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善き人のためのソナタ (2006) Germany <Das Leben Der Anderen> [film reviews]

   この作品を観た帰りにある懐かしい人とバッタリ会ったため、忘れかけていました。近年になってドイツは、過去を振り返る(秀)作をよく作るようになりました。04年の『ヒトラー~最期の12日間~』、05年の『白バラの祈り』といったナチ関連が続いた後、旧東ドイツの秘密警察、"シュタージ" の映画が公開されました。上記二作のような、実話ベースのストーリーじゃないけれど。

 

   壁崩壊前の東ベルリン、シュタージュ局員のヴィスラーは、国家に忠実な優秀な局員だったが、反体制の疑いのある芸術家、 ドライマンの盗聴をおこなううちに、文学、音楽の語り合い、女優との魂の共鳴しあう恋愛といったものを知り、少しずつ傾倒していくことに。ベースとなったリサーチの堅実さから"シュタージ" の真実が明らかになっています。

   説得力のある作品とは、ストーリーの確かさはもちろんのこと、時代背景に沿ったセットや雰囲気がきちんともちいられることは重要です。今は博物館となっている旧シュタージ本部がつかわれていたり、寒色系の旧東の静寂、おいてある家具を一瞥すれば人となりが伺い知れるヴィスラーの部屋、そして壁崩壊後に生まれる自由な落書きは、その頃の旧東を、たった2時間ちょっとの間に表現しきるのに大きな役割を担っていました。

【以下、少々ネタバレあり】

 

 

作品の中の核となる人物達の役割分担もはっきりしていて、体制図式も読みとり易い。盗聴していくうちに、芸術家に心酔しはじめるシュタージ局員ヴィスラー、国家に反抗する気質を次第に持つようになる芸術家ドライマン、権力を傘に気に入った女優を欲しいがままにしようとする大臣、とその部下となる中間管理職、ドライマンを愛するが権力に飲まれ、密告者ともなってしまう弱さを持つ女優兼彼の恋人---こうやって書くと、ドラマが生まれるいかにもな設定という気も少しするが、実際に東西分裂時代、東ドイツ出身の主役ウルリッヒは女優の妻に協力者としてシュタージに密告され続けていたとか。膨大な資料のリサーチ、各関係者へのインタビューに4年を費やしたという監督が選んだ設定なら、これもまた説得力はあるように思う。

ただ、非常に優秀な"シュタージ"局員だったヴィスラーが、ドライマンに限ってそれ程に心酔する過程の描写は、もっとコチラに伝わるなにか、が良かったんじゃないか。サスペンスタッチになるストーリー展開にはドキドキしたが、何故?という疑問が心の何処かにひっかかったままラストシーンへ向かうことに。ただ、このお互いに出会わなかった二人の絆、報われたヴィスラーの柔和な顔をみて安堵の気持ちを持って劇場を後にしたけれど。

 

Das Leben der anderen. Geschwaerzte Ausgabe.

 

Das Leben der anderen. Geschwaerzte Ausgabe.

  • 作者: Florian Henckel von Donnersmarck
  • 出版社/メーカー: Suhrkamp Verlag KG
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: Perfect

◇監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマスク <Florian Henckel von Donnersmarck> ◇脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマスク <Florian Henckel von Donnersmarck> ◇撮影:ハーゲン・ボグダンスキー <Hagen Bogdanski> ◇編集:パトリシア・ロンメル <Patricia Rommel> ◇音楽:ガブリエル・ヤーレ <Gabriel Yared> ステファン・ムーシャ <Stephane Moucha>◇出演:ウルリッヒ・ミューエ <Ulrich Muhe> マルティナ・ゲデック <Martina Gedeck> セバスチャン・コッホ <Sebastian Koch> ウルリッヒ・トゥクール <Ulrich Tukur>


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コメント 4

berry

ふ〜〜〜ん、思わずこぼれたわたしの肉声です。(笑)
それくらいネタバレに引き込まれました。
知らなかったこと、旧東ドイツの秘密警察、"シュタージ" 。不覚です。笑
<時代背景に沿ったセットや雰囲気がきちんともちいられる . . .>
確かに重要です。それだけで、映画の(上手く言えないけど)完成度がわかりますもん。
実話ではないということですね。でも、<ベースとなったリサーチの堅実さ>は観るに値する作品に仕上がっているのですね。
非常に興味あります。ワクワクしてます。(笑)
by berry (2007-03-13 11:24) 

クリス

berryさん、こんばんは♪
ネタバレ読んじゃいましたかf^-^; ネタをバラさずに書けない作品でしたー。
シュタージのやり方は、何処かナチを連想させるものがあり、陰湿さにおいては勝ってるともいえそうです。ドイツはドイツ人気質が良く表れた、手堅い作品を作ってますね。
by クリス (2007-03-13 22:52) 

ジジョ

こんにちは(^-^)
確かにドライマンに心酔する過程が弱い気がしましたネ。
でも、娼婦とのくだりで彼の心の中がかいま見えて、
彼の憧れるものが、ドライマンにはあったんだろうなぁ、、と
思いました。
TBさせていただきますね☆
by ジジョ (2007-03-17 14:37) 

ken

プロダクションデザインは僕も秀逸だと思いました。
特にシュタージの食堂と、ヴィスラーの自宅の簡素な感じは
社会主義国の有様を上手く見せてましたね。
by ken (2008-01-13 12:22) 

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