロの表情も、一瞬、昔に戻って心が通い合ったかに思えたのに、拒否された虚しさと悲しみ・・。パパゲーノや可愛いパパゲーナの場面は、モンティパイソン風のおふざけが楽しい。CG駆使の映像は気をそらしません。

退屈になりがちなザラストロの演説がこの映画の中心的主張を伝える場面になっていて、不覚にも自ずと目頭が熱くなってしまいました。心底まじめに平和の尊さを主張しつつ、一瞬というか、時にやはり怪しげなカルト集団か全体主義国家称揚かと疑い深くなりそうなところを、なんとか踏みこたえて、最終的にはファンタジーでまとめたというところ。

主役は間違いなくモーツァルトの音楽でしょうが、歌詞が英語というのは、まあ監督がイギリス人だし、英語族の傲慢さだわ〜〜まるで自分の国の文化みたいな顔して!なんて内心少々憤慨しながら・・というところでしたが、鑑賞しつつ思ったことは、これは英語である必然性というか、英語だからこそという映画なんじゃないかと・・つまり、魔笛の歌詞についてそう詳しいわけではないのですが、今まで数多くの字幕を読み、なんとなくドイツ語歌詞で意味を認識しているのと、かなりの部分で違う内容になっているのではないかと・・・ドイツ語だったら、こうは替え歌にできないだろうと・・台詞はもちろんですが、歌詞が映像と合っているところに相当意味があるのであって、この映画のおもしろさも感動する場面もそれによるところ大だと思ったわけです。で、私が気にすることもないけど、ドイツ語圏での上映はどうするんでしょ??

上映時間2時間強ですから、カットされた歌もあったと思いますが、気になりませんでした。弁者=ザラストロということになっていましたが、これはこれで違和感ありませんでした。エンド・クレジットの間に再び序曲を流したのは蛇足でした。静かに余韻にひたりたいところなのに・・とんだおじゃま虫でした。

他にもつっこみたくなる部分も少なくないのですが、ひねくれた気持ちはとりあえずひっこめ、悲惨な戦争を生む復讐心を廃し(排し...かなぁ...)、許し合って、素直に平和を希求する世界の実現を望むべきだというのが結論・・・というところで、おもしろい魔笛がひとつ加わりました。

サウンドトラック発売中ですけど、これを音だけで、というのはどんなものでしょうか。
映画「魔笛」オリジナル・サウンドトラック映画「魔笛」オリジナル・サウンドトラック
ジェイムズ・コンロン指揮、ヨーロッパ室内管弦楽団
夜の女王:リューボフ・ペドロヴァ
パミーナ:エイミー・カーソン
ザラストロ:ルネ・パーペ
タミーノ:ジョセフ・カイザー
パパゲーノ:ベン・ディヴィス
パパゲーナ:シルヴィア・モイ
モノスタトス:トム・ランドル


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TARO

仙台でも東京より1週間遅れで上映が始まりました。
今週中には見に行きたいなと思ってるんですが。

>悲惨な戦争を生む復讐心を廃し、許し合って、素直に平和を希求する世界の実現を望むべきだというのが結論・・・

そういうテーマなんですね。第1次世界大戦が舞台というのは聞いてましたが、なるほどですね。
by TARO (2007-07-24 00:17) 

Cecilia

こちらでは28日からなので、なるべくすぐに観たいと思っています。
euridiceさんの詳しい感想、楽しませていただきました。
さんざん聴いていくつかのアリア、重唱を経験している私ですが、映画を観に行くにあたりあらためて、いろいろなCDを聴いてみて予習しようと思っています。
歌詞の内容が違っているところがあるのですね?
私が今まで観たものでも台本と違う台詞(歌詞はそのまま)・・・ということはよくありましたが・・・。
NAXOS MUSIC LIBRARYでChandosレーベルの英語版が聴けるのでそれを聴いてみる予定です。

日本語で歌ったこともあるのですが、歌いにくかったです。
by Cecilia (2007-07-24 07:46) 

euridice

全くのがらがら状態でしたから、早めに行ったほうがいいかもしれません・・
以前、「生きる」っていう映画だったかしら、チケットをもらったので、行ったら予定より早く終了とかで、上映館求めて幾千里状態になったことがあります^^;
まあなんといってもモーツァルトだし、ケネス・ブラナーだから、そんなことにはならないでしょうけど?

>歌詞の内容が違っている
たぶんそうです。字幕だけスクリーンに合わせたなんてことはないと思います・・・
by euridice (2007-07-24 08:09) 

euridice

>第1次世界大戦
まあ、歴史的にそう厳密に特定する必要はないように思います。まあ、現代とそれほどかけはなれず、近すぎずの人類が未だ超えられない状況というか・・
by euridice (2007-07-24 08:15) 

keyaki

>全くのがらがら状態
やっぱり、知名度のある歌手を使ってないせいかしらね。

魔笛は、トスカン氏(オペラ映画のプロデューサーとして有名)が、2003年には、ナタリー・ドゥセの二役で、コリーヌ・セロー監督で「魔笛」をとります、と言っていたのに、トスカン氏の急死で実現しなかったですね。私もナタリー・ドゥセの二役、見たかったです。

>>歌詞の内容が違っている
これって、読み替え演出のときは、どうしても違和感があって、変なんだけど、さすがにオペラの演出家が、歌詞まで変える権限は無いらしくて、変なままになってますよね。それを、英語にすることで、ついでに変えちゃったというわけですね。それなら、モーツァルトにも失礼じゃないってことなのかな、ふーん....
by keyaki (2007-07-24 09:53) 

OGASHI

euridece様
魔笛楽しまれて良かったです。

>がらがらでした
私が見たときには、席が満席でした(夏休みに入ったのにガラガラなんて残念)

今回の魔笛、ザラストロを演じた「ルネ・パーペ」個人的にも感動しちゃいました。
パンフレットにこれといった「ザラストロ」の写真が無かったので私のブログには張りませんでした^^;

久々ですがTBさせて頂きました。
これからもよろしくお願いいたします。
by OGASHI (2007-07-24 20:00) 

euridice

OGASHIさんの記事のお陰で、即、行く気になりました。
ありがとうございます。TBも。こちらこそよろしくお願いします。

>私が見たときには、席が満席でした
そうですか。曜日と時間帯のせいかもしれませんね。

>「ザラストロ」の写真
軍服姿で白馬にまたがっているところなどがあれば、いいと思いますが・・

素のルネ・パーペそのままという感じだったのはちょっとどうかなとは思いますけど、それにもかかわらず、あの人物の不可解さというか、一歩間違えば・・・の危うさみたいなものが伝わってきました。
by euridice (2007-07-24 20:52) 

Esclarmonde

今日地元のシネコンで観てきました.
英語訳はスティーブン・フライですし,耳で聞いたところでは(実際は夜の女王の歌詞しか知らないけど)まともな英訳でした.
by Esclarmonde (2007-07-24 22:14) 

Sardanapalus

わが田舎町では8月後半公開なので、まだまだ我慢…でも、必ず見に行きますよ!!何てったって「魔笛」だし♪個人的にはスティーブン・フライの英語訳も気になります。

しかし、なにより楽しみなのは
>モンティパイソン風のおふざけ
だったりします(^_^;)

>ドイツ語圏での上映
ミュージカル映画でもドイツ語吹替での公開が普通だそうですから、おそらくこれも吹替になるのではないでしょうか。歌手とか歌詞とかどうするんでしょうね?
by Sardanapalus (2007-07-24 23:09) 

euridice

Esclarmondeさん
>英語
時代設定変更だと、見えるものと歌詞のずれが相当あるものですが、字幕では、ほとんどなかったと思います。多少のは比喩表現と思えば納得できる範囲でした。耳に止まった範囲の英語も、気になるところはなかったです。

でも、歌詞はオペラの歌詞のままで、映像があってないところが各所にあり、腹が立ったという感想も目にしましたので、あれれ?です。

ブログの記事、拝見してきました。同感です。
歌手たち、俳優ですと言っても違和感なしのレベルでしたね。
by euridice (2007-07-25 09:07) 

euridice

Sardanapalusさん
>8月後半公開
待ち遠しいですね。
感想、楽しみにしています^^!
by euridice (2007-07-25 09:10) 

ななこ

この映画のHPでちょっと聴いてみました。
馴染んだオペラと映画の場面がイメージとしてどうつながって心に響いてくるか興味持ったので来週観る予定です。
敢えてオペラに関心のない友人を誘いました。
私も楽しみですが、友人の感想も楽しみです^^
by ななこ (2007-07-28 10:30) 

euridice

ななこさん
感想、楽しみです^^!
by euridice (2007-07-28 22:39) 

Cecilia

昨日観てきました!
エンドクレジットに序曲・・・は残念でした。
あの夜の女王(家族も気に入っていました。)はザラストロに利用された(と思っている)過去があるのでしょうか?
気になります。
by Cecilia (2007-07-29 10:14) 

Cecilia

あくまでもこの映画でですが・・・
ザラストロが夫・・・という解釈なのでしょうか?
試練の前のところでパミーナが父親が笛を作ったことに触れている場面が印象的でしたが(今まではあまり深く考えていませんでしたが・・・)、この映画ではザラストロは夫とは言えないような気がします。(もちろんそのような解釈があることも知っています。)
しかし上のコメントで書いたように、2人には何かがあった・・・という気がします。
by Cecilia (2007-07-29 10:47) 

euridice

Cecilia さん、いらしたんですね!

>パミーナが父親が笛を作った
この経緯を話す部分の歌、けっこう好きです。で、映画ではどうなっているか注意していました。映画では笛をつくる男の人が見えますが、直感的にザラストロだって思ってしまいました。ザラストロ、夜の女王、パミーナの関係ははっきりとは示されていませんが、これも直感ですが、幸せな家族だったことがあるんだと感じました・・・
by euridice (2007-07-29 23:06) 

YASU47

edcさん、
僕も観てきました。「魔笛」だからこそ許される自由な発想には大いに好感が持てました。この作品は、舞台であれ、映画であれ、細かいことは気にせずに楽しむが勝ちですね。
TBさせていただきました(ん?届かない?)。
by YASU47 (2007-07-31 22:26) 

euridice

YASU47さん
TB、よろしければ、もう一度試してみてください。
お宅のほうにおじゃまさせていただきました。
by euridice (2007-08-01 07:09) 

TARO

見てきました。記事にしたので(半分ですが)TBさせていただきました。

ラスト近くの金の像と、その直後のザラストロの表情。
オペラの中で夜の女王が善から悪にコロッとひっくり返るように、民衆の中に入り平和を求める指導者も、戦いが済むと全体主義的リーダーに変貌していくのはあまりにも簡単だ――というブラナーのシニカルな意図が印象に残りました。
by TARO (2007-08-02 03:09) 

euridice

TAROさん
>ラスト近くの金の像と、その直後のザラストロの表情。
ぞ〜〜、やっぱり・・ ザラストロ、お前もか!でした。
一瞬某国指導者の銅像に見えましたし。
by euridice (2007-08-02 07:20) 

ななこ

夜の女王とザラストロが強烈でした。
夜の女王最初のアリアの巨大な口が象徴的で単細胞の愚かさをイメージしてしまいました。
ザラストロはパペそのもののような朗々たる聖者風の歌いっぷりに思わず「ご立派!」と思いかけましたが、粛々と動き回る人々の姿に野戦病院でもなくここは一体何をしてるところなの?と疑問を持ったら急に怖くなりました。
ユートピア?
カルト集団?
全体主義国家をもくろむXX?
落ちていく夜の女王が哀れになりました。
最後の序曲はなんなのでしょうね?
by ななこ (2007-08-02 18:17) 

euridice

ななこさん
>巨大な口
まあ、もの凄いどアップでしたね。
かき口説く女のすさまじさ〜〜かなぁなんて思ったり・・

>思わず「ご立派!」と思いかけました
だまされちゃうんですよねぇ・・大概の人が、きっと。
そして、時すでに遅しになる。

とりあえず野戦病院だと思いましたが、
怪しいと言えば怪しいし、単純に野戦病院だとしても
そこでかいがいしく尊敬を集める存在ってのはやっぱり
うさんくさい・・後の軍服に白馬騎乗ではっきりしますけど、
目下の戦争の推進責任者であることも間違いなさそうですから。

>最後の序曲
純粋に音楽鑑賞を!のサービスのつもりかしらねぇ・・
余計なおまけ^^?!
by euridice (2007-08-02 20:33) 

TARO

>最後の序曲

単純にエンド・クレジットに流す音楽が欲しかっただけだとは思いますが、深読みすれば「振り出しに戻る」的な意味を込めたとも。
by TARO (2007-08-05 12:39) 

euridice

>「振り出しに戻る」的な意味
そういうことなんでしょうけど・・

>エンド・クレジットに流す音楽
これってやっぱり不可欠なんでしょうか?
by euridice (2007-08-06 08:54) 

TARO

>これってやっぱり不可欠なんでしょうか?

映画館ではいらないんですが、TV放映を考えると欲しい感じはしますね。
通常の番組で5秒音声がないと、事故扱いになることもあるので。
by TARO (2007-08-06 23:53) 

keyaki

最後の序曲ですかぁ.....
ちなみにロージー監督のドン・ジョヴァンニは、波の音
ロージ監督のカルメンは、ハバネラ
by keyaki (2007-08-07 00:35) 

euridice

>ちなみに
それぞれ余韻に浸るのに、ぴったりな感じがしましたねぇ・・まあ、映画館で見てないので同列には比べられないと思いますが。
by euridice (2007-08-07 07:49) 

euridice

TAROさん、ありがとうございます。
>TV放映を考えると
なるほど。
映画では長いエンドクレジットの間、
無音というのもあるように思いますけど・・?
by euridice (2007-08-07 07:51) 

TARO

ベルイマンの映画などオープニングから、無音かかすかなノイズだけで、延々字幕が続くというのが多いですが、TV用に作られた「サラバンド」では、テロップだけの映像には全て音楽(バッハ)がついてました。

>映画では長いエンドクレジットの間、無音

映画でエンド・クレジットが無音の場合、テレビ放映ではカットされる確立が高いんじゃないかと思います。無論NHK-BSなどは別ですが。
監督の音に対するこだわりとか(>無音)、スタッフの名前をテレビ放映でもちゃんと出したいというこだわりとか(音楽付き)、いろいろ製作者サイドの思い入れがあるのかもしれません。
by TARO (2007-08-12 01:49) 

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