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歌手の声楽個人授業初日 軽いものとは? [PH]

今までにもいくつか、載せましたが、歌手の伝記から、ちょっとおもしろいかな? のエピソードを拾ってみます。
少年合唱団出身とか、早くから専門的な音楽教育を受けた歌手が多いと思いますが、この歌手は・・・

ペーター・ホフマンの学校時代の同級生だった妻アンネカトリンの両親はオペラ歌手でした。彼の「声」に感心した両親は、娘婿に声楽の勉強をするように勧め、当時大学教授をしていた義父は、良い教師はいないかと、熟考した末、娘婿の駐屯地に近いカールスルーエ歌劇場の女声歌手を選びます。国防軍兵士だった21歳のホフマンは、義父の紹介状を持って、歌劇場の公演終了後に、「持てる勇気の全てを奮い起こして」その女声歌手を訪問します。彼女自身は教えていなかったので、知り合いの声楽教師エミー・ザイバーリッヒを紹介されます。最初の日には、その女声歌手が同行してくれたそうです。

ザイバーリッヒ先生「何はともあれ、一度何か少し音を聞いてみなくては。それで、何を歌いたいですか」

ホフマン「オランダ人」

ザイバーリッヒ先生とその女声歌手はあきれて、「まあ、なんてことかしら。もう少し軽いのはできないかしら」

それでも、とにかく『期限は切れた。幾度目かの7年がまた過ぎ去った・・・』と、大声で力任せに歌ったところ

ザイバーリッヒ先生「そんなに大きな声で歌わなくてもいいです」

ホフマン「大きな声で歌ったらよくないのですか」

ザイバーリッヒ先生は、笑って「いいえ、悪くはないですが、声を永久にだめにしてしまいますよ」

彼は「軽いとか重いとかの知識もなければ、専門用語についても何も知らなかった」のです。

先生がもっと聴きたがったので、「闘牛士の歌もできます」と言うと、また、なんてことを!とあきれられたので、「じゃあ、鏡の歌はどうですか」と提案したそうです。

先生はパパゲーノを聞きたがったけど、これは知らなくて歌えなかったので、結局、「闘牛士の歌」を歌います。

オペラに興味を持ってから、レコードでいろいろなアリアを聴いたのですが、この歌に、非常に強烈な印象を受け、大好きだったそうです。

とにかく最初の日には、感情を込めて力強く歌ってきかせたら、というよりわめいてきかせたら、そのとき、窓ガラスがびりびりと震えたのに、彼女はびっくりして、「これは見込みがあるわ」と思ったのでした。

ホフマンは先生に率直に質問。「私の歌をきいて、専門教育を受ける意味があると思われますか。歌でやっていけるでしょうか。私には家族があって、稼がなければならないのです」

(もうすぐ二男が生まれるところだったそうです)

 ザイバーリッヒ先生は、保証はないわ...と言いながらも、もしやってみないとしたら、それは残念なことだ、と付け加えます。

「この瞬間、自信がわいて、思いきってやろうと決心した」そうです。先生はその後長い間ただで教えてくれたということです。

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不必要かもしれない註:
オランダ人:ワーグナー作曲「さまよえるオランダ人」の題名役(バリトン)の歌
闘牛士の歌:ビゼー作曲「カルメン」に登場する闘牛士エスカミーリョ(バリトン)の有名な歌
鏡の歌:オッフェンバック作曲「ホフマン物語」の悪漢四役が、娼婦ジュリエッタの巻で歌う。これもバリトンの歌
パパゲーノ:モーツァルト作曲「魔笛」の愉快な鳥刺し男パパゲーノ(バリトン)

全部、バリトンの歌であることに注目!


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コメント 2

YUKI

ホフマンの声楽のレッスンを始めたエピソード、素敵ですねぇ。(^_^)
奥様のご両親の計らいで声楽の勉強を始めた・・・って言うのは理想的だなぁって感じました。

ホフマンの先生が仰っている「大きな声で歌わなくてもいいです」「声を永久にだめにしてしまいますよ」って事は私の声楽の先生も良く仰っていますねぇ。(^o^)
by YUKI (2005-07-21 10:32) 

euridice

YUKIさん
声って育てるものなんだって、こういう伝記とか読むまで、知りませんでした。歌手じゃなくても、きれいに上手に発声することって必要だと思いますが、普通の学校では教えてくれませんね。
by euridice (2005-07-24 19:52) 

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