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村上春樹 スプートニクの恋人 [日記(2008)]


スプートニクの恋人 (講談社文庫)

スプートニクの恋人 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/04
  • メディア: ペーパーバック


 久々の村上春樹です。文庫本になっているものは短編を除いてあらかた読みました。やっぱり村上春樹、何処を切っても私には村上春樹。あいかわらず音楽(今回はクラシックで「ホロヴィッツのモノラル録音のショパンは・・・」とくる)車(ジャガーだ)ワイン、小説(当然海外もの)や映画の気の利いたフレーズが小道具として登場します。おまけに、結婚を控えた年上の女性との旅先での『カラフルな事件』まで聞かされます。

 『22歳の春にすみれは生まれて初めて恋に落ちた・・・恋に落ちた相手はすみれより17歳年上で、結婚していた。』

 この出だしは小説としてはなかなかですね。
おいおい22歳の初恋が同性かよ、とつい引き込まれます。小学校の教師の「ぼく」と小説家になるため大学を中退した「すみれ」の『スプートニク』ならぬプラトニックな恋いを描いた中編です。どちらかと云うと、ぼくとすみれと(22+17=)39歳の女性実業家「ミュウ」の三角関係です。物語の語り手の「ぼく」と、「ぼく」と同世代の一風変わった女性、そして「ぼく」より1世代異なる魅力的な年上の女性、これは作者のお好みの設定です。さらに猫と『異界』とくればこれはもう村上春樹の世界です。
 前半では、ぼくとすみれとミュウの関係が語られます。これは後半のハルキ世界への導入部で、音楽や料理や車、ファッションが何時ものように小道具として散りばめられます。今回はギリシャの小さな島が舞台となります。この島ですみれが『煙のように消えて』しまうところからストーリーは本題に入ります(ロバート・ゴダードかよと云いたくなりますが)。すみれは何処へ消えたのか?
 『スプートニク』はご存じのように初めて地球を廻ったソ連の人工衛星で、ロシア語では『旅の連れ』という意味だそうです。漆黒の闇の中を、ただひとり蒼い地球の周りを廻り続ける『スプートニク』、これが本書のイメージです。すみれもミュウもぼくも、この『スプートニク』なのかどうか。人工衛星となって地球の周りを廻り、人間の営みを宇宙から見続ける孤独な人工衛星のイメージです。これは、ミュウが閉じこめられた観覧車(観覧車は同じ軌跡で『廻り』ます)から双眼鏡で自分の部屋を見、部屋にいるもう一人の自分を発見するエピソードですね。

 本書で村上春樹の描く『異界』は、『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』で羊男が住む世界(ドルフィン・ホテルの闇)、『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の地底世界やワンダーランド、『ネジマキ鳥クロニクル』の井戸などと比べると、冷え冷えとしているように思います。最後の方に登場する小学4年生の『にんじん』のかたくなさ、紺色のジャガーを運転するミュウの姿がそれを象徴的に語っているように思うのです。最後に、すみれからかかってきた電話は夢なのか現なのか?

 今度、村上春樹の『異界』巡りをしてみようかと考えています。

 私は隠れハルキストですが、次のような文章に出会うと正直文庫本を叩きつけたくなります。

『その日は久しぶりに新宿の街に出て、紀伊国屋書店で新刊書を何冊か買い、映画館に入ってリュック・ベンソンの映画を見た。それからビアホールでアンチョビのピザを食べ、黒ビールの中ジョッキを飲んだ。』

私の生活にはこうした場面は無かった^^;だけですが。
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