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ある女性評論家のホフマン@ローエングリン論あるいは讃(2) [PH]

この夏、1982年バイロイト音楽祭の「ローエングリン」がDVDで発売される予定です。興味のある方は、こちらへどうぞ..... 関連記事
また、すでに内外のDVDが出ている1986年メトロポリタン歌劇場のものも、こちらは日本語字幕無しですが、ドイツ・グラモフォンから再発売予定だそうです。こちらをご覧下さい。

さて、マリア女史のホフマン@ローエングリン論あるいは讃、第一幕です。


 たくさんある声だけの記録に合わせて、二つの映像を研究すれば、彼の演劇的な考えの発展経過がわかる。ホフマンの演奏は、1979年のバイロイト・デビュー以来、視覚的にも成長している。詩情あふれる美しさと器量の大きさが増している。 1980年バイロイトの白鳥の騎士は、最近のものに比べて、より厳しく、より怒りっぽく、激しい。その後、より円熟した優しさと底流にあるより大きな苦しみに満たされるようになった。それに、彼の成熟した声の芸術性がスコアの中により繊細なニュアンスを見出すようになった。さらには、微妙な強弱感に加えて、ホフマンは神話が人間の姿をとった息をのむほどにロマンチックな人物を完璧な状態に仕上げて見せた。あらゆる意味で、ペーター・ホフマンが描き出すローエングリン像は、神とみまごうばかりだ。


 声楽的にも演劇的にも、ホフマンは題材を完璧にコントロールしている。彼は、この役を自信たっぷりに演じるが、これがローエングリンに不可欠である畏敬の念を、納得ずくで、生じさせる。歌う役者としての彼の集中振りは、これは常に傑出しているが、ローエングリンでは特に顕著である。その独唱は、全体に対しては非常に個性的な主張となり、二重唱は真の対話になる。その動作には無駄がなく、大げさに動くことがないにも関わらず、その動作の意味が、力強くはっきりと伝わってくる。特に、そのほっそりとして表現力豊な手を用いて、多くを伝える。彼は、冷たく抑制的であると同時に激しく情熱的なオーラを強烈に放つ。彼が放つ純潔さと官能性が、彼の白鳥の騎士を卓越したレベルにまで高めている。


きらきら光る白い鎧を身にけた、その輝くばかりの登場の瞬間から、おとぎ話が現実となって、目の前に出現する。舞台奥で、Nun sei bedankと、白鳥への別れを告げるとき、その柔らかい黄金の輝きに満たされた声は、完全に劇場中へと伝わっていく。音色は、純粋で、節度が保たれ、抒情的であり、磨かれた金属のような鋭さに彩られている。粗さはなく、充実している。哀愁があり、優雅である。

この異世界からの訪問者はゆっくりと向きを変え、まるである種、神がかった恍惚状態で、この世における自らの道を探るかのように、魔法にかけられたように、ほんのしばらくじっとたたずむ。それから、彼は勇気をふるって、エルザを探し求める。 (演出によって、目だけで求めたり、あるいは、直接彼女のそばに行く) そして、最後に国王ハインリッヒに向き直り、著しく注意をひく声で、あいさつする。

彼の全体的な物腰こそは、貴族的崇高さの典型を示している。すらりとした直立の美しい立ち姿、誇り高く、穏やかで優しく、好戦的なところはなく、内面的な輝きがあふれている。テルラムントに対する挑戦には敵対心はまったく見られない。それは、敵対心ではなく、無実の罪を着せられた乙女を守るという、彼の使命を誠実に表明するものだ。ホフマンはここで無私無欲のローエングリンを描き出す。

実際のところ、彼のエルザに対する態度には気後れさえ見られる。より深い愛の源泉の存在を示しつつ、情熱の目覚めを感じつつ、二人は控えめに視線を合わせる。穏やかに優しく、しかし、断固とした調子で、Nie sollst du mich befragen. . . .(決して尋ねてはならぬ・・・)という言葉を彼は発する。命令を繰り返すとき、声はより強く響き、目には神秘的な炎が燃えている。エルザが、命令に従うことを誓うと、ホフマンの顔には言いようのない喜びの表情がひろがる。敬虔で冷たい輝きが緩んで、太陽の光のような人間的な暖かさがのぞく。彼は、Elsa, ich liebe dich(エルザ、私はあなたを愛す)と、柔らかく、愛撫するかのように歌う。その優しい弱声、メッツァ・ヴォーチェは、彼が感じている幸福を示す。

テルラムントとの闘いは、写実的な場合も、様式化されている場合も、英雄的に鳴り響く勝利宣言Um Gottes Sieg(神の勝利によって)は、常に威厳を失わない。テルラムントを許すところから、一幕終了の合唱を通じて、ホフマンは二つの世界に立つことになった英雄の気持ちを伝える。彼を導く神の助けを賛美し、その一点を見つめる眼差しは、この世の混沌とテルラムント一味の嘆きではなく、彼方にある聖杯の王国を見ているのだと感じさせられる。それでも、愛情に満ちた人間的な関わりのはじまりを示す甘いおののきも味わっている。一幕の終わりまでに、ホフマンのローエングリンは、彼がブラバントに来ることになった奇跡を達成し、エルザを守ることに成功するが、彼もまた奇跡の体験者となる。すなわち、彼自身が人間性を獲得するきっかけを与えられることになる。 (つづく)


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