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佐野真一 旅する巨人~宮本常一と渋沢敬三 [日記(2005)]

旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三

旅する巨人―宮本常一と渋沢敬三

  • 作者: 佐野 真一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1996/11
  • メディア: 単行本


 渋沢という名字からわかるように、敬三は渋沢栄一の孫に当たる。戦争中に日銀総裁、戦後に大蔵大臣をつとめ、KDDI、文化放送の会長を歴任し、1963年67歳で死去している。財界人にして政治家。この渋沢敬三が著作まである民俗学者であり、宮本常一、金田一京助などのパトロンであった。「旅する巨人」は副題とおり、渋沢敬三と宮本常一を軸に昭和の民俗学の勃興を描いたノンフィクションである。
<銀行屋というものは、小学校の先生みたいなものです。いい仕事をしてだんだん成長した姿をみて、うれしく思うというのが、本当の銀行屋だと思いますね。えらくなるのは生徒です。先生じゃない>という言葉は敬三のスタンスを一言で言い表している。敬三は文字通り人間のバンカー、学問のバンカーとして宮本常一をはじめ多くの学者、研究者を世に出し、民俗学を育てた。敬三個人は見事に歴史の後ろに隠れてしまっている。これほどの仕事をした人物とは全く知らなかった。
 宮本常一については、日本全国を旅して廻った常民の記録者として知っていたが、まとまったかたちでその事跡を知ったのははじめてである。
「宮本はよく旅の巨人といわれる。しかし、その大きさは、歩いた距離にあるわけではなかった。宮本の本当の大きさは、歴史というタテ軸と、移動というヨコ軸を交差させながら、この日本列島に生きた人々を深い愛情を持って丸ごととらえようとした、その視点のダイナミズムとスケールにあった。」
 あとがきにあるが、雑誌掲載当時の本書の原題は「三代の過客」であったらしい。宮本常一、渋沢敬三それぞれの祖父、父三代にわたる歴史が今日の民俗学を準備したといえるのでないか。原題のほうが本書にふさわしいと思われる。
 宮本常一については書き足りないと思われる。本書の目玉は「渋沢敬三」かもしれない、宮本常一については著作を読めばよいということかもしれない。「メディアの支配者」「白州次郎」など課題図書は多いが、「阿片王」から「旅する巨人」に行ってしまった。当然次は「忘れられた日本人」となる。
文句なしに★★★★★